
世代を超えたリーダーシップの課題
ぼくはこれまで3万人以上のビジネスパーソンにアドバイスしてきた経験があります。ぼくのところに最近よく相談があるのが、「年上の部下にネガティブなフィードバックをどう伝えればいいか」という悩みです。特に若手リーダーの方々は、この状況に大きな不安を感じているようです。今日はその解決策について考えてみたいと思います。
年上部下との関係性を理解する
日本の組織文化では、年齢による序列意識が根強く残っています。ぼく自身も20代後半で40代後半の方々をマネジメントすることになった時、最初は緊張しました。年上部下は、若いリーダーからの指摘に対して「若造に言われたくない」という感情を持ちがちです。この心理を理解することが第一歩です。
フィードバックの基本:目的の明確化と準備が9割
ネガティブフィードバックの前に、ぼくがいつも自問するのは「このフィードバックの真の目的は何か?」ということ。単なるダメ出しではなく、部下メンバーの成長と組織の成功が目的だということを忘れないようにしています。
具体的な準備として、以下のポイントを押さえることが重要です:
- ・相手の行動を修正するが、相手の意図には理解を示す
- ・やってもらいたいことを行動で伝える
- ・「相手の事情」を5つリストアップする
ネガティブフィードバックをする際の具体的テクニック
ぼくが実践している具体的なアプローチをいくつか紹介します。ネガティブフィードバックをしなければいけない時にぜひ参考にしてください。
まず、「教えを請う」姿勢で会話を始めることが効果的です。「〇〇さんの経験からアドバイスをいただきたいのですが」と切り出してから、問題点について触れるというテクニックです。
次に、「ぼくの認識が間違っていたらぜひ教えてください」と伝えることで、相手に反論の余地を与えます。これにより、対話の扉が開かれやすくなります。
相手の行動を修正するが、意図には理解を示す
年上部下へのネガティブフィードバックで特に重要なのは、「行動」と「意図」を切り分けることです。ぼくがいつも心がけているのは「あなたの意図は素晴らしいと思います。ただ、その方法だと逆効果になる可能性があります」というアプローチです。
例えば、「長年の経験から丁寧に仕事をしようとされているのはとても価値があると思います。ただ、現在のプロジェクトではスピードが求められているので、別のアプローチを試してみませんか?」といった伝え方です。これにより、相手の価値観を否定せずに行動変容を促すことができます。
やってもらいたいことを、「やってみせる」
ぼくが発見したのは、言葉だけでなく「行動でモデルを示す」ことの効果です。例えば、「もっと簡潔な報告をしてほしい」と伝えるなら、自分自身が会議で簡潔な報告をすることで具体的なイメージを示します。
また、「こういう風にやってみたらどうでしょう?」と提案しながら、実際にその場でデモンストレーションすることも効果的です。年上部下は「若いリーダーの理想論」ではなく「実際に機能する方法」を見たいと思っていることが多いのです。
「相手の事情」を理解する
年上部下へのネガティブフィードバックの前に、ぼくはいつも相手の事情を最低5つリストアップします:
- キャリア背景と過去の成功体験(これが現在の行動パターンにどう影響しているか)
- 家庭環境や年代特有の価値観(例:安定志向、経験重視など)
- 現在抱えている仕事上のプレッシャーや課題
- 過去のマネージャーとの関係性の履歴
- 学びのスタイルや変化に対する適応ペース
この「相手の事情リスト」を作ることで、単なる「修正(批判)」ではなく、相手の立場を理解した上でのフィードバックが可能になります。例えば、「これまで成功してきた方法を変えるのは難しいと思いますが、新しいアプローチにもメリットがあります」というように、相手の状況に寄り添ったメッセージを伝えられるのです。
過去にこんな失敗しました
ぼくが失敗した例を正直に共有します。20代のころ、年上の部下に「この資料は完全に的外れですね」と直接的に言ってしまい、関係が悪化したことがありました。
一方、成功例では「チームとしての目標達成のために、ぼくも含めて互いに率直に意見を言い合える関係を築きたい」と伝えてから具体的な課題に触れたところ、建設的な対話につながりました。
フィードバック後には必ずこちらから声をかける
ネガティブフィードバック後は放置せず、積極的にフォローアップすることが大切です。ぼくはいつも、次の日に必ずコーヒーに誘うなど、カジュアルな対話の機会を作るようにしています。「昨日の話について、何か思うところがあればぜひ聞かせてください」と伝えることで、相手の気持ちを尊重していることを示せます。
長期的な視点での取り組み
個々のフィードバックを超えて、ぼくが大切にしているのは「年齢に関係なく互いに学び合う」組織文化の醸成です。定期的な1on1ミーティングを設け、ポジティブフィードバックを日常的に行うことで、ネガティブフィードバックも受け入れやすくなります。
ぼくの部署では、「フィードバックは贈り物」という考え方を広めています。互いの成長を願うからこそのフィードバックだという認識を共有することで、年齢差を超えた健全な対話が生まれてきました。
相互尊重に基づくフィードバックの実現
年上部下へのネガティブフィードバックは確かに難しい課題ですが、不可能ではありません。ぼく自身の経験から言えることは、「相手の経験と知恵を尊重する」「チームの目標という共通点に立ち返る」「自分も学ぶ姿勢を持つ」という三つの原則が効果的だということです。
最後に、ぼくが大切にしている言葉を共有します。「リーダーシップとは地位や年齢ではなく、人の可能性を信じ、それを引き出す行為である」。年齢差があっても、互いの可能性を信じて率直に対話できる関係こそ、真のチーム力を生み出すのだと思います。
皆さんも自分なりのアプローチを見つけて、世代を超えたリーダーシップを発揮してください。ぼくも日々学び続けています。
この記事を書いた人

木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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