
部下への指示や期待が思うように伝わらず、「何度説明しても理解してもらえない」「やってほしいことと違う結果になってしまう」と悩んでいませんか?
そんな時、多くの管理職の方は「もっと大きな声で話そう」「具体的な例を増やそう」「図解やメール、チャットツールを使って視覚的に伝えよう」といった方法を試されているのではないでしょうか。確かにこれらも一定の効果はありますが、実はコミュニケーションの根本的な問題は別のところにあります。
ぼくは2000社をサポートし、累計3万人を指導してきた経験から断言できますが、真のコミュニケーション改善は、伝える「方法」を変えることではなく、伝える「内容そのもの」を言語化するスキルを身につけることで劇的に変わります。この記事では、なぜ従来のアプローチでは限界があるのか、そして本当に効果的な解決策をお伝えします。
やりがちな「コミュニケーション改善」の落とし穴
部下とのコミュニケーションに課題を感じた時、多くの管理職が真っ先に取り組むのが「伝え方の工夫」です。声のトーンを変える、身振り手振りを大きくする、PowerPointで資料を作る、1on1の時間を増やす…。これらは一見すると効果的に思えますし、実際に書籍やセミナーでもよく推奨されている方法です。
しかし、ほとんどの現場ではこれではうまくいきません。
例えば、ある製造業の部長は、部下への指示が伝わらないことに悩み、毎回30分かけて丁寧に説明するようになりました。図も描き、過去の事例も交えて話します。しかし結果は変わりませんでした。部下は「部長の話は長くて要点がわからない」と感じ、ますます距離が生まれてしまったのです。
また別のIT企業の課長は、チャットツールを駆使して部下とのコミュニケーションを図ろうとしました。絵文字を使い、気軽に話しかけられる雰囲気作りに努めました。しかし、「結局何をして欲しいのかわからない」という部下の声は変わりませんでした。
なぜこのような結果になってしまうのでしょうか。
根本的な問題は、伝えたい内容そのものが「言語化できていない」ことにあります。自分の頭の中にある考えや期待が曖昧なまま、それを「上手に伝えよう」としても、受け手には届きません。むしろ、方法論に凝れば凝るほど、本来伝えるべき核心部分がぼやけてしまうのです。
さらに言えば、伝え方を工夫すればするほど、相手は「何かしらの意図がありそうだ」と身構えてしまいます。本来シンプルに伝わるはずの内容も、過度な演出により疑心暗鬼を生んでしまうケースも少なくありません。
つまり、コミュニケーションの問題は「How(どう伝えるか)」ではなく「What(何を伝えるか)」が明確になっていないことが最大の要因なのです。
言語化スキルが部下とのコミュニケーションを劇的に変える理由
なぜ言語化が重要なのか
言語化とは、頭の中にある漠然とした考えや感情を、相手が理解できる具体的な言葉に置き換えるスキルです。多くの管理職は、「自分の考えは明確だ」と思い込んでいますが、実際に言葉にしてみると意外に曖昧だったということがよくあります。
ぼくがサポートしてきた企業の中で、最も劇的な変化を遂げたのは、伝え方のテクニックを学んだ組織ではありません。管理職一人ひとりが自分の考えを言語化するスキルを身につけた組織です。
例えば、「もっと積極的になってほしい」という漠然とした期待を部下に伝える場合を考えてみましょう。多くの管理職は、声を大にして「積極性が足りない!」と伝えたり、事例を交えて積極性の重要さを説いたりします。しかし、「積極的」という言葉が指す具体的な行動が言語化されていないため、部下は結局何をすればいいのかわからないままです。
一方、言語化スキルを身につけた管理職は、「積極的になってほしい」を「会議で最低1回は自分の意見を発言してほしい」「困ったことがあれば24時間以内に相談してほしい」「新しいアイデアを月に1つは提案してほしい」といった具体的な行動レベルまで落とし込んで伝えることができます。
言語化がもたらす3つの効果
言語化スキルを身につけることで、部下とのコミュニケーションに以下の3つの劇的な変化が生まれます。
理解度が上がる
自分の考えが明確に言語化されていると、部下は迷うことなく行動できます。「何となくこういうことかな?」という推測で動く必要がなくなり、結果として期待通りの成果が生まれやすくなります。
信頼関係が構築できる
曖昧な指示ではなく、明確で一貫した言葉で伝えることで、部下は「この上司は自分のことをちゃんと考えてくれている」と感じるようになります。言語化された指示は、相手への配慮と敬意の表れでもあるのです。
時間効率が大幅に改善する
言語化ができていれば、長時間の説明や何度もの確認作業が不要になります。短時間で的確に伝わるため、お互いの時間を有効活用できるようになります。
具体的な言語化のステップ
では、具体的にどのように言語化を進めればよいのでしょうか。ぼくが3万人の指導経験から体系化した3つのステップをご紹介します。
ステップ1:自分の考えを書き出す
まず、部下に伝えたいことを紙に書き出してみてください。この時点では完璧である必要はありません。頭の中にあることを、そのまま文字にすることが重要です。
ステップ2:5W1Hで具体化する
書き出した内容を、5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)の視点で具体化します。特に「何を」「なぜ」「どのように」の3つは必須です。
ステップ3:行動レベルまで落とし込む
最終的に、部下が明日から実行できる具体的な行動レベルまで言語化します。「頑張ってほしい」ではなく「○○を○○までに○○する」という形にします。
言語化スキルを身につけるための実践方法
日常的な訓練で言語化力を向上させる
言語化スキルは一朝一夕で身につくものではありませんが、日常的な訓練により確実に向上させることができます。ぼくが推奨する具体的な方法をご紹介します。
今日の会話を振り返る
今日一日の部下との会話を思い出し、「もっと良い伝え方があったか?」を考えてみてください。特に、相手が困ったような表情を見せた場面や、何度も確認されたポイントがあれば、そこに言語化の改善余地があります。
3分間説明法を実践する
どんな複雑な内容でも、3分以内で説明できるよう訓練します。時間制限があることで、本当に重要なポイントだけを言語化する力が身につきます。
相手の立場で考える習慣をつける
自分の説明を聞く部下の立場になって、「これで理解できるだろうか?」「行動に移せるだろうか?」を常に自問自答します。
部下からのフィードバックを活用する
言語化スキルの向上には、受け手からのフィードバックが不可欠です。しかし、多くの部下は上司に対して率直な意見を言いづらいものです。そこで、フィードバックを得やすい環境を作ることも重要です。
「理解度チェック」を習慣化する
指示を出した後、「今の説明で分からないところはありましたか?」ではなく、「今の話を要約してもらえますか?」と具体的に確認します。部下の理解度が正確に把握できます。
匿名アンケートの活用
定期的に匿名でコミュニケーションに関するアンケートを実施し、改善点を把握します。直接言えないことも、匿名であれば率直な意見をもらえる可能性が高まります。
言語化スキルを組織全体に浸透させる
個人のスキルアップだけでなく、組織全体で言語化スキルを向上させることで、コミュニケーション品質は飛躍的に向上します。
会議での言語化ルールを設定
「結論から話す」「具体的な数字や期限を含める」「行動レベルまで落とし込む」といった言語化のためのルールを会議で共有し、全員で実践します。
言語化の成功事例を共有
言語化により問題が解決した事例を組織内で共有し、その効果を可視化します。成功体験の共有により、全体のモチベーション向上につながります。
まとめ:言語化スキルで部下との関係性を根本から変える
部下とのコミュニケーションがうまくいかないとき、多くの管理職は伝え方の技術に注目しがちです。しかし、本当に必要なのは伝える内容そのものを明確に言語化するスキルです。
言語化スキルを身につけることで、部下との理解度は格段に向上し、信頼関係が構築され、そして何より業務効率が大幅に改善されます。これはぼくが2000社をサポートし、3万人を指導してきた中で確信を持って言えることです。
今日からでも始められることがあります。まずは、明日部下に伝える予定のことを、紙に書き出してみてください。そして、5W1Hで具体化し、行動レベルまで落とし込んでみてください。きっと、今までとは違う反応を部下から得られるはずです。
言語化スキルは、一度身につければ一生使える財産です。部下とのコミュニケーションだけでなく、顧客対応、プレゼンテーション、企画書作成など、あらゆるビジネスシーンで威力を発揮します。ぜひ今日から実践してみてください。
FAQ(よくある質問)
Q: 言語化に時間をかけすぎて、かえって効率が悪くならないでしょうか?
A: 確かに最初は時間がかかりますが、慣れてくると逆に時間短縮につながります。明確に言語化された指示は一度で伝わるため、後から説明し直したり、間違いを修正したりする時間が大幅に削減されます。長期的には圧倒的に効率的です。
Q: 部下のレベルが低くて、どんなに言語化しても理解してもらえません。
A: 部下のレベルに合わせた言語化が必要です。専門用語を使わず、相手が理解できる言葉で表現することも言語化スキルの一部です。また、理解度を段階的に確認しながら進めることで、確実に伝わるようになります。
Q: 言語化スキルを身につけるのに、どのくらいの期間が必要ですか?
A: 個人差はありますが、毎日意識して実践すれば、1ヶ月程度で明らかな変化を実感できるはずです。3ヶ月継続すれば、周囲からも「伝え方が変わった」と言われるレベルになります。重要なのは継続することです。
この記事を書いた人

木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

お問い合わせ
さまざまなビジネスシーンでお悩みのことはありませんか?
個人向けに3万人以上、法人向けに200社以上指導した
言語化メソッドと経験を用いて、御社のお悩みを解決します。
まずはお気軽にお問い合わせ下さい。
お電話でのお問い合わせはこちら
【受付時間】平日 9:00~18:00