
自分の頭の中を言葉にできない人が増えています。会議で「なんというか……」と語尾が曖昧になったり、企画書で「いい感じの提案をする」などと抽象的な表現を使ったりする場面を目にします。言語化力は、ビジネスに欠かせないスキルです。しかし、多くの人がこの能力を十分に発揮できていません。今回は言語化が苦手な人に共通する特徴を6つ紹介し、その改善方法を考えていきます。
特徴1:結論から話そうとしすぎる
言語化が苦手な人の多くは、「結論から話さなければいけない」というプレッシャーを強く感じています。確かにビジネスの場面では、結論から話すように指導されることが多いでしょう。しかし、結論を急ぐあまり、自分の頭の中を十分に整理できていない状態で話し始めてしまいます。
たとえば、「結論から言うと、この企画は進めるべきだと思います」と切り出したものの、その理由を聞かれると「えっと、その……」と言葉に詰まってしまう。これは、結論を急ぐあまり、なぜそう考えたのかという思考のプロセスを飛ばしてしまっているからです。
本来、結論から話すためには、その結論に至るまでの道筋を十分に整理しておく必要があります。まずは自分の中で「なぜそう考えたのか」「どういう根拠があるのか」をしっかりと言語化してから、相手に伝えることが大切です。
特徴2:「わかりやすく」しようとして余計にわかりにくくなる
言語化が苦手な人の2つ目の特徴は、「わかりやすく伝えなければ」というプレッシャーから、かえって説明が複雑になってしまうことです。たとえば、一つの内容を違う言葉で何度も言い換えたり、余計な補足を加えたりしてしまいます。
「この商品は画期的な機能を持っています。つまり、今までにない新しい使い方ができるんです。要するに、従来の商品とは一線を画す特徴があるということですね」
このように同じ内容を繰り返し説明することで、かえって相手を混乱させてしまいます。わかりやすい説明とは、シンプルに核心を突いた表現をすることです。一つの内容は一つの表現で伝える。この原則を守ることで、相手の理解は深まります。
特徴3:抽象的な言葉で逃げてしまう
3つ目の特徴は、具体的な表現を避け、抽象的な言葉で逃げてしまうことです。「いい感じ」「それなり」「ある程度」など、明確な基準を示さない言葉を多用する傾向があります。
「この企画書は、いい感じにまとめておいてください」 「ある程度の成果は出ていると思います」 「それなりの規模の会社です」
これらの表現は、実際には何も伝えていません。「いい感じ」とは具体的にどういう状態なのか、「ある程度の成果」とは数字でどれくらいなのか、「それなりの規模」とは従業員数や売上でどれくらいなのか。これらを明確にしなければ、相手に正しく伝わることはありません。
特徴4:自分の感覚を疑わない
4つ目の特徴は、自分の感覚を当たり前のものとして疑わないことです。「私はこう思う」「私の感覚では」という主観的な表現を多用し、なぜそう感じるのかという根拠を示さない傾向があります。
「私の感覚では、この商品は売れると思います」 「個人的な意見ですが、この方法は良くないと思います」
これらの発言に対して「なぜそう思うのですか?」と問われると、多くの場合「なんとなく……」という答えが返ってきます。自分の感覚を言語化するためには、なぜそう感じたのか、その理由を掘り下げて考える必要があります。
特徴5:考えながら話を始めてしまう
最後の特徴は、考えながら話を始めてしまうことです。話す前に十分な準備をせず、話しながら考えを整理しようとする傾向があります。その結果、文章が途中で変わったり、言いたいことが迷子になったりしてしまいます。
「この商品の特徴は、えっと、性能が良くて、あ、でもその前に価格帯の話をしないといけないかもしれません。いや、まずは市場のニーズからですね……」
このような話し方では、相手は何が言いたいのかを理解できません。話す前に、伝えたい内容を整理し、順序立てて考えることが重要です。
特徴6:カナカナ語や流行りのビジネス用語を多用する
6つ目の特徴として、カタカナ語や流行のビジネス用語を安易に使ってしまう傾向があります。「アジャイル」「DX」「エンゲージメント」など、聞こえの良い言葉を並べることで、あたかも正しい提案をしているかのように錯覚してしまうのです。
「このプロジェクトではアジャイル的なマインドセットでコミットし、クライアントとエンゲージメントを高めながら、イノベーティブなソリューションを提供していきます」
このような表現を聞くと、一見すると専門的で説得力がありそうに感じます。しかし、実際には何をどうするのかが全く見えてきません。アジャイル的とは具体的にどういう進め方なのか、エンゲージメントを高めるとは何をすることなのか、イノベーティブなソリューションとは何を指しているのか。これらが明確になっていなければ、単なる言葉の羅列に過ぎません。
カタカナ語や流行の用語を使うこと自体は間違いではありません。ただし、それらの言葉の本質的な意味を理解し、なぜその言葉を使う必要があるのかを説明できなければいけません。「DX」と言う前に「既存の業務をデジタル化して効率を上げる」、「エンゲージメント」と言う前に「お客様との信頼関係を築く」というように、平易な言葉で説明できることが重要です。
このような傾向を改善するには、まず自分の言葉で説明する練習をしましょう。カタカナ語や専門用語を使う前に「これを小学生に説明するならどうするか」と考えてみることをお勧めします。平易な言葉で説明できてはじめて、その概念を本当に理解していると言えるのです。
改善のためのアドバイス
これらの特徴を改善するために、以下の3つの取り組みを提案します。
まず、話す前に「伝えたいこと」を箇条書きにする習慣をつけましょう。頭の中だけで整理しようとせず、必ず紙に書き出すことです。書き出すことで、自分の考えの曖昧さに気づくことができます。
次に、具体的な数字や事例を意識的に入れる練習をします。「いい感じ」ではなく「前年比120%」、「ある程度」ではなく「月間30件」というように、できるだけ具体的な表現を使うようにします。
最後に、自分が発言を録音して聞き直してみましょう。そして、ひとつひとつ自分が使っている言葉の定義をしましょう。自分自身で言葉の定義を言えないのであれば、相手に明確に伝わることはないですね。
言語化する力は、意識的に練習することで必ず向上します。まずは自分の特徴を知り、一つずつ改善していくことが大切です。すぐには変われなくても、継続的な取り組みによって、必ず成長を実感できるはずです。
この記事を書いた人
木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。
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