
「あの資料、いい感じに仕上げといて」「もっといい感じで…」こんな曖昧な指示を出していませんか?
部下から「何をどうすればいいかわからない」という声が上がっているなら、それは指示の出し方に問題があるかもしれません。本記事では、なぜ曖昧な指示が生まれるのか、そしてどうすれば部下が迷わず行動できる明確な指示を出せるようになるのかを、具体的な改善ステップとともにお伝えします。言語化コンサルタントとして年間200件以上の企業指導を行っている経験から、すぐに実践できる方法をお届けします。

「いい感じにして」では、絶対に伝わらない
曖昧な指示が招く3つの弊害
ぼくが企業研修でよく目にするのは、上司と部下の間で起こる「伝えたつもり」と「伝わっていない」のすれ違いです。特に深刻なのは、上司が「いい感じに」「適当に」「ちゃんと」といった抽象的な表現で指示を出してしまうケースです。
これらの曖昧な指示が組織に与える影響は想像以上に深刻です。まず第一に、部下の作業効率が著しく低下します。「いい感じ」の基準がわからないため、部下は何度も試行錯誤を繰り返すことになります。結果として、本来なら1時間で終わる作業に半日かかってしまうケースも珍しくありません。
第二に、部下のモチベーション低下を招きます。明確な指示がないと、部下は「自分の理解力が足りないのではないか」と自信を失ったり、「どうせ何をやっても『違う』と言われるだろう」と消極的になったりします。これは組織全体の活力を奪う深刻な問題です。
指示の受け手が抱える心理的負担
部下の立場になって考えてみましょう。「池田くん、資料ってなんかセンスないんだよな」と言われた池田さんの心境を想像してみてください。彼は「センスがない」と言われても、具体的に何をどう改善すればいいのかわからず、途方に暮れています。
実際の現場では、このような状況で部下は次のような心理状態になります。まず「何を求められているのかわからない」という混乱。そして「間違えたらどうしよう」という不安。最終的には「聞き返すのも申し訳ない」という萎縮です。この三重の心理的負担が、部下の本来の能力発揮を阻害しているのです。
明確な指示がもたらす効果の実例
ぼくがコンサルティングを行った製造業A社では、生産管理部門での指示改善に取り組みました。従来「品質をもっと上げて」という指示だったものを「不良品率を現在の3%から1.5%以下に下げる。そのために検査工程での確認ポイントを2つから5つに増やし、1日3回の品質確認ミーティングを実施する」という具体的な指示に変更しました。
結果として、3ヶ月後には不良品率が1.2%まで改善し、従業員の残業時間も20%削減されました。部下からは「何をすればいいかが明確で、安心して仕事に取り組める」という声が多数上がり、職場の雰囲気も大幅に改善されました。
曖昧な指示が生まれる3つの原因と解決策
原因1:上司の頭の中の「当たり前」を言語化していない
多くの管理職が陥る最大の罠は、自分の中の「当たり前」を相手も理解していると思い込むことです。経験豊富な上司にとって「いい感じの資料」には明確なイメージがあります。しかし、そのイメージは長年の経験で培われたものであり、部下が同じイメージを持っているとは限りません。
たとえば「プレゼン資料をわかりやすく作って」という指示を出す時、上司の頭の中には「1スライド1メッセージ」「グラフは見やすい色で統一」「結論を先に書く」といった具体的な要素があるはずです。しかし、これらを言語化せずに「わかりやすく」という抽象的な表現だけで済ませてしまうのです。
解決策:5W2Hで指示を構造化する
この問題を解決するには、5W2H(Who、What、When、Where、Why、How、How much)のフレームワークを使って指示を構造化することが効果的です。「プレゼン資料をわかりやすく作って」を5W2Hで分解すると次のようになります。
Who:営業部の田中さんが、What:新商品紹介のプレゼン資料を、When:明日の午後3時までに、Where:会議室Aでの役員会議で使用するため、Why:新商品の承認を得るために、How:1スライド1メッセージで、グラフは青系で統一し、結論を最初のページに記載して、How much:15分のプレゼン時間に収まる10枚以内で作成してください。
このように指示を具体化することで、部下は迷うことなく作業に取り組むことができます。
原因2:結果だけを求めて過程を伝えていない
二つ目の原因は、上司が「何を達成したいか」は伝えるものの、「どのようにして達成するか」という過程を共有していないことです。特に経験の浅い部下に対しては、結果だけでなく、そこに至るプロセスも含めて指示する必要があります。
「売上を前月比120%にして」という指示を例に考えてみましょう。この指示を受けた部下は「120%という数字はわかったが、どうやって達成すればいいのかわからない」という状況に陥ります。新規開拓なのか、既存顧客の単価アップなのか、商品ラインナップの見直しなのか、アプローチ方法が不明確だからです。
解決策:ステップバイステップの行動計画を示す
効果的な指示は、最終目標だけでなく、そこに至るまでの具体的なステップも含んでいます。先ほどの例を改善すると次のようになります。
「売上を前月比120%にするために、以下のステップで進めてください。第1週:既存顧客20社にアップセル提案のアポを取る。第2週:新商品Aの紹介資料を用いて、そのうち15社にプレゼンを実施。第3週:受注見込み案件のフォローアップを行い、クロージングを図る。第4週:結果の振り返りと翌月の戦略策定。進捗は毎週金曜日の夕方に報告してください。」
このように段階的な行動計画を示すことで、部下は何から始めればよいかが明確になり、途中での軌道修正も容易になります。
原因3:評価基準が主観的で一貫性がない
三つ目の原因は、上司の評価基準が主観的で、一貫性がないことです。「センスがない」「もう少し工夫して」といった感覚的な表現では、部下は改善点を理解できません。しかも、同じ上司でも日によって評価が変わることがあれば、部下はますます混乱してしまいます。
解決策:客観的な評価基準を設定し共有する
この問題を解決するには、事前に客観的な評価基準を設定し、部下と共有することが重要です。たとえば「提案書の評価基準」として以下のような項目を設定します。
論理構成(40点):課題→解決策→効果の流れが明確か。データの根拠(30点):主張を裏付ける数値やデータが含まれているか。見やすさ(20点):フォントサイズ12pt以上、図表は適切に配置されているか。実現可能性(10点):提案内容が現実的で実行可能か。
これらの基準を事前に共有し、完成した提案書をこの基準に沿って評価することで、部下は何が求められているかを明確に理解できます。また、上司側も感情的な評価ではなく、客観的な基準に基づいた建設的なフィードバックができるようになります。
明確な指示で部下のパフォーマンスを最大化する方法
指示の言語化テクニック
部下のパフォーマンスを最大化するためには、指示の出し方に一定のテクニックが必要です。まず重要なのは「動詞を具体化する」ことです。「検討して」ではなく「3つの選択肢を比較検討し、それぞれのメリット・デメリットを整理して」、「調査して」ではなく「競合他社5社の価格と機能を一覧表にまとめて」というように、動詞を具体的な行動に置き換えます。
次に「数値や期限を明確にする」ことです。「早めに」ではなく「明日の17時までに」、「いくつかの」ではなく「3つの」、「大体」ではなく「85%以上の精度で」というように、曖昧な表現を具体的な数値に変えていきます。
最後に「成果物の形式を指定する」ことです。「報告して」ではなく「A4用紙2枚以内のレポートで報告して」、「検討結果を教えて」ではなく「PowerPoint5枚以内で検討結果をプレゼンして」というように、どのような形で成果物を提出するかを明確にします。
部下の理解度を確認する仕組み
指示を出した後は、部下が正しく理解しているかを確認する仕組みが必要です。ぼくが推奨しているのは「指示内容の復唱確認」です。部下に指示内容を自分の言葉で説明してもらい、認識のズレがないかを確認します。
また「中間確認のタイミング設定」も重要です。長期的なプロジェクトの場合、最初に中間確認のスケジュールを設定しておきます。「2週間後の金曜日に進捗状況を確認し、必要に応じて軌道修正を行う」というように、チェックポイントを明確にしておくことで、最終的な成果物の品質を担保できます。
継続的な改善サイクルの構築
明確な指示を出すスキルは、一朝一夕で身につくものではありません。継続的な改善が必要です。まず「指示出しの振り返り会議」を定期的に実施します。月に1回、部下からのフィードバックを受けて、指示の出し方を改善していきます。
また「指示内容のテンプレート化」も効果的です。頻繁に行う業務については、指示のテンプレートを作成し、それを元に具体的な内容を埋めていく方法です。これにより、指示の抜け漏れを防ぎ、一定の品質を保つことができます。
成功事例:IT企業B社のケース
ぼくがコンサルティングを行ったIT企業B社では、開発チームでの指示改善に取り組みました。従来「バグを修正しておいて」という指示だったものを「優先度Aのバグ3件を明日の15時までに修正し、修正内容をテスト環境で検証後、修正レポートをSlackの開発チャンネルに投稿する」という具体的な指示に変更しました。
導入から6ヶ月後、バグ修正の平均時間が40%短縮され、修正ミスも70%減少しました。チームメンバーからは「何をいつまでにやればいいかが明確で、集中して作業できる」という評価を得ています。
まとめ:指示の質を変えるだけで組織は劇的に変わる
曖昧な指示は組織の生産性を大幅に低下させる根本的な問題です。しかし、指示の出し方を改善するだけで、部下のパフォーマンスは劇的に向上します。
重要なポイントを改めて整理すると、まず「自分の中の当たり前を言語化する」こと。5W2Hのフレームワークを使って、指示を具体的に構造化しましょう。次に「結果だけでなく過程も示す」こと。ステップバイステップの行動計画を提示することで、部下の迷いを解消できます。最後に「客観的な評価基準を設定する」こと。感覚的な評価ではなく、明確な基準に基づいたフィードバックを行いましょう。
これらの改善は、明日からでも実践できる具体的な方法です。まずは一つの指示から始めて、徐々に組織全体に展開していくことをお勧めします。曖昧な指示をなくすことで、部下は安心して能力を発揮でき、組織全体の成果も向上します。あなたの組織でも、指示の質を変えることから始めてみませんか?
FAQ(よくある質問)
Q: 指示を詳細にすると、部下の自主性や創造性が失われるのではないでしょうか?
A: これは多くの管理職が抱く懸念ですが、実際は逆です。明確な指示は「何をすべきか」を示すものであり「どのように工夫するか」は部下の創造性に委ねられます。むしろ、曖昧な指示で混乱している状態では、本来の能力を発揮できません。明確な目標と条件が示されることで、部下はその範囲内で最大限の創意工夫を発揮できるようになります。
Q: 部下のレベルによって指示の出し方を変える必要がありますか?
A: はい、部下の経験やスキルレベルに応じて指示の詳細度を調整することが重要です。新人には詳細なステップを示し、ベテランには目標と条件を明確にした上で手法は任せるという使い分けが効果的です。ただし、どのレベルの部下に対しても「何を、いつまでに、どの程度の品質で」という基本要素は必ず含めるようにしましょう。
Q: 指示を明確にしても部下が理解してくれない場合はどうすればいいですか?
A: まず部下の理解度を確認する仕組みを設けましょう。指示内容を部下自身の言葉で説明してもらい、認識のズレを特定します。また、部下が理解しやすい方法を探ることも大切です。文字よりも図解が理解しやすい人、口頭説明よりもメールの方が良い人など、個人の特性に合わせたコミュニケーション方法を見つけることで、理解度は大幅に改善されます。
この記事を書いた人

木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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