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部下に誤解がないように伝えたい。でも部下も忙しい。限られた時間で的確に情報を伝えたい。……でも、なかなか伝わらない。

そんな課題を抱える管理職の方は多いのではないでしょうか。よかれと思って詳細な説明を重ねても、かえって相手を混乱させてしまったり、要点が伝わらずに作業が停滞してしまった経験があるはずです。短時間で的確に伝える技術は、現代のビジネスシーンにおいて必須のスキルです。本記事では、2000社をサポートし、累計3万人を指導してきたぼくの経験から、短く、でも誤解されないように伝える具体的な方法をお伝えします。

みんながやってしまう「短く伝える」の間違ったパターン

短く伝えようとして、多くの人が陥りがちな間違いがあります。多くの方が「要点だけを伝えれば相手は理解してくれる」という思っていますね。でもそれは誤解と言わざるを得ません。具体的には、こんなことをしてしまいがちです。

結論だけを投げる
「この資料、明日までに修正して」「会議室の予約、よろしく」といった具合に、最低限の情報だけを伝える方法です。

専門用語や略語を多用する
「KPIの数値をBIツールで確認して、ROIを計算しておいて」のように、相手の理解度を考慮せずに専門用語を連発する方法です。

背景説明を完全に省く
なぜその作業が必要なのか、どんな目的があるのかを一切説明せずに、やるべきことだけを伝える方法です。

これらの方法がなぜ良くないのでしょうか。

まず、結論だけを投げる方法は、相手に多くの推測を強いることになります。「どの程度の修正が必要なのか」「いつまでに会議室が必要なのか」「どんな目的の会議なのか」―これらの情報が不足していると、相手は作業を進めることができません。結果的に、確認の連絡が何度も必要になり、かえって非効率になってしまいます。

専門用語や略語の多用は、相手の理解度に関係なく情報を投げつけることになります。特に新入社員や他部署の人とのやり取りでは、用語の意味を理解するだけで時間がかかってしまい、本来の業務に集中できなくなります。

背景説明を省く方法も同様に問題があります。人は「なぜこの作業が必要なのか」を理解していないと、優先順位を判断できません。また、途中で疑問が生じた際に、適切な判断ができずに作業が停滞してしまいます。

これらの間違ったパターンに共通するのは、「短く伝える」ことと「必要な情報を削る」ことを混同している点です。真の「短く伝える」スキルとは、相手が行動を起こすために必要な情報を、最小限の言葉で的確に伝えることなのです。

短く伝えるために必要な3つの要素

相手の立場に立った情報の整理

短く効果的に伝えるためには、まず相手が何を知りたがっているのかを理解する必要があります。
相手の立場に立って考えてみてください。部下があなたの指示を受けたとき、頭の中にはこんな疑問が浮かんでいるはずです。

何をすればいいのか(What)
具体的にどんな作業や行動を求められているのかを明確にする必要があります。

いつまでにすればいいのか(When)
期限や優先順位を明確にしないと、相手は他の業務との調整ができません。

なぜ必要なのか(Why)
作業の背景や目的を理解していないと、途中で判断に迷ったときに適切な対応ができません。

どの程度の品質が求められているのか(How)
完成度の基準が曖昧だと、やり直しが発生する可能性が高くなります。

これらの要素を整理して伝えることで、相手は迷うことなく作業に取り組むことができます。

たとえば、「この資料を修正して」という指示を改善するなら、「顧客向けプレゼン資料の3ページ目のグラフを、最新の売上データに更新してください。明日の午前中の会議で使用するため、今日の17時までにお願いします」となります。

短く・でもポイントを漏らさず伝える「テンプレップの法則」

短く、でも誤解されないように伝える方法として紹介したいのが、ぼくが考案した「テンプレップの法則」です。これは、ぼくが2000社をサポートし、3万人を指導してきた経験から生まれた、説明の黄金ルールです。どんな複雑な内容でも、この6つのステップに沿って組み立てるだけで、驚くほどわかりやすく伝えることができます。

ステップ1:テーマ(Theme)を伝える
「今日は○○についてお話しします」で始める

ステップ2:数(Number)を伝える
「ポイントは3つです」で全体像を示す

ステップ3:結論(Point)を伝える
「結論から言うと××です」で要点を先出し

ステップ4:理由(Reason)を伝える
「その理由は○○だからです」で根拠を示す

ステップ5:具体例(Example)を伝える
「例えば△△のような事例があります」で補強

ステップ6:結論(Point)を再確認
「つまり××ということです」で締めくくる

テンプレップを使った劇的な変化

実際に、ある企業の営業チームでテンプレップの法則を導入したところ、こんな変化がありました。

導入前の営業トーク
「弊社のサービスは、いろいろな機能があって、コストも抑えられて、他社さんでも評判が良くて…」

導入後の営業トーク
「今日は御社の営業効率を30%向上させる提案をします(テーマ)。ポイントは2つです(数)。結論から言うと、弊社のシステムで営業コストを月50万円削減できます(結論)。その理由は自動化機能で人件費が削減できるからです(理由)。実際にA社では導入3ヶ月で目標を達成しました(具体例)。つまり、御社も同様の効果が期待できるということです(結論)」

結果、商談成約率が40%向上し、プレゼン時間も半分に短縮できました。

テンプレップの法則を身につける実践トレーニング

基礎練習:6ステップの型を覚える

テンプレップの法則を自然に使えるようになるには、まず基本の型を身体に覚え込ませることが重要です。

1分間説明練習
身近なテーマ(好きな食べ物、趣味、最近読んだ本など)を使って、テンプレップの6ステップで1分間説明する練習をしてください。最初は紙に書き出してから話すと良いでしょう。

毎日の報告で実践
日常の業務報告をテンプレップで構成してみてください。「今日の業務について報告します(テーマ)」「報告は3点です(数)」「結論として、すべて予定通り完了しました(結論)」という具合に。

会議での発言練習
会議で発言する前に、頭の中で「テーマ→数→結論→理由→具体例→結論」の順序を確認してから話すクセをつけましょう。

応用練習:複雑な内容への対応

基本ができるようになったら、より複雑な内容にチャレンジしてみてください。

複数の結論がある場合
「ポイントは3つです」と言った場合、それぞれに理由と具体例をつけて説明します。全体の構造は保ちながら、各ポイントでミニテンプレップを行うイメージです。

時間制限がある場合の調整
30秒しかない場合は「テーマ→結論」だけ、3分ある場合は全ステップを使うなど、時間に応じて柔軟に調整する練習をしてください。

反対意見への準備
結論に対して想定される反論を事前に考え、理由と具体例の部分で先回りして対処する方法を練習しましょう。

組織全体でのテンプレップ導入

個人だけでなく、チーム全体でテンプレップの法則を活用することで、コミュニケーション効率が飛躍的に向上します。

共通フォーマットの作成
会議資料、報告書、提案書などをテンプレップの構造で統一することで、情報共有がスムーズになります。

フィードバック文化の醸成
「今の説明、テンプレップで整理するともっとわかりやすくなりそうですね」といった建設的なフィードバックを気軽に言い合える環境を作りましょう。

成功事例の共有
テンプレップを使って説明がうまくいった事例を組織内で共有し、継続的な改善につなげていきます。

実際に、ある部署でテンプレップの法則を全員で習得したところ、会議時間が平均40%短縮され、決定事項の実行スピードも大幅に向上したという事例があります。

まとめ

短く、でも誤解されないように伝えるスキルは、現代のビジネスシーンにおいて必須の能力です。単に情報を削るのではなく、相手が行動を起こすために必要な情報を、最小限の言葉で的確に伝えることが重要です。

相手の立場に立った情報整理、構造化された伝達方法、理解度確認の仕組み―これらの要素を意識することで、あなたのコミュニケーション効率は格段に向上するでしょう。

ぜひ今日から、一つずつでも実践してみてください。部下との関係性が改善し、チーム全体の生産性向上にもつながるはずです。2000社をサポートしてきたぼくの経験から言えるのは、このスキルを身につけた管理職の方は、例外なく部下からの信頼を得て、優秀なチームを築いているということです。

FAQ(よくある質問)

Q: 短く伝えようとすると、冷たい印象を与えてしまうのではないでしょうか?
A: 短く伝えることと冷たい印象を与えることは別問題です。相手への配慮を示すクッション言葉(「お疲れ様です」「ありがとうございます」)を適切に使い、相手の理解度を確認する姿勢を見せることで、むしろ思いやりのあるコミュニケーションができます。

Q: 部下のレベルに差がある場合、どのように使い分ければよいでしょうか?
A: 相手の経験値や知識レベルに応じて、情報の詳細度を調整することが重要です。新人には背景説明を多めに、ベテランには結論重視で伝えるなど、相手に合わせた柔軟性を持ちましょう。ただし、基本的な構造(結論→詳細→確認)は変えずに、情報量を調整するのがコツです。

Q: 緊急時にも同じ方法で伝えるべきでしょうか?
A: 緊急時こそ、短く的確に伝えるスキルが重要になります。ただし、平常時よりも結論を先に伝え、詳細説明は後回しにするなど、優先順位を明確にすることが大切です。「緊急事態です。まず○○をしてください。理由は後で説明します」といった具合に、行動を促すことを最優先にしましょう。

この記事を書いた人

木暮太一 写真

木暮太一

(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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