
最近になって、よりロジカルシンキング(論理的思考)はビジネスパーソン必須のスキルとして注目されるようになっています。複雑化する課題に対し、筋道立てて考えることで効率的に解決策を導き出す、意思決定やコミュニケーションの質を高められる、感覚的な発言ではなくしっかりと筋道を立てて説明できる、などの目的のためにロジカルシンキングを身に着けようとしていますね。
ロジカルシンキングの定義とビジネスにおける重要性、具体的なメリット、そしてロジカルシンキングでは対応しきれない領域や誤解されがちな点について詳しく解説します。
ロジカルシンキングとは何か
ロジカルシンキングとは、筋道を立てて矛盾なく物事を考え、結論を導き出す思考法のことです。事実やデータに基づいて物事を体系的に整理・分析できるようになること、そして同時に感情に左右された判断や曖昧な推論、誤った前提を排除できるようになること、論点を明確にしながら正しい結論を導けるようになることが主目的と言えるかもしれません。
簡単に言えば、「根拠」と「結論」をはっきりさせ、論理のつながりを意識して考えることです。ビジネスの現場では、これにより自分の考えを他者に納得してもらうための客観的で筋の通った説明ができるようになります。
ビジネスにおいてロジカルシンキングが重要な理由
ビジネス全般でロジカルシンキングが重視されるのは、問題解決や意思決定、対人コミュニケーションにおいて大きな効果を発揮するためです。
●課題解決力の向上
ビジネスでは日々様々な問題が発生しますが、ロジカルシンキングを用いることで原因を分析し、体系立てて解決策を導けます。例えばロジックツリーで問題を分解し、仮説検証を行ってから解決策を洗い出し、評価して選択するといった論理的プロセスを踏むことで、再現性のある問題解決が可能になります。このようにして導いた答えは一見「当たり前」に思えるものでも、的外れな解決策を避けることができ、限られた時間で確実に効果の高い解決策を出す助けとなります。
●迅速で的確な意思決定
現代のビジネス環境は情報量が膨大で変化も速く、素早く正確な判断が求められます。ロジカルシンキングにより、膨大な情報から信頼できるファクトを抽出し、重要な論点に集中して結論を出すことで、意思決定のスピードと精度を上げられます。実際、論理的に思考プロセスを整理することで迷いや判断ミスを減らし、短時間でより正確かつ一貫性のある決断が可能になるとされています。時間やリソースに制約があるビジネスにおいて、「短時間でより良い答えを出す」ために論理的思考は不可欠なのです。
●説得力のあるコミュニケーション
論理的に筋の通った説明は、相手を納得・共感させる強力な武器になります。特に価値観やバックグラウンドが異なる相手とのビジネスコミュニケーションでは、感覚的な訴えより論理的な説明の方が受け入れられやすくなります。ロジカルシンキングを身につける最大のメリットの一つは、異なる考えを持つ人を説得し共感を得られることであり、グローバル化したビジネスシーンでは論理的な説明力が一層重要性を増しています。客観的なデータや根拠に裏付けられた主張は、社内の意思疎通やプレゼンテーション、交渉などあらゆる場面で信頼感を高め、説得力のあるコミュニケーションを可能にします。
このように、ロジカルシンキングは問題解決の土台で、的確な意思決定と効果的なコミュニケーションを支える基本スキルです。「あらゆる業務をこなす上でのベースとなるスキル」と言っても過言ではないでしょう。
ロジカルシンキングがもたらす具体的メリット
ロジカルシンキングを実践することで得られる具体的なメリットには、以下のようなものがあります。
●業務の効率化・生産性向上
論理的に優先順位をつけて作業に当たることで、重要な業務にリソースを集中でき、生産性を向上させることができます。意思決定プロセス自体も整理されるため、判断にかかる時間も短縮されます。
●チームワークの改善・円滑な意思決定
論理的な議論は主観や思い込みではなく客観的事実に基づくため、チームで合意形成しやすくなります。根拠が明確な提案は他のメンバーの理解を得やすく、議論が建設的になるため、チームでの決定が円滑に進みます。
●戦略立案・意思決定の質向上:
論理的に物事を分析・比較検討することで、長期的視点に立った質の高い戦略立案ができます。市場環境や自社の強み弱みなど多角的な要素を整理し、因果関係を踏まえてシナリオを描くことで、抜け漏れの少ない論理的に一貫した戦略を構築できます。
■ロジカルシンキングでは対応できないこと(限界と注意点)
ロジカルシンキングは万能ではなく、いくつか対応が難しい領域や限界も存在します。論理一辺倒では解決できない問題や、論理的思考だけでは補えない要素について理解しておくことが重要です。
●革新的アイデアの創出(創造性の領域)
ロジカルシンキングは既知の情報を組み合わせて「最も蓋然性の高い答え」を導くのに適していますが、しばしば凡庸で想定内の答えに留まりがちです。
論理的に考えるプロセスからは「言われてみれば当たり前」な解決策は得られても、周囲を驚かせるような飛躍した発想や斬新なアイデアは生まれにくい傾向があります。既存の前提や枠組みを疑い、大胆な仮説を生むには水平思考やデザイン思考といった創造的アプローチが必要になる場合もあります。つまり、イノベーションが要求される場面(新規事業のコンセプト創造、画期的な商品開発など)では、論理だけでなく直感や想像力が不可欠であり、論理的思考はそのままでは対応しきれないのです。
●直感や迅速な判断:
論理的に完璧な結論を得ようとするあまり、かえって意思決定が遅れる「分析麻痺」に陥るリスクも指摘されています。ビジネスでは不完全な情報の中で迅速に判断しなければならないケースも多く、その際には経験に基づく直感や勘所がものを言うことがあります。ロジカルシンキングは情報を集めて整理するプロセスを重視するため、時間制約の厳しい状況や予測不能な状況で即断を求められる場面には向きません。
●感情や人間的要素を否定してしまう
人間は必ずしも論理だけでは動かないという現実があります。ロジカルシンキングでは机上では正しい答えに辿り着けても、実務でそれが最適解になるとは限りません。その最大の要因が「人の感情」です。ビジネスの相手は生身の人間であり、感情や価値観、社内文化など論理では割り切れない要素が意思決定や行動に大きく影響します。いくら理路整然とした結論でも、関係者の感情を無視していれば受け入れられないことがあります。「人間はロジカルに説明されたからといって、全員が素直に納得しその通り行動するわけではない」のです。
このように、ロジカルシンキングにはカバーしきれない側面があります。創造性や直感、人間的な要素は論理思考を補完するものであり、状況に応じてそれら非論理的要素を取り入れる柔軟さが求められます。組織は機械ではなく人のつながりで動くものですから、論理と感情のバランスを意識することが効果的な問題解決・意思決定につながります。
■ロジカルシンキングに関するよくある誤解
ロジカルシンキングの重要性が広まる一方で、それに関していくつか誤解されがちな点も存在します。最後に、特によく見受けられる誤解を挙げ、その実際について解説します。
「ロジカルに考えれば必ず正解が出る」という誤解:
論理的に考えれば常に唯一の正しい答えに行き着く、と考えるのは危険です。論理はあくまで前提となる情報や条件が正しい場合に有効であり、前提を誤れば結論も誤ります。また前述の通り、人間社会では感情や曖昧さが絡むため、机上で論理的に正しい答えが現実では通用しないこともあります。実際のビジネスでは不確実な要素が多く、論理的思考は「正解」を保証するものではないと心得るべきです。ロジカルシンキングは最も筋の通った仮説や意思決定を導く手法ですが、それでも結果がうまくいくかは環境要因や実行次第です。したがって、「論理的でさえあればそれで正しい」というわけではなく、論理による結論も検証や調整が必要なのです。
「ロジカルに伝えれば、誤解なく明確に伝わる」という誤解
同様に、「ロジカルに伝えれば、相手に明確に伝わる」と考えてしまうケースもあります。これは大きな誤解です。ロジカルに伝えれば「矛盾なく、正しい流れで伝える」ことができます。「AだからBだよね、そしてBだからCですよね」というイメージで「流れ」は矛盾なく伝えられます。
しかし、そもそもの「A」「B」「C」が曖昧で、何を指すか解釈が分かれることがあります。
たとえば、
「売上が減ってきた→プロモーションを強化しなければいけない→そのために自社の価値を再整理しよう」
というフレーズがあります。非常に論理的ですね。しかし、「プロモーションを強化」「自社の価値」が曖昧で、メンバーは何をすればいいのかわかりません。ロジカルに伝えられるとわかった気になってしまいますが、じつはわかっていないのです。
「ロジカルシンキング=感情を排除しなければいけない」という誤解
論理的思考では感情に流されないことが強調されるため、「ビジネスでは感情を完全に排除すべき」と誤解されることがあります。しかし、これは極端な解釈です。確かに意思決定の場面では主観的な感情より客観的事実に基づくべきですが、だからといって人間味を無視してよいわけではありません。ビジネスは人と人との協働で成り立つ以上、メンバーのモチベーションや顧客の感情的なニーズに寄り添う姿勢も重要です。論理と感情は対立するものではなく、論理的な提案であっても相手の感情に配慮した伝え方が求められます。感情を排除するというより、「判断プロセスでは感情的バイアスに左右されない」「しかしコミュニケーションでは相手の感情を尊重する」というバランスが大切です。極端に感情を切り捨ててしまうと、前述のように人を動かすことが難しくなりかねません。
「論理的な人=リーダーに向いている」という誤解
論理的思考力はリーダーシップに必要な資質の一つではありますが、それだけで優れたリーダーになれるとは限りません。論理的なリーダーは意思決定がブレにくい反面、ビジョンを示す力や人心掌握力といった要素も求められます。もしリーダーが論理一辺倒で部下の感情や価値観に無頓着だと、「言っていることは正論でも心に響かない」と受け取られ、部下を動機づけられない恐れがあります。実際、「ロジカルなのに伝わらないリーダー」が組織で増えているとも言われます(明快に伝える工夫が足りないケース)。優れたリーダーになるには論理力に加えて共感力やコミュニケーション力が必要であり、論理的思考はリーダーシップ発揮の土台ではあってもそれ単独で十分条件ではないのです。論理的な人がリーダーに向いているかどうかは、その人が論理と思いやりを両立できるかにかかっています。
以上のような誤解を解消し、ロジカルシンキングの正しい役割を理解することが大切です。ロジカルシンキングはビジネス上強力な武器ですが、万能薬ではないことを念頭に置きましょう。
ロジカル=明確ではない
ロジカルシンキング、ロジカルコミュニケーションは重要です。しかし、これらを身に付ければ他人に分かりやすく、明確に伝えられるかと言えば、そうではありません。ロジカルな流れの中で、何をすべきか・何に焦点を当てるべきかを明確にする必要があります。
ロジカルシンキングはビジネスにおいて数多くの恩恵をもたらす一方、その限界も認識する必要があります。論理的思考によって私たちは事実に基づく的確な判断や説得力ある議論ができるようになりますが、最終的にビジネスを動かすのは人間の情熱や創意工夫でもあります。したがって、論理と思考のフレームワークをフル活用しつつも、状況に応じて直感や創造性を働かせたり、人間的な感情に配慮したりする柔軟さが重要です。
この記事を書いた人

木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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