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日本のオフィスではしばしば「なる早」(なるべく早く)という表現が使われます。でも、その解釈は人によって大きく異なりますね。

「明日までに」と捉える人もいれば、「今週中でOK」と理解する人もいます。このコミュニケーションギャップが引き起こす問題と、その背景にある日本特有の文化的要因、そして効果的な解決策について考えていきましょう。

問題点:「なる早」の認識ギャップ

漫画で描かれているように、「なる早でお願い」というフレーズひとつでも、受け手によって解釈が全く違います。登場している上司にとっては「明日までに必要」という緊急性を含んでいましたが、森さんは「今週中に仕上げれば良い」と受け取りました。

この認識のずれが引き起こす問題は単なる期限の誤解だけではありません。信頼関係を失うことになりますし、プロジェクトが遅くなります。品質も下がるかもしれません。さらには顧客満足度の低下にもつながりかねない重大な問題です。

特に重要なのは、このような小さな誤解が積み重なると、チーム内の「あの人は期限を守らない」「この人は急な依頼ばかりする」といった負のレッテル貼りが発生することです。

背景:なぜこのような問題が起きるのか

なぜこのようになってしまうのか? いくつか理由がありそうです。

  1. 曖昧さを好む日本文化:日本のコミュニケーションスタイルは本質的に曖昧さを含む傾向があります。「空気を読む」文化では、明確な指示よりも暗黙の了解が重視されることがあります。
  2. 遠慮と配慮の文化:「急いでください」と直接言うことが失礼だと考えられがちで、「なるべく早く」という婉曲表現が選ばれます。しかし、この配慮が逆に誤解を生みます。
  3. 世代間ギャップ:若手社員と中堅・ベテラン社員では「なる早」の解釈が異なる場合があります。特にリモートワークが普及した現代では、このギャップが拡大しています。
  4. 属人的な経験則:過去の経験から「この部署の『なる早』は3日以内を意味する」などと個人が独自の解釈基準を持っていることが珍しくありません。

解決策:明確なコミュニケーションのために

いろいろ理由や背景があるとはいえ、放置していいわけではありません。あいまいな指示やコミュニケーションはお互いのストレスをためるだけです。対策を取っていきましょう。例えば……

  1. 具体的な期限設定:「なるべく早く」ではなく、「5月4日午後3時までに」のように明確な期限を伝えましょう。これだけで多くの問題が解消されます。
  2. 優先度の明示:「他の業務よりも優先して」「今手掛けている作業の次に」など、タスクの優先順位を伝えることで、相手の時間管理を助けます。
  3. 背景情報の共有:なぜ急いでいるのか、その理由を簡潔に伝えることで、相手の協力を得やすくなります。「クライアントが5日に来社するため」など具体的な理由があれば、相手も優先度を理解しやすくなります。
  4. 確認のクセづけ:「今週中とのことですが、具体的には金曜日の17時までという認識で合っていますか?」のように、受け手側も積極的に確認するクセをつけましょう。
  5. 組織としての用語定義:「なる早=24時間以内」「至急=3時間以内」など、社内で共通の定義を設けるのも一案です。特にリモートワーク環境では、このような明文化されたルールが役立ちます。

まとめ:効果的なコミュニケーションへの第一歩

日本特有の曖昧なコミュニケーションスタイルは、配慮や和を重んじる文化から生まれたものですが、ビジネスの効率性を損なうこともあります。「なる早」のような表現の代わりに具体的な期限を示し、背景情報も共有することで、チーム内のミスコミュニケーションを減らすことができます。

最も重要なのは、コミュニケーションに関する問題を個人の性格や能力の問題ではなく、「システムの問題」として捉えることです。誰もが意図的に誤解を生じさせているわけではありません。明確なコミュニケーションのルールを作り、それを継続的に改善していくことが、日本のビジネス文化をより効率的で働きやすいものに変えていく第一歩になるでしょう。

この記事を書いた人

木暮太一 写真

木暮太一

(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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