こんにちは、木暮太一です。今日は「自分の決定に自信を持つ方法」を言語化を通じてお伝えしていきます。
人は一日に数万回もの決断を下していると言われています。その多くは無意識的なもので、「何気なく」決断しています。でも、その何気ない決断も「本当にそれでいいか?」と聞かれたら、「うっ……」となることもありますよね。
さらに、重要な案件の決断であればなおさらです。決断できずに先延ばし、なかなか前に進めないことがあります。「この判断で本当に大丈夫だろうか」「もっと良い選択があったのではないか」。そんな迷いや不安を感じるのは、実は頭の中が整理できていないからなのです。
なぜ決断に迷うのか
ぼくたちが決断に迷う理由は、じつは非常にシンプルです。それは、自分が何を基準にすればいいのかがわからないからです。
以前、ある経営者とこんな会話をしました。
新規事業の立ち上げを検討していたこの方は、「市場は確実に伸びているし、競合も少ない。でも、なんとなく不安で決断できない」と話していました。確かに調査データは良好でした。投資対効果も悪くない。参入するにはかなりいいタイミングでした。
それなのに、なぜ決断できないのでしょうか?
それは、彼の頭の中には別の判断基準もあったからです。「今の主力事業に影響が出るのではないか」「チームのメンバーが新しいことに対応できるだろうか」といった懸念です。これらが明確になっていなかったために、決断を下せなかったのです。
自分の「べき」を言語化する
決断力を高めるために最初にすべきことは、自分の「べき」を言語化することです。「べき」とは、自分が無意識的に持っている判断基準のことです。
たとえば、職場でよくある風景を考えてみましょう。「この仕事を任せていいだろうか」とメンバーへの仕事の割り振りに悩むとき、実はぼくたちの頭の中には「後輩には成長のチャンスを与えるべき」「失敗するリスクは避けるべき」といった相反する「べき」が存在しています。
これらの「べき」を明確に言語化し、優先順位をつけることで、決断が格段にしやすくなります。「今回は成長機会を優先しよう。ただし、フォロー体制はしっかり整えよう」といった具合に、バランスの取れた判断ができるようになるのです。
「当たり前」を疑ってみる
頭の中を整理する上で重要なのが、自分が「当たり前」だと思っていることを疑ってみることです。
ぼくが以前関わった企業で、こんな例がありました。新商品の開発プロジェクトで、リーダーが「品質にこだわるべき」という判断基準を持っていました。これ自体は正しそうに見えます。しかし、本当にそうでしょうか?
実際には、顧客は「最高品質」ではなく「適正品質」を求めていたのです。言われてみれば当たり前ですが、顧客は体験する前に「最高」の状態をイメージはできません。自分たちが求めている状態はイメージできますが、それ以上の「最高」はわからないんです。
つまり、その「最高」は顧客からすれば過剰スペックの可能性もあるわけですね。完璧を目指すことで、かえって開発スピードが遅くなり、市場機会を逃してしまう。この「当たり前」を疑うことで、より適切な判断基準が見えてきました。
感情と理論を分けて考える
決断を迷わせる大きな要因のひとつが、感情と理論の混在です。特に重要な決断を迫られるとき、ぼくたちの頭の中では感情的な判断と理論的な判断が入り混じってしまいます。
たとえばぼくが以前、ある企業の新規事業撤退の判断に関わったときのことです。データを見る限り、この事業の継続は難しいという結論でした。しかし、担当者は「もう少し頑張れば好転するはず」「みんなここまでがんばってきたんだから」と主張します。これは感情が理論を上回っている典型的な例です。
ここで大切なのは、感情を否定しないことです。感情と理論を意識的に分けて考えますが、むしろ抱いている感情を一旦は認めてあげることが重要です。「気持ちとしては継続したい。でも、数字から見える現実はこうなっている」というように整理することで、より冷静な判断ができるようになります。
「最悪の事態」を言語化する
決断を躊躇する大きな理由のひとつが「失敗への不安」です。ぼくたちは往々にして、漠然とした不安を抱えたまま決断を先延ばしにしてしまいます。
この不安を解消する効果的な方法が、「最悪の事態」を具体的に言語化することです。実際に起こりうる最悪のシナリオを書き出してみると、意外とそれほど致命的ではないことに気づきます。
ある起業家は、新規事業に踏み切る際に「最悪の場合、3000万円の損失で済む。その場合でも、メイン事業からの収益で2年で回収できる」と計算していました。この具体的な数字があることで、不安は「管理可能なリスク」に変わったのです。
「最悪の状態」を一旦言葉にできれば、感情的に冷静になることができます。そして冷静になった状態で判断できますね。
決断の「軸」を作る
自信を持って決断するために必要なのが、判断の「軸」です。これは、どんな状況でも変わらない自分なりの判断基準のことです。
会社によっては、これを「ビジョン」と呼んだり、「ミッション」「パーパス」と呼んだりします。いずれにしても、自分たちの指針があれば、ブレずに判断ができるということですね。
ただ、もしその指針が大きすぎるものだったら、各自の判断軸にはなりません。企業全体として「最先端の技術で、●●業界に新しい風を」と掲げていたとしましょう。方向性としてはなんとなくイメージできますが、このフレーズは非常にあいまいで、各自が何をしていいのか全く分かりません。
大事なのは、自分のチームにとっての判断軸、自分自身にとっての判断軸となるようなものを持つことです。
たとえば「顧客の価値を最優先する」という軸を持っているリーダーがいました。新商品の企画を検討する際も、社内の意見が割れたときも、常に「これは顧客にとって価値があるか?」という観点で判断します。この軸があることで、決断のブレが少なくなり、結果として自信を持った判断ができるようになります。
さらには、この「顧客の価値」を明確にすることで、より軸を強くすることができます。
顧客の価値とは、いったい何か? ぼくらが提唱している定義は、「価値とは『変化』である」です。もっと言うと、「価値とは、『顧客がやろうとして、失敗した『変化』である」です。
このように定義しておけば、自分たちがやるべきことは、「最先端の技術を提供すること」ではなく、「どこにもない商品を提供すること」でもなく、「顧客が、チャレンジして失敗したことを、一緒に実現させて上げることでは?」と考えることができます。
決断を「練習」する
自信を持って決断するためには、実は練習が必要です。小さな決断から始めて、徐々に大きな決断に挑戦していく。このステップを踏むことで、決断力は確実に高まっていきます。
具体的には、日常的な小さな決断(昼食のメニュー、会議の時間配分など)から、意識的に「なぜそう決めたのか」を言語化する習慣をつけることです。この積み重ねが、重要な決断が必要になったときの自信につながっていきます。
また、決断後の振り返りも重要ですね。自分がどういう理由(判断軸)でその判断を下したのか、結果はどうだったのか、を整理することで、次の決断に活かせる教訓が得られます。
重要なのは、成功した決断だけでなく、失敗した決断も丁寧に振り返ることです。むしろ失敗からこそ、多くの学びが得られます。「なぜその判断に至ったのか」「どの段階で見直せば良かったのか」を言語化することで、より良い決断ができるようになっていきます。
最後に
自分の決定に自信を持つことは、決して特別な才能ではありません。それは、自分の頭の中を整理し、判断基準を明確にする技術なのです。言語化することで、漠然とした不安や迷いが具体的な検討材料に変わり、より確信を持った決断ができるようになります。
重要なのは、完璧を目指さないことです。どんなに慎重に検討しても、結果を100%予測することは不可能です。大切なのは、その時点で最善と思える判断を、明確な理由を持って下すことです。
自分の頭の中を言語化する。それは、より良い決断をするための第一歩であり、自信を持って前に進むための確かな道筋なのです。
この記事を書いた人
木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。
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