リーダーの仕事は責任を取ることではなく、明確に指示を出すことである。この一文に尽きると思います。

「私がすべての責任を取るから、自由にやってくれ」

これは多くのリーダーが口にするフレーズですが、実はこれほど無責任な言葉はありません。なぜなら、この言葉の裏には「具体的な指示を出すことを放棄している」という事実が隠れているからです。

「責任を取る」という誤解

ある企業の営業部長はこう語ります。「リーダーの役割は責任を取ることだと思っていました。だから部下には『失敗を恐れずにやってみろ』と言い続けてきました。でも、結果は散々でした」

なぜうまくいかなかったのでしょうか。その理由は明確です。メンバーは「何をすればいいのか」がわからないまま、とにかく行動することを求められていたのです。

失敗の本質は指示の曖昧さにある

プロジェクトが失敗したとき、多くのリーダーは「私の責任です」と頭を下げます。しかし、本当の問題は:

  • 期待する成果が明確に伝えられていなかった
  • 具体的なアクションが示されていなかった
  • 判断基準が曖昧だった

という点にあります。

成功しているリーダーの特徴

優れたリーダーに共通しているのは、以下の3点を必ず明確にしていることです:

  1. ゴールの明確化:「今期はこの数字を達成する」
  2. プロセスの明確化:「そのために、これとこれをやる」
  3. 判断基準の明確化:「この基準で判断する」

たとえば、あるIT企業のプロジェクトリーダーは、こう語ります。「私の役割は、メンバーが迷わないように道筋を示すことです。具体的な数値目標を設定し、週次でその進捗を確認します」

「自由にやれ」の罠

「自由にやれ」と言われて本当に自由に動けるメンバーはほとんどいません。ある新入社員はこう振り返ります。

「上司から『君の裁量に任せるから好きにやってくれ』と言われました。でも、何をどこまでやっていいのかわからず、毎日不安でした。結局、小さな判断のたびに確認を取るようになってしまいました」

この状況は、リーダーが責任逃れをしているだけでなく、メンバーに過度な精神的負担を強いることになります。

メンバーが本当に求めているもの

メンバーが求めているのは「自由」ではありません。以下の3つを求めています:

  1. 明確なゴール設定
  2. 具体的な行動指針
  3. 適切なフィードバック

ある営業マネージャーは、チーム改革でこう成功しています。

「以前は『顧客の信頼を勝ち取れ』と抽象的な指示を出していました。今は『初回訪問から2週間以内に提案書を提出する』『提案書には必ず3つの選択肢を入れる』など、具体的なアクションを示しています。その結果、メンバーの成約率が1.5倍に上がりました」

明確な指示の出し方

1. 数値で示す

  • 「売上を伸ばす」ではなく「前年比120%」
  • 「早めに」ではなく「3日前まで」
  • 「たくさん」ではなく「最低5件」

2. 具体的なアクションで示す

  • 「工夫して」ではなく「こことここを変更して」
  • 「検討して」ではなく「3つの案を作って」
  • 「頑張って」ではなく「毎日2件電話して」

3. 判断基準を示す

  • 「良いと思うもの」ではなく「このチェックリストを満たすもの」
  • 「センスよく」ではなく「この3つの要素を入れて」
  • 「適当に」ではなく「この基準で選んで」

成功事例:製造業A社の場合

A社では、品質管理の責任者が交代する際、こんな変化がありました。

前任者:「品質は命。絶対に不良品を出すな。責任は私が取る」
結果:報告が上がってこない、問題の隠蔽

新任者:「不良率0.1%以下を目指す。異常値が出たら12時間以内に報告。週次で対策会議を実施」
結果:3ヶ月で不良率が半減、現場からの改善提案が3倍に

リーダーの新しい役割

リーダーの役割は、「責任を取る人」から「成功のための道筋を示す人」に変わってきています。以下の3つが重要です:

  1. 明確な目標設定
  2. 具体的な行動指示
  3. 定期的な進捗確認

最後に:真の責任とは

リーダーが取るべき責任とは、失敗した後に頭を下げることではありません。メンバーが成功できるように、事前に明確な指示を出すことこそが、真の責任の取り方なのです。

そして、この「明確な指示」は決してマイクロマネジメントではありません。むしろ、メンバーが自信を持って行動できる環境を作ることこそが、リーダーの最も重要な仕事なのです。

この記事を書いた人

木暮太一 写真

木暮太一

(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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