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「部下がついてこない」「チームがまとまらない」「指示を出しても思うように動いてもらえない」──こうした悩みを抱える管理職の方は決して少なくありません。同じ立場にいながら、なぜリーダーシップを自然に発揮できる人とそうでない人に分かれるのでしょうか。

実は、リーダーシップには明確な「言語化できる違い」が存在します。本記事では、2000社以上の企業、累計3万人への指導実績をもとに、リーダーシップを発揮できる人とできない人の決定的な違いを解説し、今日から実践できる具体的な方法をお伝えします。

リーダーシップを発揮できる人の5つの特徴

リーダーシップには「型」がある

多くの人は「リーダーシップは生まれ持った才能」だと思い込んでいますが、これは大きな誤解です。リーダーシップには明確な「構造」があり、それを理解し実践することで誰でも身につけることができます。

ぼくがこれまで2000社以上の企業、累計3万人への指導を行ってきた中で気づいたことは、優れたリーダーたちは共通して「相手の心を動かす言語化技術」を持っているということでした。彼らは感覚的にリーダーシップを発揮しているのではなく、実は非常に論理的で体系化された思考プロセスを持っているのです。

リーダーシップを発揮できる人が実践している5つの原則

1. ビジョンの言語化力

真のリーダーは「なぜこの仕事をするのか」を明確に言語化できます。
単に「売上を上げよう」ではなく、「この商品によってお客様の生活がどう変わるのか」まで具体的に描けるのです。

2. 相手の立場で考える翻訳力

同じ内容でも、相手によって伝え方を変えます。
新人には「なぜそれが重要なのか」から説明し、ベテランには「どう改善すべきか」に焦点を当てるといった具合です。

3. 感情と論理のバランス

人は感情で動き、論理で納得します。
優れたリーダーは、まず相手の感情に訴えかけ、その後で論理的な根拠を示すという順番を必ず守ります。

4. 失敗を学びに変える言語化

失敗が起きたとき、「なぜダメだったのか」ではなく「何を学べるか」「次はどうするか」に焦点を当てて話します。
これにより、チーム全体が前向きな学習姿勢を保てるのです。

5. 一貫した行動基準

自分の価値観や判断基準を明文化し、常にそれに基づいて決断を下します。
部下から見て「この人の判断は予測できる」という安心感を与えることで、信頼関係を築いています。

成功事例:A社営業部長の言語化改革

ある中堅企業の営業部長は、部下のモチベーション低下に悩んでいました。そこで、まず「なぜこの商品を売るのか」を徹底的に言語化し直しました。

従 来:「今月の目標は前年比110%です。頑張りましょう」
改善後:「私たちの商品は、お客様の業務効率を30%改善します。つまり、1日2時間の残業を削減できる。これにより、そのお客様は家族との時間を増やせる。私たちの営業活動は、実は多くの家庭の幸せに直結しているんです」

この言語化により、営業チームの士気は劇的に向上し、結果として売上も前年比120%を達成しました。

リーダーシップを発揮できない人が陥る3つの落とし穴

なぜ「いい人」ほどリーダーシップを発揮できないのか

興味深いことに、人格者で部下思いの管理職ほど、リーダーシップの発揮に苦しむケースが多いのです。これは一体なぜでしょうか。

答えは「優しさと曖昧さの混同」にあります。
相手を傷つけたくないという優しさから、重要な指摘を避けたり、曖昧な指示を出したりしてしまう。結果として、部下は「何をすればいいのかわからない」状態に陥り、チーム全体のパフォーマンスが下がってしまうのです。

多くのリーダーが陥る3つの典型的な落とし穴

落とし穴1:「察してもらう」ことを前提とした伝え方をしてしまう

NGな伝え方:「もう少し頑張ってもらえますか?」
問題点   :何をどの程度頑張るのかが不明確

改善案:「今月の売上目標まであと200万円足りません。来週までに新規顧客3社にアプローチして、そのうち1社は受注につなげましょう」

落とし穴2:感情論に頼った説得してしまう

NGな伝え方:「みんなで力を合わせて頑張ろう!」
問題点   :具体的な行動指針がない

改善案:「今期の目標達成のために、一人ひとりが月間10件の新規アプローチを行い、そのうち3割の成約率を目指します。そのために、まず来週の営業会議で成功事例を共有しましょう」

落とし穴3:一方的な指示だけで終わらせてしまう

NGな伝え方:「この資料を明日までに作成してください」 問題点:相手の状況や能力を考慮していない

改善案:「明日の会議で使うこの資料ですが、作成にどの程度時間がかかりそうですか?もし他の業務で忙しければ、一緒に優先順位を整理しましょう」

失敗事例から学ぶ改善のポイント

B社の課長は、部下に対して常に丁寧で優しい言葉遣いを心がけていました。しかし、「できればお願いします」「可能であれば」といった曖昧な表現ばかり使っていたため、部下たちは何が重要なのか判断できずにいました。

転換点は、ある重要なプロジェクトで納期遅延が発生したことでした。その時、課長は自分の伝え方を根本的に見直し、「優しさと明確さは両立できる」ということを学んだのです。改善後は、「この作業は会社にとって非常に重要です。具体的には○○の効果が期待できます。ついては、△△までに完了させてください」という伝え方に変更しました。

組織を動かすために必要な実践的スキル

今日から始められる「リーダーシップの言語化」実践法

リーダーシップは一朝一夕で身につくものではありませんが、正しい方法で継続的に取り組めば、必ず成果は現れます。以下の実践法を段階的に取り入れてみてください。

段階1:自分の判断基準を明文化する

毎日の振り返り習慣 
今日の会話を振り返る 今日一日の部下との会話を思い出し、「もっと良い伝え方があったか?」を考えてみてください。
判断の根拠を言語化する 重要な決断を下した際は、「なぜその判断をしたのか」を3つの理由で説明できるようにしましょう。
価値観の整理 自分が大切にしている仕事の価値観を5つ書き出し、それを部下にも共有してください。

段階2:相手に合わせた伝え方をマスターする

相手の特性を理解する4つの質問
この人は詳細な説明を好むタイプか、結論から聞きたいタイプか? 論理的な根拠を重視するか、感情的な共感を求めるか?
新しいことにチャレンジしたいか、安定を求めるか? 個人的な成長を重視するか、チーム全体の成果を重視するか?
これらの質問への答えを踏まえて、同じ内容でも伝え方を変えることで、格段にコミュニケーションの質が向上します。

段階3:継続的な改善サイクルを構築する

月1回のリーダーシップ振り返り 
今月、部下のやる気を引き出せた場面とその理由 うまくいかなかった場面とその原因分析 来月改善したい具体的なポイント3つ

部下からのフィードバック収集
「私の説明で分かりにくい部分はありませんか?」 「どんな伝え方をされると、やる気が出ますか?」 「今の働き方で困っていることはありますか?」
これらの質問を通じて、自分のリーダーシップスタイルを客観視し、継続的に改善していくことが重要です。

具体的な場面別実践テクニック

会議での発言を促す技術 
これまで:「何か意見はありませんか?」
改善後 :「この案について、○○さんの営業現場の視点から見て、どう思われますか?」

指摘をする際の言語化技術 
これまで:「その方法は良くないと思います」
改善後 :「その方法だと○○というリスクがあります。△△の方法なら、□□という効果が期待できますが、いかがでしょうか?」

チーム全体のモチベーション向上技術 
これまで:「今月も頑張りましょう」
改善後 :「今月の目標を達成すると、来期のプロジェクトでより大きな裁量を持てるようになります。具体的には○○ができるようになります」

まとめ

リーダーシップを発揮できる人とできない人の違いは、決して才能や経験年数だけで決まるものではありません。最も重要なのは「相手の心を動かす言語化技術」を身につけているかどうかです。

本記事でお伝えした5つの特徴と3つの落とし穴を理解し、段階的な実践法を継続的に取り組むことで、あなたも必ずリーダーシップを発揮できるようになります。

今日からできる3つのアクション 
今日の部下との会話で、相手の名前を呼んで具体的な依頼をする
明日の朝一番に、チームの目標を「なぜ重要なのか」から説明し直す
今週末に、自分の価値観と判断基準を5つ書き出して整理する

リーダーシップは「特別な人だけの能力」ではなく、正しい方法で学べば誰でも身につけられる技術です。まずは小さな一歩から始めて、継続的に改善していきましょう。組織のパフォーマンス向上と、あなた自身の成長のために、今日からアクションを起こしてください。


FAQ(よくある質問)

Q: 部下の年齢が自分より上の場合、どのようにリーダーシップを発揮すればよいですか?

A: 年上の部下に対しては、「敬意」と「明確さ」のバランスが重要です。経験に対する敬意を示しつつ、「組織としての方向性」を明確に伝えましょう。「○○さんの豊富な経験を踏まえて、今回のプロジェクトでは△△の方針で進めたいと考えています。○○さんのご意見をお聞かせください」といった伝え方が効果的です。

Q: リーダーシップを発揮しようとすると、厳しくなりすぎてしまいます。どうバランスを取ればよいでしょうか?

A: 「厳しさ」と「冷たさ」は全く別物です。相手の成長を願って明確な期待値を伝えることは厳しさであり、これは必要なことです。一方で、相手の人格を否定したり感情的になったりするのは冷たさです。「あなたならできると信じているから、この基準を求めます」という姿勢を言語化して伝えることで、適切なバランスが保てます。

Q: 部下のモチベーションが上がらない場合、どのような言葉をかければよいですか?

A: モチベーションが下がっている原因を具体的に把握することから始めましょう。「最近調子はどうですか?」という曖昧な質問ではなく、「この作業について、どの部分が一番やりにくいですか?」「今の業務で、どんなサポートがあれば効率が上がりそうですか?」といった具体的な質問で、真の課題を言語化してもらいます。その上で、解決策を一緒に考える姿勢を示すことで、自然とモチベーションは回復します。

この記事を書いた人

木暮太一 写真

木暮太一

(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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