言語化スキルを鍛える効果的トレーニング方法

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現代のビジネス環境では、自分の考えを明確に考え、明確に伝える「言語化スキル」が欠かせないものとなっています。言語化スキルとは、頭の中のアイデアや情報を整理し、明確な言葉で他者に伝達する能力のことです。この能力はいわゆる「ホウレンソウ」からプレゼンテーション、営業、日常のチームコミュニケーションまで、あらゆる業務の土台となります​。本記事では、言語化スキルの重要性を示す国内外の調査データを紹介し、全社員を対象にそのスキルを鍛えるための具体的かつ効果実証済みのトレーニング手法やアプローチ、そして企業での導入事例について解説します。

言語化スキルの重要性を示す国内外の調査データ

言語化を含むコミュニケーション能力がなぜ重要視されるのか――その理由は各種調査データからも明らかです。以下の表に、コミュニケーション不足やスキル不足がもたらす影響と、効果的なコミュニケーションのメリットに関する主なデータをまとめました。

指標・統計内容
失敗の主因従業員と経営層の86%が、職場の問題の主な原因として、効果的な連携・コミュニケーションの欠如をあげています。
生産性への影響コミュニケーションが円滑なチームは、生産性がそうでないチームより最大25%向上し得ると報告されています。
企業への損失コミュニケーションが十分でないために発生している生産性損失は、従業員一人当たり年間1万~5.5万ドル(約130万~720万円)に及ぶとの試算されています。
採用で最重視されるスキル世界の採用担当者の**57%が「最も求める人材要件はコミュニケーション能力」**と回答しており、他のスキルを上回っています。
顧客への影響68%の顧客が「担当者のコミュニケーション不足」を理由に取引企業から競合他社へ乗り換えた経験があると報告されています。

※出典:​https://pumble.com/learn/hub/communication/

このように、言語化(コミュニケーション)スキルの欠如は生産性や業績の低下、社員のストレス増大、ひいては顧客離れにまで直結する重大な課題です。一方で、言語化スキルを含むコミュニケーション能力を高めれば、組織に多くのメリットをもたらします。
実際、社内コミュニケーションが改善されると「無駄なやりとりに費やす時間が減り生産性が上がった」と感じたビジネスリーダーは64%にのぼり​、コミュニケーションの改善によって仕事のストレスが軽減し、職務満足度が向上する傾向も指摘されています​。

長期間の研修でなくとも成果が出ています。わずか2時間のコミュニケーション技能研修であっても、職場で「互いに協力して問題解決にあたる」行動が有意に増加したことが確認されています​。以上のデータからも、全社員の言語化スキル向上が企業にとって投資に値する重要テーマであることは、ほぼ疑う余地はないかと思います。

言語化スキルを鍛える効果的なトレーニング手法

言語化スキルは一朝一夕に身につくものではありませんが、適切な手法を用いたトレーニングによって着実に鍛えることが可能です。
ここでは、有効性が実証された具体的な研修手法やアプローチをいくつか紹介します。それぞれ全社員を対象に実施しやすい工夫がなされており、企業での導入事例も存在します。

1. 実践型ワークショップとフレームワークの活用

実践を通じて学ぶ研修は言語化スキル向上に大きな効果を発揮します。例えば、当社で実施したコミュニケーション研修(説明力研修)では、受講者自身の業務課題をテーマにグループワークを行っています。思考を整理して明確なアウトプット(文章や提案)を作成する実践型の社員研修です​。この研修では誰でもすぐ使えるシンプルなフレームワークが提供され、参加者はその型にはめて自分の考えを整理・表現するトレーニングを積みます​。実績として累計3万人以上が受講し、200社以上の企業が導入しています​。

導入企業の一つである日興システムソリューションズ様では、研修後に以下のような効果が報告されました​

報告の質が向上:「要点が整理され、短時間で伝わるようになった」​
文章での説明力も向上:「メールや資料作成にも活かせるようになった」​
共通のフレームワーク言語が定着:社員同士でフレームを使った会話が増え、認識齟齬が減少​した

このように、全員が共通の思考フレームを身につけると組織内のコミュニケーション効率が飛躍的に向上します。ポイントは、単に座学で理論を学ぶのではなく、社員が自ら課題を言語化し解決策を考えるワークに没入することです。自社の具体的な課題を題材にすることで研修内容が腹落ちしやすく、研修後も反復して実践・定着させやすいメリットがあります​。

研修内で活用される代表的な言語化フレームワークに「PREP法」があります。PREP法とはPoint(結論)→Reason(理由)→Example(具体例)→Point(結論の繰り返し)という構成で話す/書く手法で、シンプルながら論理的に伝えやすい型として知られています​。ただし、このPREP法はプレゼンなど段取りがある程度決まっている場でのプレゼン話法に近いです。

当社では、このPREP法を応用し、テンプレップの法則を伝えています。テンプレップの法則とは、まず「話のテーマ」を伝え、次に「伝えたいことの数」を伝えてから、PREPの順番で話すことで、日常会話が格段にわかりやすくなるという法則です。

このフレームを意識することで、「そもそも何の話をしているのか?」「結論は何か」「根拠は何か」を自然と整理できるようになり、話や文章のわかりやすさが圧倒的に向上します​。さらには、言いたいことの数を先に伝えることで、いくつのことを言おうとしているのかを相手が準備したうえで話を聞くことができます。

これにより全体像と論理の筋道が一目で明確になり、複雑な内容でも理解・説明しやすくなります。社員全員・チームメンバー全員でこれらフレームワークを学び、共通言語として使うことは、組織内コミュニケーションの質を底上げする有効策と言えるでしょう​。

2. Amazonは会議でパワーポイントを禁止している~ライティングトレーニングと文書文化の醸成

「書く」ことは「考える」こと――まさにこの信念に基づき、社内コミュニケーション研修にライティングを取り入れる企業も増えています。文章に思考を書き起こす訓練は、自分の考えを論理的に整理し、本当に伝えたいポイントを見極める絶好の方法です。実際、米国Amazon社の有名な取り組みとして会議でのパワーポイント禁止と6ページ文章メモの活用が挙げられます。Amazonでは2004年からプレゼン資料はすべて文章で作成する文化を根付かせており、ジェフ・ベゾス氏は「6ページに及ぶ物語調のメモを書き上げるには、明確な思考なくして不可能だ」と語っています​

口頭や箇条書きのスライドでは、単語を並べて伝えたつもり、わかったつもりになってしまいがちです。しかし文章にすれば論理の飛躍や情報不足が浮き彫りになり、著者自身が考えを深めざるを得ません。Amazonではメモ作成に相当な時間を割き、同僚同士で下書きを回覧してブラッシュアップするプロセスを経ますが、その分「最終的には圧倒的に明確で質の高い提案ができ、結果的に時間の節約になる」とベゾス氏は述べています(出典:quartr.com)

書くことで頭も整理され、同時に曖昧な個所が浮き彫りになり、「明確にしなければ」という意識が働きます。このような文章文化の醸成は、従業員全員の言語化スキル向上につながる有効なアプローチです。日本企業でも文章を書いて思考を整理する風土を取り入れている例があります。例えばトヨタ自動車の「A3レポート」は、有名な問題解決と報告のための文書フォーマットです。A3用紙一枚に現状、課題、原因分析、解決策、行動計画を簡潔にまとめるもので、トヨタでは新人社員を含む全社員がA3形式での報告・提案を書く訓練を受けるそうです​。このA3報告プロセスは単なるテンプレートではなく、社員に徹底した思考の整理と「ストーリーとして伝える」意識を根付かせるコアな教育手法となっているようです。
実際にトヨタで10年間A3指導に携わったシニアアドバイザーの証言によれば、「新人は皆A3による問題解決にコーチを受ける。問題解決の過程そのものが学習体験となり、A3を書けば書くほど思考プロセスが洗練されていく」といいます​。まさに書く訓練とOJTを組み合わせた言語化スキル育成の好例と言えますね。トヨタではこのA3活用が組織的に体系化されており、問題解決とコミュニケーションの両面で社員の基礎力を鍛える柱となっています​。

ライティングトレーニングを全社員に広げる方法としては、他にもビジネス文書研修メールの書き方研修があります。
例えば、自社の過去の成功事例や失敗事例を題材に「要約レポートを書かせる」「提案書を作成させる」といった演習を行い、上司や講師がフィードバックする形です。これにより、社員は簡潔で伝わりやすい文章の型を身につけるとともに、伝えたいポイントを常に意識して書く習慣が培われます。研修後も、社内報告書やナレッジ共有の記事などで文章の質を競う仕組みを導入すれば、継続的なスキルアップにつなげることができます。

3. 対話型トレーニングとフィードバック

言語化スキルは双方向のコミュニケーションの中でも磨かれます。社員同士、あるいはトレーナーとの対話を通じて自分の考えを表現し、相手の反応から学ぶ方法です。その代表的な手法がロールプレイ形式のトレーニングメンタリングです。

ロールプレイでは、例えば「上司への報告場面」「顧客への提案説明」などを想定し、社員同士で役割を決めて模擬対話を行います。発言者は限られた時間で要点を伝える練習になり、聞き手はわかりにくかった点や良かった点をフィードバックすることで、お互いに学習ができます。特に伝言ゲーム的に他の第三者に内容を伝え直す(要約練習)などの工夫をすると、より一層「正確に伝える」力が鍛えられます。

このような演習と振り返りのプロセスは、認知行動療法(CBT)の原理にも通じており、実証研究でも効果が示されています。前述の日本でのランダム化比較試験では、2時間の対話式コミュニケーション研修を実施したところ、「他者と一緒に問題解決に取り組む」姿勢が有意に高まっただけでなく、その効果量も中程度ながら確かなものだったと報告されています​。さらに研修後のフォロー面談などで仕事上の具体的な会話を振り返りフィードバックすることで、研修効果の持続・深化が期待できます。
一方、メンタリングは新人や若手社員に対し、先輩社員が日常業務の中で継続的に指導・助言する仕組みです。トヨタの例で言えば、新人は配属後すぐに先輩によるA3作成指導を受け、自分の考えを文章化しては添削を受けるというサイクルを回します​。

このようにマンツーマンで言語化の「型」や思考プロセスを叩き込むことは非常に効果的で、社員は単なるテクニック以上の「ものの考え方」を体得できるというわけですね。

メンタリングはOJTとして実施しやすく、全社員規模でも各部署で展開することで組織全体の底上げが図れます。ポイントはメンター自身も標準化されたフレームワークやフィードバック手法を共有しておくことで、指導内容にばらつきが出ないようにすることです。

4. 継続学習とテクノロジーの活用

言語化スキル向上には継続的なトレーニングが不可欠です。一度研修して終わりではなく、日常業務の中で反復練習する仕組みを取り入れましょう。例えば、週に一度3分間スピーチや日報要約を書く場を設ける、社内SNSで「今週の要約王」といったイベントを行うなど、ゲーム性を持たせて習慣化する方法があります。

また、テクノロジーの活用も新たなアプローチとして注目されています。当社でも生成AIを使った文章作成支援ツール(「言語化先生」)を開発しました。文章のわかりやすさをチェックするアプリは、社員の言語化トレーニングをサポートする心強い存在です。最近では、社内コミュニティで課題相談を投稿する際にAIが文章化を手伝ってくれるサービスも登場していますね。​

例えば、自社内で社員が課題を共有するプラットフォームにおいて、AIが「問いの立て方」や「背景情報の整理」を提案してくれることで、自力でうまく言葉にできない社員も適切な言語化の型を学習できるというわけです。さらに、オンライン学習教材(eラーニング)でコミュニケーションスキル講座を提供し、クイズ形式でフィードバックを受けられる仕組みなども有効でしょう。重要なのは、学んだスキルを繰り返し使い、フィードバックを受け、修正するPDCAサイクルを個人でも回せるようにすることです。それを支援するツールや場は積極的に活用すべきです。

研修導入事例:企業での活用と成果

上記で触れた手法のいくつかは、既に企業で導入され効果を上げています。その具体例をもう少し詳しく見てみましょう。

  • 日興システムソリューションズ株式会社(金融IT) – 若手社員を対象に言語化スキルを磨くために当社の「説明力研修」を導入。シンプルで実践しやすいフレームワークにより受講直後から業務に活かせる内容が評価され、研修後は報告・会議の効率向上や文章作成力アップといった成果が得られました。社員同士で共通の伝達の型を持てたことで、研修後も効果が持続しやすかったようです。
  • トヨタ自動車 – 新入社員研修においてA3レポートによる問題解決トレーニングを実施。配属先で実課題を与え、メンター指導の下A3用紙一枚に考察をまとめることを繰り返します。これにより新人は論理的思考と簡潔な報告スキルを徹底的に叩き込まれ、「A3を何度も書くうちにA3思考そのものが身についた」との声もあります​。A3という統一フォーマットは上司・同僚との共通言語ともなり、問題解決プロセスが組織に標準化されている点が特筆されます。
  • Amazon(日本法人含む) – 前述の通り6ページメモによる提案文化を全社で徹底しています。新規アイデアやプロジェクト提案はすべて文章で提出し、会議冒頭で全員がそのメモを黙読してから議論します。これにより、プレゼンの巧拙ではなく内容の論理性で勝負する文化が醸成され、社員は書く訓練を通じてクリアな思考と説明力を磨いているといいます。この取り組みは「書く文化が企業の強みにつながる」好例として世界的にも注目されています。
  • 医療・教育業界など – たとえば医療従事者向けのコミュニケーション研修では、研修後に業務上の自己効力感が高まり、仕事の質や職場満足度が向上したとの報告があります​。また学校教育の場面でも、ディスカッションや説明練習を取り入れることで生徒の思考力・表現力が伸びることが実証されています。
  • 以上の事例から、言語化スキル向上の研修は業種を問わず有効であり、実際に多くの企業・組織で成果が出ています。それぞれの現場に合わせて手法をカスタマイズしつつ、共通するのは「全員が参加し、共通の型や言語を持つこと」「実践とフィードバックを重視すること」です。

言語化スキル研修の効果と日本での活用可能性

最後に、言語化スキル研修の効果を裏付ける海外の知見と、日本企業での活用可能性についてまとめます。

アメリカの調査では「従業員の55%が『効果的な伝達のために時間をかけすぎている』と感じている一方で、コミュニケーション改善によって58%が『仕事の満足度が高まった』」と回答しています。つまり、言語化スキルを高めることは社員個人のウェルビーイングにも寄与し、結果的に組織全体のエンゲージメントや離職防止にもつながると期待できます。
日本のビジネス文化は従来「行間を読む」ことや暗黙知での連携を重視する傾向があると言われてきました。しかし、近年の働き方改革やリモートワークの普及により、誰もが明確な言葉で意図を共有する必要性が飛躍的に高まっています。幸い、上述したような研修プログラム(例:言語化プログラム​)は既に日本企業で数多く導入され成果を上げていますし、トヨタのように日本発で体系化された手法も存在します。これらを参考に、自社の状況に合わせた言語化スキル研修を設計・導入する余地は大いにあるでしょう。特に、日本人社員は真面目で研修に対する適応力も高いため、明確にフレームワークを示してトレーニングすることで短期間でも大きな効果を発揮する可能性があります​。

また、日本語ならではの曖昧表現や遠回し表現をどう平易な言葉に言い換えるか、といった言語化のコツも研修で教えることができます。例えば「ご教示いただけますと幸いです」ではなく「教えてください」と言う方が誤解なく伝わる、といったビジネスメールの具体例を示すだけでも新人には有益です。海外のコミュニケーション研修ノウハウと日本企業の文化を融合し、日本人に合った形での言語化スキル研修を行うことが理想です。

まとめ

言語化スキル(明確に考え、明確に伝える力)は、すべての社員が備えるべきビジネス基盤スキルであり、これを組織的に育成することは企業の生産性向上と競争力強化に直結します。海外の調査が示すように、コミュニケーション力の向上はチームのパフォーマンスを高め​、ミスや無駄による損失を減らし​、社員のエンゲージメントや顧客満足度までも向上させる鍵となります。​

また「明確な文章を書けること」は「明確に考え抜いた証」であり、社員一人ひとりがそのような力を身につければ組織全体がより賢く動けるようになります。言語化スキルは研修と日々の実践によって鍛えることができます。本記事で紹介した実践ワークショップ型研修論理思考フレームワークの習得ライティングトレーニング対話練習とフィードバックといったアプローチは、いずれも効果が実証されており、多くの企業で導入されています。自社の課題に合わせてこれらを組み合わせ、研修後も継続的な練習の場やフォローアップを用意することで、社員の言語化スキルは確実に向上するでしょう。

最後に、言語化スキル向上への投資は職場の風通しを良くし、イノベーションを生み出す土壌を育む投資でもあります。曖昧さを排し、誰もが「言いたいことが伝わる」組織風土を築くことができれば、新しいアイデアの共有や問題発見もスムーズになり、変化の激しい時代において強い組織となるはずです。ぜひ今回紹介した手法や事例を参考に、自社での言語化スキル研修の実践を検討してみてください。

この記事を書いた人

木暮太一 写真

木暮太一

(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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