これまでの「短く表現する」という言語化手法が、なぜビジネスの現場で役に立たないのか?
「言語化力を高めたい」と考えている方は多いでしょう。しかし、その多くが「印象的なキャッチコピーを作る力」「インパクトのあるネーミング力」「短く伝える力」だと誤解しています。実際のビジネスシーンで、このような表現力が必要になることはほとんどありません。
よくある誤解:「言語化=キャッチコピー」
「上司から『ちゃんとアピールしたいことを言葉にしなさい』と言われ、コピーライティングの本を何冊も読みました。確かにキャッチーな表現は覚えましたが、実際の商談では全く使えませんでした」
なぜでしょうか。それは「言語化」の本質を見誤っていたからです。
ビジネスで本当に必要な言語化とは
言語化とは「自分の頭の中にあるものを、相手に正確に伝わる言葉にすること」です。ビジネスの現場で必要なのは、うまい言い回しをすることではありません。ましてやキャッチコピーを作ることでもありません。
ビジネスで必要なのは、相手が買いたいと思うようになること、そして安心して買えるようになることです。そ戸で必要なのは以下の4つを明確に伝えることです:
- 提供できる価値
- 他社との差別化
- 自社の信頼性
- 具体的なアクション
価値とは何か? 差別化とは何か? なぜあなたから買うのがいいのか? など、を伝えることが大事です。表現力の話ではないんですよね。
キャッチコピーが役に立たない理由
「革新的なソリューション」「圧倒的な生産性」「驚きの効果」。これらの表現は確かに耳に残りやすいですが、実際には何も伝えていません。
あるIT企業の例を見てみましょう。「弊社の革新的なシステムで、お客様のビジネスが新たな境地に向かえます」という提案を続けていましたが、なかなか成約に至りませんでした。
しかし、「入力作業を自動化することで、経理部門の残業時間が月平均15時間削減できます」という具体的な表現に変えたところ、顧客の反応が大きく変わったそうです。
なぜ短い表現では伝わらないのか
「短く伝えることが大事」とよく言われます。確かにそれはそれで一理あります。しかし、短くすることを意識しすぎると、かえって本質が抜け落ちてしまいます。
あるメーカーさんに研修に伺った時の話です。「以前は『品質向上』『生産性アップ』など、短い言葉で指示を出していました。でも、メンバーは具体的に何をすればいいのかわからず、結局時間を無駄にしていました」
研修後は「不良率を0.1%以下に抑える」「1時間あたりの生産量を120個にする」など、具体的な数値目標を示すようにしています。それにより、メンバーがやるべきことが明確になり、自発的に期待されている行動を取るようになったと評価をいただきました。
ネーミングの罠
製品名や施策名を考えることに時間をかけすぎている組織もよく見かけます。「カッコいい名前をつければ、中身も良く見えるはず」という思い込みがあるからです。
しかし、実際に必要なのは:
- その商品で何が達成されるのか
- 他の商品ではなく、その商品を選ぶ理由は何か
- なぜあなたから買うべきなのか
これらを明確にすることです。
実践:価値を言語化する
たとえば新商品の提案をする際、以下の3点を明確にします:
- 顧客に提供できる変化: 「これまで3時間かかっていた作業が30分で終わります」
- 具体的な導入効果: 「年間の人件費が約500万円削減できます」
- 実現までのプロセス: 「2週間の試験運用を経て、1ヶ月で本格導入が可能です」
実践:指示を言語化する
部下への指示も同様です:
- 期待する成果: 「今月の売上を前月比120%にする」
- 具体的なアクション: 「既存顧客に対して新商品の提案を1日2件実施する」
- 判断基準: 「提案後3日以内に結果報告をする」
真の言語化力を身につけるには
本当の言語化力を高めるために、以下の3つを意識しましょう:
- 「どう言うか、表現するか」ではなく、「この場で何を伝えればいいか」を考えること
- 相手に伝える内容の目的を考えること(商品の価値を分かったもらいたいのか、他社との違いを理解してもらいたいのか、購入時の不安を払しょくしたいのか、など)
- 言葉の定義を明確にすること(どういう意味合いでその言葉を使っているのか、自分で明らかにすること)
最後に
キャッチコピーやネーミングに時間をかけるより、「相手に何を伝えたいのか」「どんな行動を期待するのか」を明確にすることに注力しましょう。それこそが、ビジネスの現場で本当に必要な言語化力なのです。
思い返してみてください。あなたが関わった成功プロジェクトで、決め手となったのは印象的なキャッチコピーでしたか? それとも、具体的な数値や明確な行動指針でしたか?
言語化の本質は、相手に正確に伝わることです。短く印象的な表現を目指すのではなく、まずは自分の頭の中にあるものを具体的に言葉にすることから始めましょう。
この記事を書いた人
木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。
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