
感想が一言で終わってしまう問題
最近、特に若い世代の間で気になる現象があります。何かを見たり体験したりした時に、「やばい」「すごい」といった一言だけで感想を済ませてしまうこと。「エモい」や「メロい(メロメロになる)」といった新しい表現も生まれていますが、問題は表現のフレーズではなく、一つの言葉でしか表現できないという点です。
自分の中では「もっと言いたいことがあるのに」「これじゃない感がある」と思っているのに、なぜか「やばい」というキーワードを出してごまかしてしまう。この状況、皆さん心当たりはありませんか? 感情をうまく言葉にできない場合、何をすればいいでしょうか?
言語化に関する誤解:語彙力≠言語化力
言語化が苦手な人がよくやりがちなのが「語彙力を増やせば表現力が豊かになる」と考えることです。でも、これは大きな誤解です。
川端康成のような「トンネルを抜けるとそこは雪国だった」という美しい表現は素晴らしいですが、日常会話でそんな表現を求められているわけではありません。むしろ、そのような表現をしたら「何言ってるの?」と不思議がられるでしょう。
言語化は語彙力ではなく、自分の頭の中にあるものを相手に伝えられたと思えることが大切なのです。
なぜ「やばい」しか出てこないのか?
「やばい」「すごい」といった表現しか出てこないのは、自分の考えが「まとまりすぎている」からです。
何も感じていないわけではありません。感じているものはあるのですが、それが「分解できていない」状態なのです。どこにフォーカスしたらいいかがわからず、一塊としてしか捉えられないため、「やばい」という一言でしか表現できなくなってしまいます。
感想とは何か?再定義
そもそも「感想」とは何でしょうか?
多くの人は「感想」と聞くと「秀逸なことを言わなければならない」「評論しなければならない」と思い込んでいます。しかし、感想の「感」は「感じる」、「想」は「思う」です。つまり、自分が感じたり思ったりしたことを言えばいいのです。
自分が感じたものに焦点を当てる。当たり前のように聞こえますが、実はここができていない人が多いのです。
感情にフォーカスする言語化トレーニング
感想を求められたとき、最初に考えるべきは「自分の感情」です。その対象に対して:
- 怒りを感じたのか
- 面白いと思ったのか
- 悲しかったのか
- 驚いたのか
まず自分がどんな感情を抱いたかを思い出し、それを伝えることから始めましょう。
例えば「この商品使ってみてどうでした?」と聞かれたとき、多くの人は商品の説明(「操作性が素晴らしい」「機能が斬新」など)を始めてしまいます。これだと、よほど秀逸な表現ができない限りありきたりな感想になってしまい、それを避けるために「やばい」で済ませてしまうのです。
代わりに、まず自分の感情を述べましょう。「驚きました」「嬉しかったです」など。そして、その感情を抱いた理由や対象を説明するのです。
全体を語る必要はない
もう一つ大切なことは、感想は対象全体について語る必要はないということ。本の感想を求められたとき、本全体を網羅する必要はありません。そうすると単なるあらすじになってしまいます。
様々な感情の中で、特に自分がフォーカスしたいもの、一番印象に残っているものを選んで話せばいいのです。
正しさより自分の感情を大切に
感想で大切なのは「正しいこと」を言うことでも、「人が言っていないこと」を言うことでもありません。ましてや、素晴らしい表現力で人を感心させることでもないのです。
ビジネスや日常のコミュニケーションでは、自分が考えていることが相手に伝わればそれでいいのです。だから、語彙力にこだわる必要はありません。私自身、表現力を鍛えようと思ったことは一度もありません。少なくともビジネスの場では、それは重要ではないのです。
感情に目を向けるシンプルな言語化法
自分の感情が言葉にならない人への言語化トレーニング方法をまとめます:
- 自分の感情に目を向ける
- その感情を素直に伝える
- なぜその感情を抱いたのかを説明する
- 全体を網羅する必要はない
- 語彙力より伝えることを優先する
あなたの感情を大切にしてください。そこに目を向けることで、「やばい」「すごい」以外の言葉が自然と出てくるようになるでしょう。言語化は特別な才能ではなく、トレーニングで身につくスキルです。ぜひ今日から実践してみてください。
この記事を書いた人

木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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