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「新人メンバーにどう接すればいいかわからない」
「指導しても思うように成長してくれない」
「フィードバックを伝えても響いていない気がする」

このような新人指導の悩みを抱えるリーダーの方は非常に多いのが現状です。

多くのリーダーが新人指導のスキルアップを図ろうとして、コーチング研修を受講したり、コーチング関連の書籍を読んだりしています。「質問力を身につければ相手の考えを引き出せる」「傾聴スキルがあれば信頼関係が築ける」と考えて、よかれと思ってコーチングのテクニックを学んでいるのです。

しかし、実際の現場でコーチングを実践してみると、「理論通りにいかない」「相手に響かない」「自分らしくない指導になってしまう」といった壁にぶつかってしまいます。本記事では、そんなリーダーの皆さんが抱える課題を解決し、より効果的に新人指導スキルを身につけられる方法をお伝えします。

よかれと思ってやっている「コーチング」の落とし穴

多くのリーダーが新人指導のためにコーチングスキルを学んでいる方は多いです。確かにコーチングは素晴らしい手法ですが、実は多くの方が誤解したまま実践してしまっているのが現状です。

「質問さえすれば相手が答えを見つけてくれる」という思い込みがある

コーチングを学んだリーダーがよくやってしまうのが、とにかく質問を投げかけることです。「どう思う?」「どうしたい?」「なぜそう考えるの?」と矢継ぎ早に質問を重ねてしまいます。

しかし、経験の浅い新人メンバーにとって、漠然とした質問は逆にプレッシャーになってしまいます。まだ業務に慣れていない段階で「どう思うか」を聞かれても、適切な判断材料を持っていないからです。結果として、新人は「何を求められているのかわからない」「答えられない自分がダメなのか」と不安になってしまいます。

「褒めて伸ばす」ことへの過度な意識が空回りしている

コーチングでは相手のモチベーションを上げることが重要とされており、多くのリーダーが「褒めて伸ばす」ことを意識しています。しかし、何でもかんでも褒めてしまうと、逆効果になることがあります。

これは決して「相手が図に乗る」ということではありません。「嘘っぽく聞こえてしまう」ということです。新人メンバーは「本当に評価されているのか」「お世辞で言っているのでは」と疑問に感じてしまいます。特に、具体性のない褒め方をしてしまうと、「がんばってるね」「よくやってるよ」といった言葉が空虚に響いてしまうのです。

テクニックに頼りすぎて「自分らしさ」を失ってしまう

コーチングのテクニックを学ぶことに夢中になりすぎて、本来の自分らしいコミュニケーションスタイルを見失ってしまうリーダーも多く見られます。「傾聴しなければ」「共感しなければ」と意識しすぎるあまり、不自然な対応になってしまい、新人メンバーからは「なんだか違和感がある」と感じられてしまいます。

これらの問題が起こる根本的な理由は、コーチングのテクニックを学んでも、「なぜそのテクニックが有効なのか」「相手にどう伝わっているのか」「自分の意図が正確に伝わっているのか」を言語化できていないからです。つまり、自分の指導行動を言語化するスキルが不足しているのです。

なぜ言語化スキルがコーチングを劇的に向上させるのか

指導の意図が明確になり、一貫性が生まれる

言語化スキルを身につけることで最初に得られる効果は、自分の指導の意図を明確に言語化できるようになることです。

従来のコーチングでは「なんとなく相手のことを考えて質問している」「感覚的に褒めている」という状態になりがちでした。しかし、言語化スキルがあると、「今、この質問をするのは、相手に○○を気づかせるためだ」「この褒め方をするのは、相手の○○という行動を強化したいからだ」と明確に言語化できるようになります。

ぼくがサポートしている企業のリーダーの中に、営業部門のマネージャーをされているAさんという方がいます。Aさんは以前、新人営業メンバーに対して「もっと積極的になってほしい」という思いから、「どんどん質問してみよう」と声をかけていました。しかし、新人メンバーからは「何を質問すればいいかわからない」という反応が返ってきていました。

言語化スキルを身につけたAさんは、自分の意図を次のように言語化しました。
「新人には、お客様のニーズを深く理解する姿勢を身につけてほしい。そのために、まずは『お客様の課題は何か』『その課題がお客様にとってどれくらい重要か』という2つの視点で質問を考える習慣をつけてもらいたい」

この言語化により、Aさんの指導は一変しました。自分の中で方向付けができたため、
単に「質問しよう」ではなく、「まずはお客様の課題を見つける質問から始めてみよう。例えば『現在、○○について困っていることはありますか?』といった質問だね」と具体的に伝えられるようになったのです。

相手の反応を正確に読み取れるようになる

言語化スキルのもう一つの大きな効果は、相手の反応を正確に言語化できるようになることです。これにより、新人メンバーの状態をより深く理解し、適切な対応ができるようになります。

多くのリーダーは、新人メンバーが黙っているときに「理解していないのかな」「やる気がないのかな」と推測で判断してしまいます。しかし、言語化スキルがあると、相手の表情、声のトーン、姿勢などから、より正確に相手の状態を読み取れるようになります。

先ほどのAさんの例で言うと、新人メンバーが質問に対して答えられずにいるとき、以前は「やる気がない」と感じていました。しかし、言語化スキルを身につけた後は、新人の状態を「質問の意味は理解している。答えたい気持ちもある。ただ、どう答えればいいかの判断基準がわからないために迷っている状態」と正確に言語化できるようになりました。

この言語化により、Aさんは「君の考えを聞かせて」ではなく、「まず、お客様の話を聞いていて気になった点を一つ挙げてみて。正解不正解は気にしなくていいから」と、新人が答えやすい形で質問を修正できるようになったのです。

フィードバックの質が圧倒的に向上する

言語化スキルの最も大きな効果は、フィードバックの質の向上です。多くのリーダーが苦手とするフィードバックが、言語化スキルによって劇的に改善されます。

従来のフィードバックは「よくできたね」「もう少しがんばろう」といった抽象的なものになりがちでした。しかし、言語化スキルがあると、具体的な行動と、その行動が生み出した結果、そしてなぜそれが良かったのか(または改善が必要なのか)を明確に言語化できるようになります。

ぼくがサポートしている別の企業の開発部門リーダーのBさんは、新人エンジニアに対するフィードバックを次のように変化させました。

以前のフィードバック: 「コードレビューでの対応、よかったよ。この調子でがんばって」

言語化スキル習得後のフィードバック: 「今回のコードレビューで、指摘された点について『なぜそうなったのか』と『どう改善すればいいか』の両方を整理してから返答していたね。特に、『この書き方だと処理速度が落ちる可能性があります。ループ処理を○○に変更することで改善できると思います』という説明は、問題の本質と解決策が明確で、とても分かりやすかった。この『問題→原因→解決策』の流れで説明する姿勢を続けていけば、チーム全体のコードの質向上にもつながると思う」

この違いは明らかです。後者のフィードバックを受けた新人エンジニアは、「何が評価されたのか」「今後も続けるべき行動は何か」「それによってどんな効果が期待できるのか」を明確に理解できます。

今日から始められる言語化スキル向上の実践法

「3つのなぜ」で指導の意図を明確にする

新人メンバーに指導やアドバイスをする前に、次の3つの「なぜ」を自分自身に問いかけてみてください。

なぜこのポイントを指導することが必要なのかを言語化する

部下にフィードバックを与えることは大事です。でもなぜ「そのポイント」を指摘したのでしょうか? そのポイントが変わらないと何がいけないのでしょうか? それをまず自分の中で整理してみてください。

なぜこの方法で伝えるのかを明確にする

同じ内容を伝えるにしても、複数の伝え方があるはずです。その中でなぜその方法を選んだのかを言語化してみてください。

なぜこのタイミングなのかを考える

「今、この瞬間に伝える必要があるのか」「もう少し時間を置いた方がいいのか」といったタイミングの判断理由も言語化してみてください。

これらを習慣化することで、自分の指導行動の意図が明確になり、一貫性のある指導ができるようになります。

新人の状態を5W1Hで言語化する

新人メンバーとの対話の中で、相手の状態を5W1Hで言語化する練習をしてみてください。

例えば、「この新人メンバー(Who)は、責任感が強い性格で、お客様対応業務(Where)において、先週から(When)『お客様に適切な回答ができているか不安』(What)を感じている。これは、まだ商品知識が十分でないこと(Why)が原因なので、まずは基本的な商品知識を体系的に整理して伝える(How)ことが効果的だろう」といった具合です。

Who(誰)について言語化する

この新人メンバーの特性は何かを明確にします。

What(何)について言語化する

今、何に困っているのか、何を求めているのかを把握します。

When(いつ)について言語化する

いつからこの状態なのか、いつまでに解決したいのかを確認します。

Where(どこ)について言語化する

どの業務領域で、どの場面で課題が生じているのかを特定します。

Why(なぜ)について言語化する

なぜその状態になっているのかの原因を探ります。

How(どのように)について言語化する

どのようなサポートが最も効果的かを考えます。

まとめ

新人指導に悩むリーダーの多くが、コーチングスキルの習得に力を入れています。しかし、テクニックだけを学んでも、なかなか思うような成果は得られません。本当に効果的な新人指導を行うためには、まず言語化スキルを身につけることが重要です。自分の指導の意図を明確に言語化し、相手の状態を正確に読み取り、適切なフィードバックを提供する。これらすべての基盤となるのが言語化スキルなのです。

ぼくがこれまで2000社をサポートし、累計3万人を指導してきた経験からも、言語化スキルを身につけたリーダーの指導力向上は目覚ましいものがあります。今日からでも始められる実践法をお伝えしましたので、ぜひ一つずつ取り組んでみてください。あなたの指導により、新人メンバーがより早く成長し、チーム全体のパフォーマンス向上につながることを心から願っています。新人指導に関するより具体的なサポートが必要でしたら、いつでもお気軽にご相談ください。

FAQ

Q: コーチングの研修を受けたのに、なぜうまくいかないのでしょうか?

A: コーチングのテクニックは確かに有効ですが、それを「なぜ使うのか」「どう相手に伝わるのか」という部分が言語化できていないと、表面的な真似事になってしまいます。まずは自分の指導の意図を明確に言語化することから始めてみてください。

Q: 言語化スキルを身につけるのに、どれくらいの時間がかかりますか?

A: 個人差はありますが、日常的に実践していただければ、2〜3ヶ月で明らかな変化を感じられるはずです。特に「3つのなぜ」を習慣化することで、1ヶ月程度でも指導の質の向上を実感できるでしょう。

Q: 新人メンバーのタイプが様々で、同じ指導法が通用しません。どうすればいいでしょうか?

A: まさにそこで言語化スキルが威力を発揮します。それぞれの新人メンバーの特性や状態を正確に言語化できるようになれば、一人ひとりに最適な指導法を見つけられるようになります。画一的な指導から脱却する鍵は、相手を正確に言語化することにあるのです。

この記事を書いた人

木暮太一 写真

木暮太一

(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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