リーダーが発する言葉は、組織の空気を一瞬で変えてしまう力を持っています。ある言葉は、メンバーの心をつかみ、チームの一体感を生み出し、結果的に大きな成果を引き出します。一方で、メンバーのやる気を削ぎ、組織の雰囲気を重たくしてしまうリーダーもいます。では、言葉を通じて信頼を得るリーダーと失うリーダーの違いは何なのでしょうか?
言葉が響かないリーダーの共通点
ぼくがこれまでコンサルタントとして様々な企業を見てきた中で、メンバーから信頼されないリーダーには共通の特徴があることに気づきました。言葉を選ばずに言うと、それは「言っていることが雑」ということです。
もちろん本人はそんなつもりはないでしょう。でも言葉を受け取ったメンバーからすると、「丁寧に指示を受けていない」と感じています。
たとえばこんな場面を見たことがあります。若手メンバーが提出した企画書を見たリーダーが、「これじゃダメだな。もっと相手の心に響くような内容にして」と伝えました。確かにリーダーの意図は正しいのかもしれません。でも、この言葉を受け取った若手メンバーは何をしていいかわかりません。何をすれば相手の心に響くのか、具体的な方向性が見えないからです。
リーダーは「そんなこと自分で考えてほしい」と考えているかもしれません。しかし、もしそうであればリーダーは確実に答えが分かっていて、そこに至るまでのヒントを提示できるくらいでなければいけません。もしそうでないなら、リーダーが一緒に考える必要がありますね。
問題はそれだけではありません。こういうリーダーに共通しているのは、自分の経験則だけで物事を判断してしまうことです。「自分の若い頃は、上司からこう言われて頑張った」「昔の自分なら、この程度の指示で動けた」という思い込みが、相手の立場に立った言葉を奪ってしまうのです。
さらに、こういったリーダーの多くは「自分は的確に指示を出している」と思い込んでいます。メンバーが期待通りの成果を出せないのは、メンバーの能力や意欲の問題だと考えがちです。この思い込みが、自分の言葉を振り返る機会を失わせ、悪循環を生んでいきます。
信頼を失う「両方をふさぐ言葉」
リーダーが発する言葉には、時として「両方をふさぐ」という状態が生まれます。これは、メンバーが動けない状況をさらに追い込んでしまう言葉のことです。
ぼくが以前関わった企業で、こんな事例がありました。あるリーダーは、新規事業の立ち上げを任されたメンバーに「もっと市場を見て、斬新なアイデアを出してほしい」と伝えました。一見、前向きな言葉に聞こえます。しかし、このメンバーは以前、別の企画で「現実的ではない」と否定された経験がありました。
つまり「斬新なアイデアを出せ」と言われても、どの程度斬新なら受け入れられるのか、逆にどの程度なら非現実的だと否定されるのか、その判断基準が見えないのです。そして、それを質問することもできない。なぜなら「そんなことも分からないの?」と思われそうだからです。これが「両方をふさがられている状態」です。
このような状況は、日常的に起きています。「自主的に動いてほしい」と言っておきながら、メンバーが何か提案すると必ず修正を入れるリーダー。「もっと具体的に書いて」と指示しながら、書き直した資料に「細かすぎる」とコメントするリーダー。こういった矛盾する言動が、メンバーの行動を止めてしまうのです。
信頼されるリーダーは「型」を持っている
では、信頼されるリーダーはどのような言葉を使っているのでしょうか? ぼくが気づいたのは、信頼されるリーダーには必ず「型」があるということです。
ある製造業の工場長は、必ず「目的」「アクション」「理由」の3つをセットで伝えていました。「生産ラインの効率を上げるために、この工程の人員を2名増やしてください。理由は、ここがボトルネックになっているからです」という具合です。この型があることで、メンバーは指示の意図を正確に理解し、自分で工夫できる余地も見えてきます。
別の成功しているベンチャー企業のCEOは、「課題」「打ち手」「期待値」という型を持っていました。「今の営業方法では契約率が上がらない。だから、リードの取り方を変えてほしい。具体的には、SNSからの集客に切り替えよう。それによって、見込み客の質を上げることができるはずだ」というように話すのです。
「型」があれば、見るべきポイント・重視しているポイントが分かりやすくなります。何を重視すべきかが、しっかり言語化されているわけですね。
この型があるかないかで、メンバーの理解度は大きく変わります。型を持たないリーダーの言葉は、その場その場で変化し、メンバーは毎回解読作業を強いられることになります。一方、型を持っているリーダーの言葉は、メンバーにとって「予測可能」なものとなり、理解と行動のハードルを下げることができるのです。
「指示」と「支援」を使い分ける
信頼されるリーダーのもうひとつの特徴は、「指示」と「支援」の言葉を使い分けていることです。ここの言語化もとても重要です。
ぼくがある大手電機機器メーカーで見た例を紹介します。
このリーダーは、新入社員に対して最初の3ヶ月は明確な指示を出していました。「この資料は、月曜日の朝10時までに作成してください。フォーマットはこれを使い、特にこの3点は必ず入れ込んでください」という具合です。ところが4ヶ月目からは、「この資料、どんな構成で作ろうと考えている?」と、支援の言葉に切り替えていました。
なぜこのような使い分けをしたのでしょうか? それは、最初の3ヶ月で基本的な業務の進め方を身につけてもらい、その後は自分で考える力を育てたかったからです。この使い分けによって、メンバーは安心して成長することができました。
一方で、この使い分けができていないリーダーの例も見てきました。新入社員に対して最初から「自分で考えて」「どうするつもり?」と言い続け、結果的にメンバーを不安にさせてしまうケース。逆にベテランに対しても細かい指示を出し続け、メンバーの成長を阻害してしまうケース。どちらも、信頼関係を損ねていきます。
言葉の「なぜ」を説明する
信頼されるリーダーは、自分の言葉の背景にある「なぜ」を言語化します。ぼくが以前関わった企業で、印象的な場面がありました。
あるプロジェクトで、リーダーがメンバーに「この件は、必ず他部署の〇〇さんに確認を取ってください」と指示を出しました。普通なら、ここで終わりです。でも、このリーダーは続けて「なぜかというと、3年前に似たようなプロジェクトで、確認漏れのために手戻りが発生したからです。今回は、その失敗は繰り返したくありません」と説明したのです。
この「なぜ」を知ることで、メンバーの行動は大きく変わりました。単なる確認作業と思っていたものが、重要な意味を持つものとして認識されたからです。他部署への確認も、より丁寧に行われるようになりました。
このように「なぜ」を説明することは、時間がかかるように思えて、実は組織全体の効率を上げることにつながります。メンバーが自分で判断できるようになり、同じような場面で適切な行動を取れるようになるからです。
最後に一番大切なこと
言葉で信頼を得るために、最後に一番大切なことをお伝えします。それは「相手の言葉を待つ」ということです。
先日、ある企業の研修でこんな場面がありました。リーダー研修で「メンバーの話を聞く」というテーマを扱っていた時のことです。研修参加者に「普段、部下の話をどのくらい待てていますか?」と質問すると、ほとんどの人が「待っているつもり」と答えました。
しかし、実際にロールプレイをしてみると、相手の発言の間に入って話してしまう、相手の言葉を予測して先回りして話してしまう、という場面が多く見られました。つまり、「待っているつもり」で実は「待てていない」という現実が浮き彫りになったのです。
なぜ待てないのでしょうか?
それは、沈黙が怖いからです。会話が途切れることで、自分のリーダーとしての能力が問われているように感じてしまう。だから、つい言葉を発してしまう。でも、その行動が逆効果なのです。
信頼されるリーダーは、この沈黙を恐れません。むしろ、その沈黙の中でメンバーが考え、言葉を選び、自分の意見を形作っていく時間として捉えています。「待つ」という行為は、実は最も強い信頼関係を築く言葉なのかもしれません。
リーダーの言葉は、チームの未来を作ります。だからこそ、ぼくたちは自分の言葉と向き合い続ける必要があるのです。時には失敗することもあるでしょう。でも、その失敗にも正直に向き合い、より良い言葉を探していく。それが、信頼されるリーダーへの道なのだと思います。
この記事を書いた人
木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。
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