
最近、組織運営において「心理的安全性」という概念が注目を集めています。
Googleのプロジェクト・アリストテレスの研究結果が広く知られるようになってから、多くの企業が心理的安全性を高めるための研修を導入するようになりました。
しかし、ぼくが多くの研修現場を見てきた中で感じるのは、従来の心理的安全性研修には大きな価値がある一方で、実際の職場で持続的な変化を生み出すためには、もう一歩踏み込んだアプローチが必要だということです。特に、チームメンバーが自分の感情や考えを適切に「言語化」する力を育てることで、心理的安全性はより確実に、そして深いレベルで根付いていくのではないでしょうか。
従来の心理的安全性研修の価値と効果
心理的安全性を高めるための研修は、確実に組織に良い影響をもたらしています。多くの研修では、まず心理的安全性の概念を正しく理解することから始まり、チームメンバーが率直に意見を言える環境作りの重要性を学びます。
特に効果的だと感じるのは、ロールプレイやグループディスカッションを通じて、実際に「発言しやすい雰囲気」を体験できる点です。参加者は研修中に「ああ、こういう環境なら確かに話しやすいな」という実感を得られます。また、リーダーシップ層向けの研修では、部下の発言を否定せずに受け止める傾聴スキルや、多様な意見を引き出すファシリテーション技術を身につけることができます。
さらに、心理的安全性の測定指標を学び、定期的なアンケートを通じてチームの状態を可視化する手法も、多くの組織で成果を上げています。数値で現状を把握できることで、改善への取り組みも具体的になりやすいのです。
研修効果をさらに高めるために必要な要素
ただし、ぼくがこれまで見てきた心理的安全性研修には、欲を言えばもっと充実してほしい部分があります。それは、参加者が自分の内面で起きていることを適切に言葉にする力、つまり「言語化力」の育成です。
多くの研修では「率直に意見を言いましょう」「遠慮せずに発言してください」と呼びかけますが、実際には多くの人が「何をどのように伝えればいいかわからない」という状況に陥っています。特に日本のビジネス文化では、和を重んじる傾向が強く、自分の本音や違和感を表現することに慣れていない人が多いのです。
また、心理的安全性が高い環境を作るためには、単に「批判しない」だけでは不十分です。建設的な対話を生み出すためには、自分の感情や考えを相手に誤解されないように、適切な言葉で表現する技術が必要になります。しかし、従来の研修ではこの部分が十分に扱われていないケースが多いのです。
さらに、心理的安全性を測定する際も、「発言しやすさ」や「受け入れられている感覚」といった表面的な指標に留まりがちです。より深いレベルでの心理的安全性を実現するためには、メンバー同士が互いの価値観や動機を理解し合える関係性を築く必要があります。そのためには、自分自身の内面を言語化し、相手に伝える力が不可欠なのです。
言語化プログラムが解決する課題
この課題を解決するために、ぼくは「言語化プログラム」の併用を提案しています。言語化プログラムは、参加者が自分の感情、考え、価値観を適切な言葉で表現する技術を体系的に学ぶものです。
具体的には、まず自分の感情を細かく分類し、それぞれに対応する適切な表現方法を身につけます。「なんとなく嫌だ」ではなく、「この提案には賛同するが、実施のタイミングについて懸念がある」といったように、具体的で建設的な表現ができるようになります。
また、相手の立場や背景を考慮しながら、自分の意見を相手に受け入れられやすい形で伝える技術も習得します。これにより、単に思ったことを口にするのではなく、チーム全体の建設的な議論に貢献できる発言ができるようになるのです。
さらに、言語化プログラムでは、相手の発言の背景にある感情や動機を読み取り、それに対して適切に応答する力も育てます。これにより、表面的な「批判をしない」レベルを超えて、真に理解し合える関係性を築くことが可能になります。
組織変革への長期的なインパクト
心理的安全性研修と言語化プログラムを組み合わせることで、組織には持続的で深い変化が生まれます。メンバーが自分の考えを適切に表現できるようになることで、より質の高い議論が生まれ、イノベーションの創出につながります。
また、お互いの価値観や動機を言語化して共有することで、チーム内の信頼関係はより強固になります。これは一時的な研修効果ではなく、日常の業務の中で継続的に発揮される力となるのです。
心理的安全性の向上は、決して一朝一夕で実現できるものではありません。しかし、適切な言語化力を身につけることで、その実現への道のりはより確実で、より深いものになると、ぼくは確信しています。
この記事を書いた人

木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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