
先日、企業の人事部の方々に向けて「若手メンバーが自ら動き出す言語化の3つのポイント」というテーマで講演をさせていただきました。多くの企業が抱える共通の悩み——「若手メンバーが自分から動いてくれない」「何度説明しても期待通りの成果が出ない」「質問もしてこないし、やる気がないように見える」——これらの問題の根本原因は、実は若手メンバーの「やる気」ではありません。問題は「言語化」にあるのです。
ぼくたちは普段、相手に何かを伝える時、自分では「ちゃんと説明した」と思いがちです。しかし実際には、言葉で認識できているのはたった5%。残りの95%は曖昧なまま、相手に伝わっていない状態で行動を求めているのが現実です。「組織の風土を変えよう」と言われても、組織ってどこまで?風土ってどの部分?何がどうなったら「達成」なの?若手メンバーはこうした疑問を抱えながらも、それを言語化できずに立ち止まってしまうのです。
これは盲点! 組織力を上げるために「リーダー育成」よりも大事なこと
組織力を上げるために「リーダーを育成すべき」という考え方が主流です。
たしかにリーダーが育てば、組織力は上がっていきそうです。
しかし、現状はリーダーへの負荷が重くなりすぎています。リーダーを育成しようにも本当に大事な業務にかける時間が取れません。
ではどうすれば? こちらの資料に、「組織力を上げるために本当に必要だったこと」を解説しています。
育成の優先順位を見直す:リーダーか若手か?
多くの企業では「リーダー育成が先決だ」という声が聞かれます。確かにリーダーの負荷は重く、部下育成、1on1実施、働き方改革、新戦略立案など、やるべきことが山積みです。その結果、「重要度高・緊急度低」の業務に手をつけられない状況に陥っています。
しかし、ここで発想を転換してみてください。若手メンバーとリーダー、たとえば「実力を10%底上げする」としたら、どちらが簡単でしょうか? そして、どちらが早いでしょうか?
答えは「若手メンバー」です。理由は難易度の違いにあります。リーダーはすでに一定の経験と知識を持っているため、さらなる向上には高度なスキルが必要です。一方、若手メンバーは基礎的なスキルを身につけることで、大幅な成長が期待できます。そして、若手メンバーが自走できるようになれば、リーダーの負荷が激減し、結果的にリーダーもより高次元の仕事に集中できる環境が整うのです。
若手の課題は「言語化スキル」がレバレッジポイント
若手メンバーの課題を見ると、主体性がない、定着しない、コミュニケーションが不足している、キャリア意識が弱い、メンタルヘルスの懸念、価値観がズレている、帰属意識が下がっている、ビジネスマナーと基礎力が未熟など、実に多岐にわたります。
これらすべてに個別対応していては、時間もコストも膨大になってしまいます。そこで重要になるのが「レバレッジポイント」の発見です。一つを変えれば多くの業務が変わる、そんな根本的な要素はないでしょうか?
ぼくが注目しているのは「言語化スキル」です。これは明確に考え、明確に伝えるスキルのことで、専門スキルとコミュニケーションスキルの基盤となります。言語化スキルが身につけば、他の2つのスキルも自然と身につきやすくなり、すべての業務の質が向上するのです。
自走する組織を作る「言語化の3つのポイント」
では、具体的にどのような言語化が必要なのでしょうか?ぼくは3つのポイントに整理しています。
1. アクションの言語化(やるべきことがわかる)
「やるべきことは既に伝えています。でも自走しないんです」——このような声をよく聞きます。しかし、ほとんどのアクション指示は「あいまい」で、行動につながりません。
例えば「新しい価値を提供する」と言われても、価値って何?誰に向けて提供する?私は今日から何をすればいいの?といった疑問が次々と浮かんできます。こうした曖昧さを排除し、具体的な行動に落とし込むのがアクションの言語化です。
2. ゴール基準の言語化(どこまでやるかわかる)
「もっといい感じにしてほしいのに、なかなかレベルが上がらないんです」——この悩みの原因は、ゴール基準が見えていないことにあります。
定量的な指示「資料は明日の朝10時までにお願い」は明確です。しかし「いい感じにお願い」「顧客に響くように」といった定性的な指示は、相手にとって「????????」状態です。メンバーはやる気がないのではなく、ゴール基準が見えていないだけなのです。
3. 質問の言語化(何を聞けばいいかわかる)
「分からないことがあったら自分から質問してほしいです」——でも質問してくれない。これも、メンバーがやる気がないからではありません。質問を「言語化」できていないのです。
「え、何がダメなの?」(無自覚)、「何を聞けばいいの…?」(状況未整理)、「やっぱり聞きづらい」(心理的安全性)——これらの障壁により、質問ができない状態に陥っています。
言語化スキルがもたらす組織変革
この3つの言語化ポイントが機能すると、素晴らしい循環が生まれます。
行動に移せる→基準もわかる→質問できる→より行動に移せる→基準もわかる→また質問できる
この循環により、若手メンバーは自然と自走できるようになります。そして、メンバーが自走すれば、リーダーの負荷が激減し、新戦略立案や価値創造といった、より高次元の仕事に集中できる環境が整います。
結果として、組織全体の力が飛躍的に向上するのです。
人材課題の好循環を生み出す
言語化スキルが組織に浸透すると、人材の課題が好循環に転じます。
採用力が上がり、人が育ち、評価も明確になり、風土が変わり、人が定着する。これまで悪循環に陥っていた人材課題が、一つひとつ解決されていくのです。
まとめ
若手メンバーの「指示待ち」や「やる気のなさ」は、実は言語化の問題です。アクションの言語化、ゴール基準の言語化、質問の言語化——この3つのポイントを意識することで、メンバーは自ら動き出し、組織全体が活性化します。
まずは明日から、自分の指示や説明に「曖昧さ」が残っていないか、チェックしてみてください。きっと驚くほど多くの「95%の曖昧さ」が見つかるはずです。それを一つひとつ言語化していくことが、自走する組織への第一歩となるでしょう。
この記事を書いた人

木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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