
「リーダーシップは行動力だ」「リーダーシップはカリスマ性だ」という定義をよく聞きます。しかし、リーダーシップの本質はもっとシンプルです。どんなに意識が高くても、どんなに行動力があっても、チームが前進しなければリーダーシップを発揮したとは言えません。本当のリーダーシップとは「組織が見せたい景色を、メンバーに明確に見せること」です。
メンバー「木暮さんはハイヒール履いてても歩くの速そうですね」
ぼく「え、どういうこと??」
これは以前サイバーエージェントで事業部長をしていた時、あるメンバーとエレベーターを待ちながら交わした会話です。
ぼくはいつも通りオフィスを歩いていただけなのですが、メンバーからこの一言を聞いた瞬間、「しまった」と感じました。何気ない自分の歩くスピードが、チームの若手に「常に急いでいなければいけない」という強迫観念を植え付けていたからです。
もちろんそんなつもりはありませんでした。リーダーだから仕事をたくさんしなければ、リーダーだから強くなければ、と思っていただけですが、メンバーにはそう見えてしまっていたということです。
組織が空回りする本当の理由
ここ数年、多くの組織で共通する悩みを目にします。
「メンバーがなかなか自主的に動かない」 「一人一人は頑張っているのに、成果につながらない」 「意識は高いのに、なぜかチームがバラバラになる」
この原因は、リーダー自身が「リーダーシップとは何か」を明確に捉えられていないからです。明確でないものは、メンバーに正しく伝えることはできません。だからこそ、リーダーシップとは何かを言語化する必要があります。
リーダーシップは「何を見せるか」で決まる
多くのビジネス書では、「リーダーシップは行動で示すものだ」と語られます。たしかにその通りです。しかし、問題は「何を行動として示すべきか」がほとんど語られていないことです。
先ほどの歩くスピードの例に戻ると、ぼくは確かに行動で示していました(意図せずに)。ただし、それは「常に急いでいなければいけない」という景色を見せていたのです。意図せず、メンバーに不要なプレッシャーを与えていたわけです。
リーダーシップとは、「メンバーに、組織や自分が見てほしい景色を明確に見せること」です。
本来メンバーが見るべき4つの景色
リーダーがメンバーに見せるべき景色は大きく4つあります。
1. 何がゴールか、どこに行きたいのか
組織やチームがどこに向かっているのか、どこに向かってほしいのかをメンバーに見せなければいけません。当たり前のように聞こえて、このゴールを見せていない組織やリーダーはたくさんいます。
2.ゴールまでの道のり(経路)
メンバーに「どこに向かえばいいか」の景色を見せなければいけません。
先日、あるマネージャーから相談を受けました。「チームに『売上目標1億円』と伝えたが、誰も動いていない」という内容でした。それは当然です。メンバーには「1億円」という数字しか見えていません。「そこまでの道のり」が見えていないからです。
ゴールまでの道のりを見せるためには、「中ボス」を設定することが効果的です。RPGゲームのように、大きな目標までの道程を区切りながら、「今日・今週・今月」で何をすべきかという景色を見せていきます。
3. 判断基準
メンバーが迷った時、「何を基準に考えるべきか」の景色を見せる必要があります。
以前、リーダー経験の浅いメンバーが「判断に迷ったら、すべてデータで決める」と決めていました。たしかに理屈は正しそうですが、データは過去のものです。未来を切り開く時には、データがないこともあります。
リーダーは「迷った時の判断基準」という景色を見せなければいけません。例えば、「データがない時は、顧客に聞いてみる」「判断に迷ったら、『地球が唯一の株主』という理念に立ち戻る」など、メンバーが自分で判断できる景色を与えていきます。
4. 評価基準
「何が評価されるか」という景色も重要です。
よくあるのが、「チャレンジを評価する」と言いつつ、実際には「失敗したら減点」という組織です。表向きのメッセージと、本当の評価基準にギャップがあれば、メンバーは萎縮します。
リーダーは行動で景色を見せなければいけません。実際に「チャレンジの内容」を評価し、「結果ではなくプロセス」を褒めれば、メンバーは本当にチャレンジする景色を見ることができます。
リーダーの「無意識の行動」がチームを動かす
最も難しいのは、自分の無意識の行動が何を見せているかを知ることです。
あるIT企業の社長からこんな話を聞きました。会社の方針として「業務効率化・無駄の排除」を掲げているものの、社内の無駄な業務が一向に減っていきませんでした。その理由は、各リーダーの姿勢にあったようです。
メンバーが「無駄な資料作り」をやめようとしたとき、会議に出席しているリーダーがそれまで通りの資料(無駄に思える資料)を変わらずに持参してきたそうです。こうなるとメンバーは資料作りを辞めることができなくなります。
無駄を削減しようと言いつつ、リーダーの行動が伴っていなければ、メンバーは変えることはできません。リーダー自身も「無駄の削減はしない」と明言しているわけではありませんが、言っていることとやっていることが違うのでメンバーも混乱してしまいます。
無意識の行動ほど、メンバーに強烈な影響を与えます。なぜなら、本心が透けて見えるからです。
良い景色を見せるための3つのポイント
1. 自分の行動を言語化する
「なぜこの行動を取っているのか」を自分自身で明確にすることが大切です。
例えば、会議に毎回15分前に到着する場合は、「準備時間の確保のため」なのか「相手への敬意のため」なのかを明確にします。理由を明確にすれば、メンバーに誤解を与えない景色を見せることができます。
2. やめることを明確にする
何をしないかも、重要な景色になります。
定例会議を思い切ってやめる、残業を強要しない、完璧主義をあきらめる。こうした「やめる行動」が、メンバーに新しい景色を見せることができます。
3. 失敗を楽しむ姿を見せる
リーダーが失敗を隠せば、メンバーも失敗を恐れます。
「今日も面白い失敗をしちゃった」「この失敗からこんなことを学んだ」と、失敗を前向きに捉える姿を見せれば、チーム全体に挑戦意欲が生まれます。
本当のリーダーシップは「時計」を示すこと
リーダーシップの本質は、肩書きでも強制力でもありません。「メンバーが見る景色を変える影響力」です。
名著『ビジョナリーカンパニー』でこのようなフレーズがありますね。
「経営者は時を告げてはいけない。時計を作らなければならない」
要は、経営者はその都度その都度、メンバーに指示をするのではなく、メンバーが指針にできる「時計」を作らなければいけないということです。組織のトップが時計を作り、チームのトップであるリーダーはメンバーが時計を見るのを忘れないように適宜「示すこと」が大事なんです。
自分が見せている景色は何か? メンバーは今、どんな景色を見ているか?
この2つを常に意識し、望ましい景色を見せ続けることが、本当のリーダーシップと言えるでしょう。
リーダーシップとは、メンバーの「目」になることです。自分が見せる景色によって、チームの未来は大きく変わります。さあ、あなたは今日、チームにどんな景色を見せますか?
この記事を書いた人

木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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