
ぼくが最近いろんな企業で研修やアドバイザーとして関わる中で、ここ数年で必ず出てくるキーワードが「心理的安全性」です。みんな「心理的安全性を高めたい」「チームに心理的安全性が不足している」と口を揃えます。心理的安全性が高まればチームの生産性も上がり、離職率も低下するというデータもあり、これからの組織運営には欠かせないキーワードになっていますね。
でも、よくよく聞いてみると「心理的安全性」という言葉自体、何を指しているのかよくわかりません。明確になっていないんです。明確になっていないフレーズを使っているので、当然ながら実行に移せないし、状況も改善しません。何をしたら「心理的安全性が高まった」ことになるのか?これを明確にしないままでは、いくら「大事だ大事だ」と言っても意味がありません。
この記事では、職場での心理的安全性を言語化し、それを高めるための具体的な7つのステップについて解説します。
◆心理的安全性とは何なのか?
よく勘違いされるのですが、心理的安全性とはメンバーが「安心」している状態ではありません。心理的安全性が高い職場だからといって、みんなが精神的に安定しているわけではないんです。
心理的安全性とは、「失敗を批判される恐れなく、自分の意見やアイデアを表明できる状態」を指します。これはハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念で、チームのパフォーマンスに大きな影響を与えることが明らかになっています。
仮に自分の発言が間違っていたとしても「バカなこと言うな」と否定されることがない。そんな環境があれば、メンバーはどんどん新しいアイデアを出すようになります。そして、失敗を恐れずにチャレンジするようになります。結果的に、イノベーションが生まれやすくなるんです。
ここでポイントなのは、心理的安全性とは「メンバーの気持ちを優先すること」ではないということです。むしろ、組織のパフォーマンスを高めるための重要な要素なんです。「心理的安全性」を単なる「みんなに優しくしましょう」というフレーズとして捉えていると、本質を見失ってしまいます。
◆職場における心理的安全性の重要性
現代の職場では、心理的安全性の重要性がますます高まっています。なぜでしょうか?
ひとつは、仕事の性質が大きく変わったからです。かつての工場労働のように、決められた作業を正確に繰り返すことが求められる仕事は減少しています。代わりに、創造性や問題解決能力が求められる仕事が増えているんです。こういった仕事では、メンバーが自由に意見を出し合い、失敗から学ぶことが不可欠です。
もうひとつは、環境変化のスピードが急激に速くなったことです。グローバル化やデジタル化により、ビジネス環境は日々変化しています。このような変化に対応するためには、従業員が柔軟に対応し、創造的な解決策を見つける力が求められます。心理的安全性のない職場では、メンバーがリスクを取ることを恐れ、新しいアイデアを提案することが少なくなります。そうなると、変化に対応できず、競争力を失ってしまうんです。
心理的安全性が高い職場では、メンバー同士のコミュニケーションが活発になり、協力し合う風土が醸成されます。これにより、チームのパフォーマンスが向上し、組織全体の成果も向上します。
◆心理的安全性がもたらすメリット
心理的安全性が高い職場環境では、具体的にどんなメリットがあるのでしょうか?
まず、メンバーの創造性が向上します。「変なこと言ったらどう思われるだろう?」という恐れがなくなるので、新しいアイデアが次々と生まれます。これがイノベーションにつながり、市場での競争力が高まるんです。
次に、メンバーのストレスが軽減され、メンタルヘルスが向上します。「失敗したらどうしよう」「上司に怒られたらどうしよう」という不安がないので、メンバーは精神的な余裕を持って仕事に取り組めます。その結果、生産性が向上し、病気や欠勤のリスクも減少します。
最後に、エンゲージメントが高まります。自分の意見やアイデアが尊重される環境では、メンバーは仕事に対して強い責任感と主体性を持つようになります。「自分の意見が組織の意思決定に反映される」と実感できれば、より積極的に仕事に取り組むようになるんです。
ただし、心理的安全性を高めることは簡単ではありません。「じゃあ、明日から意見を言い合う文化にしよう!」と言ったところで、すぐに変わるものではないんです。心理的安全性を高めるには、地道な取り組みが必要になります。
◆信頼関係の構築に向けた7つのステップ
ここからは、心理的安全性を高めるための具体的な7つのステップを解説します。これらのステップを実践することで、チームの信頼関係を築き、心理的安全性を高めることができます。
◆ステップ1:「意見を言って」と問いかけても言えない:オープンなコミュニケーションを促進しよう
オープンなコミュニケーションは、心理的安全性の基盤となります。リーダーは、メンバーが自由に意見を述べられる環境を整えることが重要です。
具体的には、定期的なミーティングやフィードバックセッションを設けましょう。ただし、単に「何か意見はありますか?」と聞くだけでは不十分です。そう聞かれても、みんな「特にありません」と答えてしまいますよね。「何かある?」では何も言えないのです。
リーダー自身がオープンにコミュニケーションを取る姿勢を示すことが大切です。そしてそのために、リーダーからメンバーが考えていそうなことを例として出します。アンケートを取るように、「Aだと感じている? もしくはBかな? もしくはこの場合は、AでもBでもなく、Zだというイメージ?」と、選択肢を提示して問いかけてあげることが大事です。オープンクエスチョンで聞かれても答えづらいことでも、選択肢を提示されれば答えられます。
これをみんなに問いかけて聞いてみることが大事ですね。たとえば、ミーティングで順番に一人ずつ意見を述べてもらうといった工夫をしてみましょう。
◆ステップ2:フィードバック文化の確立
フィードバックは、チームの成長と改善に欠かせない要素です。しかし、多くの日本企業では、フィードバックが十分に行われていません。「言わなくても分かるだろう」「角が立つから言わない方がいい」という考え方が根強く残っています。
フィードバック文化を確立するためには、まず具体的で建設的な内容を心掛けることが重要です。「もっと頑張れ」ではなく、「このプレゼンは○○の部分が良かった。次回は△△についても触れると、さらに良くなるかもしれない」というように、具体的な改善点を示すことが大切です。
ただし、フィードバックをするためには、あらかじめ「何をしてほしいか」を明確に伝えておかなければいけません。指示をされてないのに改善項目を「指摘」されたら、メンバーは「自分なりに考えてやったのに、今更なんだよ……」とストレスを抱えてしまうでしょう。もしあらかじめ伝えていない内容について、改善をしてもらいたいなら「ごめん、ここは伝え漏れていたけど」と必ず前置きをしなければいけません。
◆ステップ3:多様性の尊重と受容
多様性は、チームの創造性とイノベーションを高める要素です。しかし、ただ「多様性を尊重しましょう」と言うだけでは不十分です。具体的にどう行動すればいいのかが分からないんです。
何をすればいいのか? 真っ先に思いつくのが、リーダーは多様な意見や視点を積極的に求める姿勢を示すということです。誰も意見を言わなかったとしても「みんな同じ意見だね」で終わらせてはいけません。あえて、「別の視点から見るとどうだろう?」「反対意見はないかな?」と問いかけてみましょう。
もっと大事なのは、自分の考えに反対する人たちの視点をほめることです。「認める」ではなく「ほめる」が大事です。「認める」だと、「君らが考えていることもわかるけど、このケースは違うんだよ」と言うフレーズに落ち着いてしまいます。これで相手が「認められた」と思うことは少ないでしょう。そうではなく、「そういう視点を示してくれた、違う見方を持っていることはよく考えている証拠だと思う」など、褒めてください。
そして、仮に相手がかなり的外れな考えを持っていたとしても、「そう感じること、考えること」自体は、相手の自由であることを伝えなければいけません。仮にメンバーが「面倒な客はウザいから、全員出入り禁止にしちゃいましょうよ」と言って来たとします。これはビジネスとしてはふさわしくない言葉だと感じます。しかし、ここで「ふざけるな! バカ者!」と言ってはいませんし、「お客さんあっての商売だから、その考えはよくない」と諭すのも注意が必要です。
相手の考え自体を否定することは、相手の発想を、さらには相手の人格を否定することにつながりかねません。そう考えること自体は、その人の自由です。また、お客さんを「ウザい」と感じることが合ったとしたら、それもその人の自由です。修正すべきは、行動です。相手の考えや感情を修正するのではなく、相手がしたこと・これからしようとすることを修正していきましょう。
◆ステップ4:失敗を恐れない環境の整備
失敗を恐れない環境を整えることは、心理的安全性を高めるために非常に重要です。ただ、「失敗していいよ」と口で言うだけでは、メンバーは安心できません。行動で示すことが必要です。
まず、リーダー自身が自分の失敗を共有することから始めましょう。「実は先日、ぼくはこんなミスをしてしまった」と率直に話すことで、「失敗しても大丈夫なんだ」という安心感をメンバーに与えることができます。
次に、失敗から学ぶ姿勢を示しましょう。そしてそのために、「失敗の共有」で終わらずに、「改善」に焦点を当てましょう。これを失敗した、これがうまくできなかったという過去をいくら共有しても、それで終わっていては意味がありません。大事なのはその経験から改善できることを見つけ、そして実際に改善することです。「反省会」を開いている時間があったら、「改善会」を開きましょう。過去を責めるのではなく、同じようなミスが起きないように、何を改善すればいいかを考えた方が、よっぽど心理的安全性も高まりますね。
◆ステップ5:チームビルディング活動の実施
チームビルディング活動は、メンバー間の信頼関係を築くために非常に効果的です。ただし、単に「飲み会で仲良くなろう」というだけでは不十分です。目的を持った活動が必要です。
まず、チームビルディング活動の目的を明確にしましょう。「コミュニケーションを活性化させる」「お互いの強みを知る」「信頼関係を構築する」など、何を達成したいのかを明確にすることが大切です。その時には、全員が参加しやすい活動を選びましょう。飲み会だけでなく、ワークショップやゲーム、スポーツなど、多様な活動を取り入れることで、より多くのメンバーが参加しやすくなります。
また、チームビルディング活動では、普段の仕事とは違う一面を見ることができます。「あの人はこんな特技があったんだ」「意外と〇〇さんは面白いな」といった発見が、メンバー間の理解と尊重を深めるきっかけになります。
◆ステップ6:リーダーシップの発揮
心理的安全性を高めるには、リーダーの役割が極めて重要です。リーダーがどう振る舞うかで、チームの雰囲気は大きく変わります。
まず、リーダーは「聴く」姿勢を示しましょう。メンバーの意見を最後まで聴き、理解しようとする姿勢が大切です。そしてこの時に注意したいのが2点です。
1)聞くのは「情報」と「相手の感情」の2つだということ
2)相手の感情を聞くときには、あえて相手の「言い訳」を聞いてあげること
「相手の話をよく聞きましょう」と言われますが、それは相手が持っている情報のことではなく、ほとんどの場合は「相手がどう感じているか」の感情部分です。多くの組織で、リーダーは部下メンバーから情報だけ聞き、話を聞いたつもりになっているのではないでしょうか?
また、相手の感情を聞く際にも、ポジティブな感情しか聞こうとせず、ネガティブな感情は「そんな愚痴を吐くな」「それは言い訳だろ」と切り捨てるケースを多く見てきました。これでは聞いていることになりません。「なるほど、そういうことか」「もっと詳しく教えてくれる?」と、言い訳とも思える相手のマイナスの感情に関心を示すことで、メンバーは「自分の意見が尊重されている」と感じることができます。
◆ステップ7:継続的な振り返りと改善
心理的安全性は一度確立すれば終わりではありません。継続的な振り返りと改善が必要です。
定期的にチームの状態を確認しましょう。「最近、みんなどう感じている?」「もっと改善できることはある?」と問いかけることで、問題点を早期に発見し、対応することができます。
また、心理的安全性を測定する方法も取り入れるといいでしょう。たとえば、「自分の意見を自由に述べられると感じるか」「失敗しても批判されないと感じるか」などの質問に回答してもらい、数値化することで、改善の度合いを可視化できます。
さらに、成功事例を共有することも大切です。「〇〇さんが自分の意見を言ってくれたおかげで、このプロジェクトがうまくいきました」というように、心理的安全性が成果につながった実例を示すことで、その重要性をチーム全体で認識できます。
◆おわりに
心理的安全性を高めることは、チームのパフォーマンスを向上させるための重要な要素です。ただし、それは一朝一夕で達成できるものではありません。地道な取り組みを継続することが必要です。また、心理的安全性は「仲良しクラブ」を作ることではないということを忘れないでください。時には厳しい意見も交わされますが、それが互いの成長につながるという認識を共有することが大切です。
ここで紹介した7つのステップを実践することで、チームの信頼関係を築き、より良い職場環境を創造することができます。心理的安全性を高める取り組みを継続し、チーム全体のパフォーマンス向上を目指しましょう。「言語化されていなければ、実行に移せない」というのが、ぼくの基本的な考え方です。心理的安全性を言語化し、具体的なアクションに落とし込むことで、初めて実現への道が開けていくのです。
この記事を書いた人

木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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