多くの企業が「人材育成」や「採用」に課題を抱えています。特に中途採用において、期待通りの人材が採用できない、入社後のミスマッチが発生するという声をよく耳にします。この原因の多くは、自社が求める人材像を「言語化」できていないことにあります。

なぜ言語化できないのか

以前、ある企業で採用支援をしました。その企業の課題は、「人が定着しない」、「すぐ辞めてしまう」ということでした。よくあるケースですね。人事部のみなさんは、とにかくいい人を見つけて採用しようとがんばっていまいたが、なかなかうまくいきませんでした。

理由は簡単です。
人が辞めてしまう理由を「その人の能力不足」と捉えていたからでした。もちろん、それもあるかもしれません。でも、ぼくから見ると「能力不足」ではなく「企業が期待している能力を明確にしていないこと」が現況に思えました。

当初は、「即戦力人材が欲しい、会社を魅力的に伝える手伝いをしてほしい」と言われコンサルティングに入りました。しかし、問題はそこではないことにすぐに気付きました。

人事部長に、求める人材像についてヒアリングすると、「大手企業でマネジメント経験がある人」という答えが返ってきました。みなさんもこんな回答をしていないでしょうか?
じつはこれ、求める人材の定義を全くしていないフレーズなんです。大手企業でのマネジメントといっても、様々なケースがあり、様々なタスクがあります。

・仲の悪い組織の足並みをそろえる仕事
・新規事業を推進して、商品を世に出す仕事
・ルーティーン業務を地道にこなし、目標を達成する仕事

などなど、いろんな要素がありますね。なので「大手企業でのマネジメント経験」といっても、結局のところ何を指しているか分からないんです。だから、求めている人材が採用できないのは当たり前のことなんです。

スペックに頼る理由

採用担当者が英語力や学歴、社歴といったスペックに頼ってしまうことがあります。その状況はよくわかりますし、仕方がない部分もあります。「測りやすい」からです。TOEICのスコアや、◯◯大学卒業、△△社で×年の経験といった情報は、客観的な数値や事実として把握できます。

先ほどの企業でも、マネージャー採用時に二人の候補者がいました。一人は有名大学を出て、外資系企業での経験がある人物。もう一人は、知名度の低い大学を出て、ベンチャー企業でキャリアを積んだ人物です。面接官は明らかに前者に高い評価をつけていました。

しかし、この時に企業が求めていたのは「ゼロから事業計画を策定してメンバーを巻き込める人」「予算や人員が限られた環境でも成果を出せる人」でした。この人材を探すのに、果たして社歴だけで判断できるのでしょうか? 「判断できる」と考えることはできますが、おそらく失敗しますね。

人材要件の言語化手法

では、どうすれば求める人材像を言語化できるのでしょうか? ぼくが提案しているのは、「~~ができる人」という定義を使った三段階の具体化です。

まず第一段階は「成果を出せる人」を定義します。「月間の商談件数を現在の3倍に増やせる人」「新規提案の採用率を4割以上維持できる人」など、数値を含めた具体的な成果で表現します。

第二段階は「行動を起こせる人」の定義です。「顧客の潜在的な課題を3つ以上聞き出せる人」「技術的な専門用語を使わずに商品の価値を説明できる人」など、具体的な行動レベルで表現します。

第三段階は「能力を持っている人」の定義です。「プレゼンテーションを聞いた8割以上の人から『わかりやすい』と評価される人」「初対面の相手と30分以内に信頼関係を築ける人」など、測定可能な能力を記述します。

言語化された人材要件の効果

先ほどの企業でも、求める人材の定義を変えてから状況が大きく変わりました。

営業部門の採用で、従来は「営業経験5年以上、前職での売上1億円以上」という基準で選考していました。しかし、入社後の活躍にバラつきが出ていました。簡単に言うと、成果を出せずに3か月以内に辞めてしまう人が40%もいたのです。そこで定義を変えました。そこでぼくは、現在活躍している社員の特徴を分析し、以下のように言語化しました。

「商談の場で顧客の本音を引き出せる人」
「提案内容を、業界未経験の人にも説明できる人」
「失注の原因を3つ以上特定できる人」

この基準で採用した結果、人材の定着率が40%→85%にまで上がりました。企業が求めていることと、その人材が持っている能力がマッチしたからです。そして当然、入社後の活躍度が大幅に向上しました。

人材育成への活用

人材要件の言語化は、採用だけではなく、その後の育成にも大きく影響します。「~~~ができる人」という定義があれば、育成のゴールが明確になります。

たとえば「プレゼンテーションが上手な人」という曖昧な要件を、「経営層に対して、新規提案を15分以内で説明し、承認を得られる人」と定義します。すると、育成プランも具体的になります。その他にも、「要点を3つに絞って説明できる人」 「質疑応答で即座に根拠を示せる人」 「経営指標に基づいて投資効果を説明できる人」などがあり得ます。

これらの定義があることで、育成担当者は具体的な指導ができ、本人も成長の道筋が見えるようになります。

最後に

人材要件の言語化で最も重要なのは、スペックや履歴書的な経験ではなく、「~~できる人」を具体的に定義することです。単なるスペックや経験年数ではなく、「その人が何をできるのか」を明確にする。それが、採用と育成を成功に導く第一歩なんです。

ぼくがコンサルティングしてきた多くの企業で、この「できる人」定義を導入することで、採用基準が明確になり、育成の方向性も定まっていきました。人材マネジメントの課題の多くは、実はこの言語化で解決できます。ぜひ貴社が求める人材を、言葉にしてみてください。

この記事を書いた人

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木暮太一

(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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