
「やりたいこと」という呪い
最近、「やりたいことが見つからない」という悩みをよく耳にします。「上司に『やりたいことを見つけよう』と言われているけど、見つからなくて…」という相談を受けることも増えてきました。でも、実はこの「やりたいことを見つけよう」という言葉自体が、人の行動を止めてしまう曖昧な言葉なのです。
なぜ「やりたいこと」は見つからないのか
「やりたいこと」が見つからない理由は明確です。それは、「やりたいこと」という言葉が言語化されていない(明確になっていない)からです。そもそも「やりたいこと」とは何を指しているのでしょうか?
- 情熱を感じられる仕事?
- 自分の能力が活かせる仕事?
- 社会に貢献できる仕事?
- 高い報酬が得られる仕事?
この時点で、すでに「やりたいこと」の定義が人によってバラバラです。それなのに「やりたいことを見つけよう」と言われても、何を見つければいいのかわかりません。
「やりたいこと」の正体
実は「やりたいこと」の正体は、「自分が価値を感じられること」です。ただし、この「価値」も曖昧な言葉なので、さらに言語化する必要があります。価値には大きく分けて3つの種類があります:
1. 変化を与えられる価値
誰かの状況や状態を良い方向に変えられることに価値を感じる場合です。たとえば:
- 顧客の業務効率を上げる
- 困っている人の悩みを解決する
- 社会の問題を改善する
2. テンションを上げられる価値
誰かの気持ちを良い方向に変えられることに価値を感じる場合です:
- お客様に喜んでもらえる
- チームメンバーのやる気を引き出せる
- 人々に感動を与えられる
3. こだわりを持てる価値
物事の質を徹底的に追求できることに価値を感じる場合です:
- 技術の細部まで追求できる
- 完璧な品質を実現できる
- オリジナリティを追求できる
まず、自分が重視している「価値」を知る
「やりたいこと」を見つけるには、まず自分がどの価値に強く反応するのかを知る必要があります。次のような質問を自分に投げかけてみましょう:
「あなたが過去に『やってよかった』と強く感じた経験は?」 「なぜそれが『よかった』と感じたのか?」
たとえば、「先輩の仕事を手伝ってよかった」という経験があったとします。では、なぜ「よかった」と感じたのでしょうか?
- 先輩の負担が減って喜んでもらえたから?(変化を与える価値)
- 先輩に「ありがとう」と言ってもらえて嬉しかったから?(テンションを上げる価値)
- 完璧なサポートができたという達成感があったから?(こだわりの価値)
「やりたいこと」ではなく「できること」から始める
重要なのは、最初から「やりたいこと」を見つける必要はないということです。むしろ、以下の手順で考えていく方が現実的です:
- 今の自分に「できること」を書き出す
- その中から、上記3つの価値のどれかを提供できそうなものを選ぶ
- 小さく始めて、実際に価値を提供してみる
- その経験から、自分が心地よく感じる価値を見つける
「できること」を見つける問いかけ
自分の「できること」を見つけるために、次のような質問を投げかけてみましょう:
「過去1年間で、誰かに『ありがとう』と言われたことは?」 「同僚から『〇〇さんに聞けば?』と紹介されることは?」 「人と比べて、特に苦にならずにできることは?」
小さな体験から始める
「やりたいこと」は、往々にして体験から生まれます。簡単に言うと「やってみないとわからない、やってみて初めて分かる」ということです。最初から壮大な夢を持つ必要はありません。まずは自分ができることで、誰かに価値を提供する。その小さな成功体験を積み重ねていくうちに、自然と「やりたいこと」が見えてくるものです。
たとえば、「Excelが得意」という人がいたとします。その人は:
- まず同僚の作業を手伝う(できること)
- 作業効率が上がり、同僚が喜ぶ(価値の提供)
- その経験から「人の役に立つことが嬉しい」と気づく
- より多くの人の業務改善に携わりたいと思うようになる
このように、小さな一歩から始めることで、自然と「やりたいこと」が見えてくるのです。
最後に
「やりたいことが見つからない」と悩んでいる人に必要なのは、「やりたいことを見つけよう」という漠然とした励ましではありません。必要なのは:
- 「やりたいこと」の正体は「価値を感じられること」だと理解すること
- 自分の「できること」から始めること
- 小さな成功体験を積み重ねること
このステップを踏んでいけば、必ず自分なりの「やりたいこと」が見えてくるはずです。
あなたの周りに「やりたいことが見つからない」と悩んでいる人がいたら、ぜひこの視点を伝えてあげてください。きっと、新しい一歩を踏み出すヒントになるはずです。
この記事を書いた人

木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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