
社内会議で緊張して思うように話せない、提案が通らない、顧客向けの資料作成に時間がかかりすぎる…このような悩みを解決するために、多くの人がプレゼンテーション研修を受講したり、話し方の練習をしたり、スライド作成ツールの使い方を学んだりしています。
しかしほとんどの努力が無駄に終わっています。というのも、見た目のスキルばかりに目が向いてしまい、本質的な課題が見えなくなっているからです。ぼくがこれまで2000社をサポートし、累計3万人を指導してきた経験から、真にプレゼンスキルを身に着けるための方法をお伝えします。
多くの人がやってしまう「プレゼンスキル向上」の間違ったアプローチ
プレゼンスキルを向上させようとする際、多くの人が陥りがちな間違いがあります。それは「形から入る」アプローチです。
具体的には、次のようなことに時間を費やしてしまいます。
スライドのデザインにこだわりすぎる
美しいテンプレートを探し、フォントや色使いにこだわり、アニメーション効果を多用する。確かに見栄えは良くなりますが、肝心の「伝えたい内容」が曖昧なままでは、どんなに美しいスライドでも相手の心に響きません。
話し方のテクニックばかり練習する
声の大きさ、ジェスチャー、視線の配り方など、表面的なテクニックの習得に集中する。これらも大切ですが、「何を伝えるか」が明確でなければ、上手な話し方をしても相手に何も残らない結果になります。
場数を踏めば上達すると信じている
「とにかく数をこなせば慣れる」と考え、準備不足のまま発表の機会を増やす。しかし、間違った方法で場数を踏んでも、間違いが定着するだけで根本的な改善にはつながりません。
なぜこれらのアプローチが効果的でないのでしょうか。それは、プレゼンテーションの本質が「相手に価値のある情報を、相手が理解しやすい形で届ける」ことにあるからです。どんなに美しいスライドを作っても、どんなに流暢に話しても、相手が「で、結局何が言いたいの?」と感じてしまったら、そのプレゼンテーションは失敗です。
つまり、真のプレゼンスキルとは「自分の考えを相手に分かりやすく伝える力」なのです。この力を身に着けるためには、まず「自分の考えを明確に言語化する」ことから始める必要があります。言語化ができていない状態でスライド作成や話し方の練習をしても、土台のないところに家を建てるようなもので、結果的に時間と労力の無駄遣いになってしまうのです。
プレゼンスキルの土台となる「言語化力」とは
プレゼンテーションで最も重要なのは、自分の頭の中にある考えを相手に正確に伝えることです。しかし、多くの人が「頭では分かっているのに、うまく説明できない」という経験をしています。これは言語化力が不足しているからです。
言語化力とは何か
言語化力とは、自分の考えや感情、経験を言葉で正確に表現する能力のことです。単に語彙が豊富であることではありません。相手の理解度や関心に合わせて、適切な言葉を選び、論理的な構成で伝える力のことです。
なぜ言語化力がプレゼンスキルの土台なのか
プレゼンテーションの成功は、相手が「なるほど、分かった!」と納得してくれることで決まります。そのためには、まず発表者自身が伝えたい内容を完全に理解し、それを相手に分かりやすい言葉で表現できる必要があります。
ぼくの指導経験では、言語化力を身に着けた人のプレゼンテーションは劇的に変わります。スライドはシンプルになり、話し方は自然になり、聞き手の反応も格段に良くなるのです。
言語化力を活用したプレゼンスキル向上法
準備段階での言語化テクニック
論点を一文で表現する
プレゼンテーションを始める前に、「今日の発表で一番伝えたいことは何か」を一文で書き出してください。同時に、この場で相手が知りたいことは何か? それも一文で表してください。この一文が明確になるまで、スライド作成には入らないことが重要です。
相手の立場で言語化する
聞き手がどのような背景知識を持ち、何に関心があるかを想像し、それに合わせて説明の仕方を変える必要があります。専門用語を使うべきか、具体例をどの程度入れるか、これらの判断も言語化力があってこそできることです。
構成を論理的に組み立てる
「結論→根拠→具体例→まとめ」といった基本構成を意識し、それぞれの部分で何を言語化するかを明確にします。特に根拠の部分では、なぜそう考えるのかを相手が納得できる言葉で説明する必要があります。ただし、ここでいう結論とは、「自分が一番言いたいこと」よりも、「相手が一番知りたいこと」であるべきです。
実践的な言語化トレーニング方法
日常業務での練習法
毎日の振り返り記録
その日の業務で学んだことや感じたことを、毎日3分程度で言語化して記録する。「今日は○○という課題があり、△△という方法で解決を試みた結果、□□ということが分かった」といった具合に、事実と感想を分けて整理します。
同僚との議論
会議や打ち合わせの際に、自分の意見を述べる前に「つまり私が言いたいのは」と前置きをして、要点を一文で表現してから詳細を説明する練習をします。
体系的な学習法
ケーススタディの活用
実際のビジネスケースを題材に、問題点の整理、解決策の提案、実行計画の立案を言語化する練習を行います。特に「なぜその解決策が最適なのか」を論理的に説明できるようになることが重要です。
フィードバックの活用
信頼できる同僚や上司に、自分の説明が分かりやすかったかどうかフィードバックをもらいます。「どの部分が分かりにくかったか」「どう表現すればもっと伝わったか」を具体的に教えてもらうことで、言語化力が向上します。
言語化力を身に着けることで得られる具体的な効果
準備時間の短縮
言語化力が身に着くと、プレゼンテーションの準備時間が大幅に短縮されます。なぜなら、伝えたい内容が明確になっているため、それに必要なスライドや資料も自然と決まってくるからです。
ぼくの指導を受けた企業の営業部長は、「以前は1時間のプレゼンテーションの準備に丸一日かかっていたが、今では2時間程度で完成度の高い資料が作れるようになった」と話しています。
説得力の向上
言語化力があると、自分の主張の根拠を明確に示すことができるため、聞き手の納得度が格段に上がります。感情論ではなく、論理的な説明ができるようになるからです。
臨機応変な対応力
発表中に想定外の質問や反応があっても、その場で考えを整理し、適切な言葉で対応できるようになります。これは暗記したスクリプトに頼るのではなく、本質的な理解に基づいているからこそできることです。
まとめ:プレゼンスキル向上の本質は言語化力にある
プレゼンスキルを本当に向上させたいなら、スライド作成や話し方のテクニックよりも先に、言語化力を身に着けることから始めてください。
自分の考えを明確に言語化できるようになれば、それを相手に伝えることは決して難しいことではありません。むしろ、自然体で話しても相手の心に響くプレゼンテーションができるようになります。
今日から実践できることとして、まずは日々の業務での小さな発言から意識を変えてみてください。
今日の会話を振り返る
今日一日の部下との会話を思い出し、「もっと良い伝え方があったか?」を考えてみてください。
明日の会議での発言を準備する
明日の会議で発言する予定がある場合、その内容を事前に一文で要約し、根拠を3つ挙げてみてください。
言語化力は一朝一夕で身に着くものではありませんが、継続的に練習することで必ず向上します。そして、その効果はプレゼンテーションだけでなく、日常のコミュニケーション全般に現れ、あなたのビジネスパーソンとしての価値を大きく高めることになるでしょう。
FAQ
Q: 言語化力を身に着けるのにどのくらいの期間が必要ですか?
A: 個人差はありますが、毎日継続的に練習すれば、1ヶ月程度で明らかな変化を感じられるはずです。ただし、習慣化するまでの最初の1週間が最も重要です。小さなことから始めて、無理のない範囲で続けることがコツです。
Q: プレゼンテーション以外にも言語化力は役立ちますか?
A: はい、言語化力はビジネスのあらゆる場面で威力を発揮します。会議での発言、部下への指導、顧客との交渉、企画書の作成など、「相手に何かを伝える」場面すべてで効果的です。特に管理職の方には必須のスキルだと言えるでしょう。
Q: 技術的な内容を分かりやすく伝えるコツはありますか?
A: 技術的な内容こそ、言語化力が重要になります。専門用語をそのまま使うのではなく、聞き手の理解レベルに合わせて「つまり」「要するに」「具体的には」といった言葉を使って、段階的に説明することが効果的です。また、身近な例に置き換えて説明する練習も有効です。
この記事を書いた人

木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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