
「上司との関係がうまくいかない」「同僚とのやり取りがスムーズにいかない」「自分の考えが相手に伝わらない」…このようなコミュニケーションの悩みを抱える若手ビジネスパーソンは非常に多いのが現状です。
多くの方が、コミュニケーション能力を向上させるために「相手の話をよく聞こう」「傾聴が大切だ」と考え、相手の話に相づちを打ったり、質問を投げかけたりすることに一生懸命取り組んでいます。しかし、これらの表面的なテクニックだけでは、本当の意味でのコミュニケーション能力向上は期待できません。
ぼくはこれまで2000社をサポートし、累計3万人を指導してきた経験から、コミュニケーション能力の向上には根本的に異なるアプローチが必要だということを確信しています。本記事では、多くの人が陥りがちな間違いを指摘し、真に効果的なコミュニケーション能力向上の方法をお伝えします。
みんながやってしまう「聞き方」の大きな勘違い
コミュニケーション能力を向上させようと考える多くの若手ビジネスパーソンが、まず取り組むのが「傾聴スキル」の習得です。「相手の話をよく聞くことが大切」という考えのもと、以下のようなことを実践しています。
相手の目を見て話を聞く
相手が話している間は自分の意見を言わずに我慢する
「なるほど」「そうですね」といった相づちを頻繁に打つ
「それで?」「どうしてそう思ったのですか?」といった質問を投げかける
相手の話を最後まで遮らずに聞く
これらの行動は確かに「聞く姿勢」を示すものとして間違いではありません。しかし、ここに大きな落とし穴があります。
多くの人は、「聞く=理解する」と感じていますが、それは大きな誤解です。相手の話を聞いているつもりでも、実際には相手が何を伝えたいのか、何に困っているのか、どんな気持ちなのかを正確に理解できていないのです。
なぜこのような問題が起こるのでしょうか。それは、相手の話を聞いている間、自分の頭の中で何が起こっているかを意識していないからです。相手が話している内容を、自分なりに解釈し、自分の経験や価値観というフィルターを通して理解しようとしています。その結果、相手が本当に伝えたいことと、自分が理解したことの間に大きなギャップが生まれてしまうのです。
例えば、上司から「この資料、もう少し工夫できないかな」と言われたとき、多くの人は「ダメ出しされた」「自分の能力が低いと思われている」といった解釈をしてしまいます。しかし、上司は単純に「もっと良いものにしたい」「一緒により良い成果を作りたい」という気持ちで話しているかもしれません。
このように、表面的な「聞く技術」だけでは、真のコミュニケーションは成立しないのです。相手の話を正確に理解し、適切に反応するためには、もっと根本的なスキルが必要になります。
本当に必要なのは「相手の話を言語化する力」
コミュニケーション能力を根本的に向上させるために必要なのは、「相手の話を正確に言語化する力」です。これは単に相手の言葉を復唱することではありません。相手が話している内容の本質を理解し、それを明確な言葉で表現し返す能力のことです。
なぜ言語化スキルがコミュニケーションに重要なのか
人間の思考は、たいてい曖昧で複雑です。相手が話している内容も、感情と事実が混在していたり、本当に伝えたいことが言葉の奥に隠れていたりします。そのような曖昧な情報を正確に理解するためには、相手の話を整理し、構造化して理解する必要があります。
言語化スキルを身につけることで、以下のようなことが可能になります。
相手の話の要点を整理して理解できる
相手の感情と事実を分けて捉えることができる
相手が本当に伝えたいことを汲み取ることができる
自分の理解が正しいかどうかを確認できる
相手に対して適切なフィードバックを返すことができる
具体的な言語化の方法とステップ
言語化スキルを使ったコミュニケーションは、以下の3つのステップで実践できます。
ステップ1:相手の話を要素分解する
相手が話している内容を、「事実」「感情」「要望」の3つの要素に分けて整理します。
事実:何が起こったのか、どのような状況なのか
感情:相手がどう感じているのか、どのような気持ちなのか
要望:相手が何を求めているのか、どうしてほしいのか
例えば、同僚から「昨日のプレゼン、思ったより反応が悪くて落ち込んでいる。どうしたらいいと思う?」と相談されたとします。
この場合、要素分解すると以下のようになります。
事実:昨日のプレゼンの反応が思ったより悪かった
感情:落ち込んでいる
要望:どうしたらいいかアドバイスがほしい
ステップ2:自分の理解を言語化して確認する
相手の話を要素分解したら、自分の理解を言語化して相手に確認します。
「昨日のプレゼンの手応えが期待していたほどではなくて、それでがっかりしているということですね。そして、今後どのように改善していけばいいかアドバイスがほしいということでしょうか?」
このように、自分が理解した内容を明確に言語化することで、相手は「この人は自分の話をちゃんと理解してくれている」と感じることができます。
ステップ3:相手の本当のニーズを探る
表面的な要望の奥にある、相手の本当のニーズを言語化して確認します。
「プレゼンの改善方法を知りたいということですが、もしかすると『自分のプレゼン能力に自信を持ちたい』ということが一番の願いでしょうか?」
このように、相手の深層にあるニーズを言語化することで、より本質的なコミュニケーションが可能になります。
言語化スキルを活用した事例
ぼくが指導したある若手営業マンのケースをご紹介します。
彼は顧客との商談がうまくいかず、いつも一方的に商品説明をしてしまい、契約に結びつかないという悩みを抱えていました。従来のコミュニケーション研修では「相手の話をよく聞きなさい」と指導されていましたが、一向に改善しませんでした。
そこで、言語化スキルを使って顧客の話を整理する方法を身につけてもらいました。顧客が話している内容を「現在の課題」「理想の状態」「解決への期待」の3つに分けて整理し、それを言語化して確認するという手法です。
その結果、顧客が本当に求めていることを正確に理解できるようになり、的確な提案ができるようになりました。6か月後には売上が30%向上し、顧客からの信頼も大幅に向上しました。
言語化スキルを身につける具体的な練習方法
日常会話での実践トレーニング
言語化スキルは、日常の会話の中で練習することができます。
今日の会話を振り返る 今日一日の部下との会話を思い出し、「もっと良い伝え方があったか?」を考えてみてください。
相手の話を3つに分解する習慣 誰かと話すときに、相手の話を「事実」「感情」「要望」の3つに分けて聞く習慣をつけてください。
理解確認の言語化 「つまり、○○ということですね」「○○でお困りということでしょうか」といった理解確認を積極的に行ってください。
一人でできる言語化トレーニング
ニュースの要約練習 新聞やニュースサイトの記事を読んで、その内容を3行で要約する練習をしてください。
感情の言語化 自分が感じた感情を、具体的な言葉で表現する練習をしてください。「嬉しい」ではなく「達成感を感じている」「安心している」といった具体的な表現を使います。
問題の構造化 自分が直面している問題を、「現状」「理想」「課題」「解決策」の4つの要素に分けて整理する練習をしてください。
チーム内での実践方法
会議での要約役 チーム会議で、議論の内容を要約して確認する役割を積極的に担ってください。「今の議論をまとめると…」「確認ですが…」といった発言を心がけてください。
1on1での活用 上司との1on1面談で、自分の状況や課題を整理して伝える練習をしてください。感情と事実を分けて話すことで、建設的な議論ができるようになります。
同僚との相談での実践 同僚から相談を受けたときに、相手の話を整理して確認する練習をしてください。「○○で困っていて、○○してほしいということですね」といった確認を行います。
まとめ
コミュニケーション能力の向上は、多くの若手ビジネスパーソンにとって重要な課題です。しかし、表面的な「聞く技術」だけでは、真の改善は期待できません。本当に必要なのは、相手の話を正確に理解し、それを明確に言語化する能力です。相手の話を「事実」「感情」「要望」に分解し、自分の理解を言語化して確認し、相手の本当のニーズを探るというプロセスを身につけることで、コミュニケーション能力は飛躍的に向上します。
ぼくが2000社をサポートし、累計3万人を指導してきた経験からも、言語化スキルを身につけた人は、例外なくコミュニケーション能力が大幅に改善しています。
今日から、日常の会話の中で言語化スキルを実践してみてください。相手の話を整理して理解し、それを言語化して確認する習慣をつけることで、あなたのコミュニケーション能力は確実に向上していくはずです。まずは、今日一日の会話を振り返り、「もっと相手の話を整理して理解できたのではないか」という視点で見直してみてください。そこから、真のコミュニケーション能力向上の第一歩が始まります。
FAQ(よくある質問)
Q: 言語化スキルを身につけるのにどのくらいの期間が必要ですか?
A: 個人差はありますが、日常的に意識して練習すれば、3か月程度で基本的なスキルは身につきます。ただし、本当に自然に使えるようになるまでには6か月から1年程度の継続的な練習が必要です。最初は意識的に行う必要がありますが、慣れてくると自然にできるようになります。
Q: 相手の話を整理して確認すると、会話が不自然になりませんか?
A: 最初は確かに不自然に感じるかもしれませんが、適切に行えば相手は「この人は自分の話をちゃんと聞いてくれている」と感じて、むしろ好印象を持ちます。重要なのは、機械的に確認するのではなく、相手への関心と理解したいという気持ちを込めて行うことです。
Q: 言語化スキルは営業や接客以外の職種でも効果がありますか?
A: はい、どのような職種でも効果があります。エンジニア同士の技術的な議論、経理部門での数字の説明、企画部門でのアイデア出しなど、あらゆる業務でコミュニケーションは発生します。相手の話を正確に理解し、自分の考えを明確に伝える能力は、すべての職種で重要なスキルです。
この記事を書いた人

木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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