
社内の共通認識・共通言語があれば、組織は強くなる
名著『ビジョナリーカンパニー』には、「リーダーは時を告げてはいけない。時計を作らなければいけない」というフレーズがあります。
その都度、号令をかけるのではなく、社内の共通指針・共通認識・共通言語を作ることで、
経営者やリーダーの頭の中が一気に浸透し、組織が強くなります。
はじめに
「うちの社員は、なかなか自分の考えを持たない」
「経営者の思いが伝わらず、現場が勝手な方向に走っている気がする」
そんな声を中小企業の経営者から聞く機会が多くなっています。しかし、ぼくはそれを「社員の責任」とは捉えていません。
問題の本質は、「経営者の頭の中が、組織の中で“翻訳”されていない」ことにあると考えています。
言い換えると、経営者のビジョンや意図を、リーダーが自分の言葉で噛み砕いて伝えていないのです。さらに言えば、リーダーの頭の中も、サブリーダーやメンバーに正確に伝わっていない。結果として、組織の隅々まで方針が浸透せず、各人がバラバラの基準で動いてしまう。
では、どうすれば組織は一つにまとまり、チームが“みるみる動き出す”状態をつくれるのか?――その鍵が「リーダーが経営者の頭の中を言語化すること」です。
経営者の言葉を“解釈”して伝えるのがリーダーの仕事
経営者の考え方は、どうしても抽象的になりがちです。
「顧客第一」
「差別化」
「ブランド価値を高める」
いずれも大事なキーワードですが、それを現場にそのまま伝えても、メンバーが「じゃあ明日なにをしたらいいか?」は見えてきません。ここで必要なのが、リーダーによる「翻訳機能」です。
たとえば、経営者が「ブランド価値を高めよう」と言ったとき、リーダーは「うちのブランドとは何か? どうなったら“価値が高まった”ことになるのか? それを実現するために、現場では何をすべきか?」を自分なりに定義して伝える必要があります。この「自分なりに言語化して伝える」力こそ、リーダーに求められる本質的なスキルです。
組織は“上下の言語のズレ”で止まっている
ぼくが関わってきた組織でも、リーダーが「言語化のスイッチ」を入れただけで、組織の動きが驚くほどスムーズになった事例がいくつもあります。
大手食品メーカーでは、部長が経営層の意図を「自分の言葉」で語れるようになっただけで、メンバーの動きが一気に変わりました。
それまでは「なんとなくこれじゃダメ」と曖昧な修正依頼しかできなかったのが、
「この資料の目的は○○だから、ここはもっと□□の情報を入れて」
と具体的に伝えられるようになったのです。これができるようになると、メンバーのアウトプットは一気に精度が上がります。なぜなら「求められていること」が明確だからです。
自走型組織は、言語のバトンリレーでできている
理想的な組織とは、「社長がリーダーに考えを伝え、リーダーがそれを自分の言葉で咀嚼して、サブリーダーに渡す。そして、サブリーダーがまた現場の言葉に変換してメンバーに伝える」――そんな言語のバトンリレーができている状態です。
この構造ができると、組織はどんどん“自走”し始めます。経営者が一言一句まで現場に指示しなくても、各層が目的を理解し、自分たちで最適な行動を取るようになるからです。この状態をつくるために必要なのが、「経営者 → リーダー → サブリーダー → メンバー」という流れの中で、それぞれの階層が“自分の言葉で言語化する”ことです。言語化とは「自分が理解したことを、自分の言葉で説明できる」状態のことです。
当然と言えば当然ですが、誰かの言葉をそのまま使っていては、相手には響きませんし、組織に浸透もしていきません。ただし、多くの場面で「自分の言葉にしたつもり、自分ではわかっているつもり」になっているのが現状です。
実際、MITスローンの調査では「経営戦略を理解している」と答えた管理職の97%のうち、具体的に5つの戦略を答えられた人はわずか25%だったという報告もあります(Sull, D., Homkes, R., & Sull, C. (2015). Why Strategy Execution Unravels—and What to Do About It, Harvard Business Review)。つまり、「理解したつもり」でも、「言語化できていない」ことが非常に多いのです。
リーダーが言語化できていないまま現場に指示を出すと、メンバーは「自分なりの解釈」で動くしかなくなります。その結果、チーム内で方針がズレ、責任の所在も曖昧になり、最終的には成果もバラついてしまいます。
言語化とは、“行動につながる明確化”である
ここで強調しておきたいのは、「言語化=うまく話すこと」ではない、という点です。言語化とは、“相手が何をすればいいか明確になること”。つまり、最終的に「行動」に落ちることです。
「わかりやすいプレゼンをして」「もっと顧客視点で」では不十分です。言語化された指示とは、「このプレゼンでは、3秒で商品の魅力が伝わるように、最初にビジュアルを出して」「この提案書では、顧客が現状どんな課題を持っているかを冒頭に書く」といったレベルの具体性です。これができるようになると、メンバーの動きは格段に速くなり、指示に対する戻り(修正ややり直し)も激減します。
そして、それができれば曽木が大きく変わります。リーダーが言語化できる組織には、次のような変化が生まれます:
- メンバーの判断力が高まり、いちいち確認しなくても動けるようになる
- 「やり直し」が減り、アウトプットの質が安定する
- チーム全体が共通の基準で動けるようになり、ぶれなくなる
- 上司も部下も、余計なストレスが減る
これらはすべて、「リーダーの言語化力」から始まります。
「組織の未来は、リーダーの言葉で決まる」、ぼくはそう感じています。経営者がいくら組織を引っ張っていこうとしても、現場のリーダーが動かなければ力が発揮されません。
多くの組織は、「能力不足」ではなく、「言語の不一致」で止まっています。経営者が掲げるビジョンが組織に伝わっていないのは、それを翻訳するリーダーの言葉が曖昧だったり、ズレていたりするからです。この“言葉の接続”が整えば、組織は誰に命令されなくても、自ら動き始めます。
――あなたのチームは、経営者の考えを、どこまで“あなたの言葉”で伝えられていますか?
ここに、組織変革の最初のスイッチがあります。
この記事を書いた人

木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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