
「会議で意見を求められても、うまく言葉が出てこない」
「伝えたいことはあるのに、どう表現していいかわからない」
「頭では分かっているのに、説明しようとすると混乱してしまう」
こんな経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。実は、これは決して特別なことではありません。多くのビジネスパーソンが「自分の考えを言語化することに苦手意識がある」と感じています。しかし一方で、ぼくらは「言語化」の方法をこれまで習ってきませんでした。名刺の渡し方やメールの打ち方は新入社員研修でも教えてもらえるかもしれませんが、自分の頭の中を明確にする方法は誰も教えてくれなかったのです。
と考えると、ぼくらができないのはある意味「当たり前」なのかもしれません。が、そのまま放置するわけにもいきません。言葉がスラスラ出てくるようになった方がいいですよね。では、どうすれば言葉がスラスラ出てくるようになるのでしょうか?
言葉がスラスラ出てくるようになるトレーニング方法
言葉が出てこない理由は、主に3つあります。
1つ目は頭の中が整理されていないこと、
2つ目は適切な表現方法を知らないこと、
そして3つ目は「うまく話さなければ」というプレッシャーです。
例えば、あなたが企画の説明を求められたときのことを想像してみてください。頭の中には「これは良い企画なんだ」という確信があります。でも、どこから話せばいいのか分からず、言葉が出てきません。焦れば焦るほど、余計に話せなくなってしまう。こんな経験はないでしょうか?
実は、この状況を改善するためのトレーニング方法があります。今日は、実践的なトレーニング方法についてお話ししていきます。
「頭の中を整理する」トレーニング
最初に取り組むべきは、頭の中の整理です。例えば、ある製造業の課長Aさんは、部下に「品質管理をしっかりやってください」と指示を出していました。しかし、その漠然とした指示では効果が出ません。なぜなら、Aさん自身の頭の中が整理されていないからです。
そこでAさんは、まず自分の頭の中を整理することから始めました。「品質管理」という言葉の意味を、具体的な行動レベルまで落とし込んでいったのです。
「品質管理とは何か?それは製品の寸法が規格通りであることを確認すること。
では、いつ確認するのか? 5分に1回。
どこを確認するのか? この3か所。
基準値からどれくらいずれたら報告が必要か?0.1ミリ以上」
このように、抽象的な言葉を具体的な行動に置き換えていく練習を繰り返すのです。すると、自然と指示も明確になっていきます。
この方法は、日常的な会話でも実践できます。例えば「今日の晩ご飯はおいしかった」という感想を、より具体的に表現してみましょう。「メインの魚は火の通り方が絶妙で、付け合わせの野菜の彩りも鮮やかでした。特に大根おろしのさっぱり感が全体の味を引き立てていました」
このように、漠然とした感想を具体的に言語化する練習を重ねることで、頭の中が整理されていきます。
適切な表現方法を身につける
頭の中が整理できても、それを表現する言葉を持っていなければ、うまく伝えることはできません。適切な表現方法を身につけるには、「真似る」ことから始めるのが効果的です。
例えば、テレビのニュース解説者の話し方は非常に参考になります。彼らは複雑な内容を、どのように分かりやすく伝えているでしょうか?
「今回の株価下落の背景には、大きく2つの要因があります。1つは海外市場の混乱です。特にアメリカの金利上昇が、投資家心理に大きな影響を与えています。もう1つは…」
このように、全体像を示してから詳細に入る、原因と結果を明確に説明する、具体例を交えて説明するなど、様々なテクニックが使われています。
プレッシャーを軽減するトレーニング
プレッシャーで言葉が出なくなる問題は、多くの人が抱える悩みです。ある営業部長は、月次報告会での発表が毎回大きなストレスでした。資料は完璧に準備するのですが、いざ発表となると言葉が詰まってしまうのです。
そこで彼が実践したのが、「録音」を使ったトレーニングでした。最初は誰もいない会議室で、スマートフォンに向かって話す練習を始めました。このとき重要なのは、完璧を求めないことです。言い間違えても、言い直しても構いません。とにかく話し続けることを意識します。
次に、その録音を聞き返してみます。多くの人は、自分の声を聞くことに抵抗を感じます。しかし、これは重要なステップです。なぜなら、私たちは自分が思っているよりもずっと「普通に」話せていることに気づくからです。
さらに、信頼できる同僚に協力してもらい、小規模な勉強会を開きました。ここでも完璧な発表を目指すのではなく、失敗を恐れずに話す練習を重ねました。「うまく話そう」という意識ではなく、「伝えたいことを伝える」という意識に切り替えていったのです。
その結果、月次報告会での発表も徐々に改善されていきました。完璧な発表ではないかもしれません。しかし、伝えるべき内容は確実に伝わるようになったのです。
日常生活での実践方法
これらのトレーニングは、特別な時間を設ける必要はありません。日常生活の中で実践できます。
例えば、通勤電車の中で新聞を読むとき。記事の内容を誰かに説明するつもりで、頭の中で要約してみましょう。
「今朝の一面記事は、新しい経済政策についてでした。この政策のポイントは2つあります。1つは…」というイメージです。
また、家族との会話も良い練習になります。
「今日の仕事はどうだった?」と聞かれたとき、いつもより具体的に説明してみましょう。
「うん、新しい仕事をやったよ」ではなく、「今日は新しいプロジェクトが始まってね。このプロジェクトは、~~~~の目的でやるんだけど、そのなかで私は~~~を担当することになった」というように、自分がやることを言葉にしていきます。
継続のためのポイント
このトレーニングで最も重要なのは、完璧を目指さないことです。多くの人は、「スピーチの上手な人は、話上手」「言葉が出来る人は、よどみなく話せる人」と考えています。しかしそうではありません。むしろ、言い淀みながらも、自分の言葉で誠実に語る人の方が、相手に伝わるものです。重要なのは、相手に伝えたいことがあるかどうかです。伝えたいことがあれば、それは必ず言葉になります。最初は拙い表現かもしれません。でも、それでいいのです。伝えようとする意思があれば、言葉は必ず育っていきます。
日々の仕事の中でも、意識的に実践できる機会はたくさんあります。例えば会議での発言。事前に頭の中で、「このポイントだけは必ず伝えよう」と決めておきます。最初は1つのポイントでいいのです。それを確実に伝えることから始めましょう。
徐々に発言の機会を増やしていけば、自然と表現力も磨かれていきます。「この前より、うまく説明できた」という小さな成功体験を積み重ねることで、自信もついていきます。
おわりに
言葉の力を磨くことは、単なるスキルアップ以上の意味があります。それは、自分の考えや思いを適切に相手に伝えられるようになること。つまり、本当の意味でのコミュニケーション力を身につけることなのです。
ビジネスの現場では、優れたアイデアや深い知識があっても、それを適切に言語化できなければ価値を生みません。逆に言えば、言語化する力を身につけることで、あなたの持っている能力や知識の価値を最大限に高めることができるのです。
決して特別なトレーニングは必要ありません。日常の中で少しずつ、着実に実践していくことで、必ず効果は表れます。そして、その先には「言葉の力」を武器に、新たなステージで活躍する自分が待っているはずです。
この記事を書いた人

木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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