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最近、多くの企業が「女性活躍推進」に力を入れています。

管理職向けの意識改革研修、女性社員のキャリア開発研修、アンコンシャス・バイアス研修など、様々な取り組みが展開されています。これらの研修は確実に職場環境の改善に寄与しており、女性社員のモチベーション向上や管理職の意識変化といった成果も見られます。

しかし、ぼくが多くの現場を見てきた中で感じるのは、「よかれと思って」実施している内容が時として逆効果を生んだり、せっかくの研修効果を限定的なものにしてしまっているケースがあることです。今回は、女性活躍推進研修のメリットを改めて確認しつつ、さらに効果を高めるための視点について考えてみたいと思います。

女性活躍推進は、もちろん重要

女性活躍推進研修の最大のメリットは、これまで「当たり前」とされてきた職場の慣習や考え方に光を当てることです。管理職が無意識に持っているバイアスを可視化したり、女性社員が自身のキャリアについて改めて考える機会を提供したりすることで、組織全体の意識改革を促進します。

特に効果的なのは、具体的な事例を通じて学ぶアプローチです。たとえば「女性は転勤を嫌がる」「出産後は仕事への意欲が下がる」「女性は管理職になりたがらない」といった思い込みが、実際にはどれほど根拠に乏しいものかを、データや実例を通じて示すことで、参加者の認識を大きく変えることができます。

また、女性社員向けのキャリア開発研修では、ロールモデルとなる先輩社員の体験談を聞くことで、「自分にもできるかもしれない」という前向きな気持ちを醸成できます。これは確実に組織の活性化につながっています。

「よかれと思って」が生む逆効果

一方で、善意から実施されている取り組みの中には、意図せずマイナスの影響を与えているものもあります。

最も多く見られるのが、「女性だから」という前提での特別扱いです。例えば、女性管理職候補者だけを集めた特別なメンタリングプログラムや、女性向けの働き方セミナーなどです。これらは確かに女性社員のスキル向上に役立ちますが、同時に「女性は特別な支援が必要な存在」というメッセージを発信してしまうリスクがあります。

また、研修で「ワークライフバランス」を強調しすぎることで、「女性は仕事よりもプライベートを重視する」という新たなステレオタイプを作り出してしまうケースもあります。実際には、キャリアに対する意欲や価値観は個人によって大きく異なるにも関わらず、性別で一括りにしてしまうことの弊害です。

さらに、管理職向け研修では「女性部下への接し方」に焦点を当てすぎるあまり、女性を「配慮すべき対象」として位置づけてしまい、結果的に重要な仕事から遠ざけてしまうという本末転倒な状況も生まれています。

さらに効果を高めるための視点

女性活躍推進研修をより効果的にするためには、いくつかの視点を追加することが重要だと考えています。

まず、「個人差」への着目です。性別による違いよりも、個人の価値観、キャリア志向、ライフスタイルの違いの方がはるかに大きいという事実を、研修の核に据える必要があります。「女性だから○○」ではなく、「Aさんだから○○」という視点で人材育成を考えることが重要です。

次に、「システムの問題」への言及です。個人の意識改革だけでなく、評価制度、昇進制度、働き方の仕組み自体に存在する構造的な課題についても議論する必要があります。制度そのものが変わらなければ、意識だけ変わっても限界があります。

そして、「男性社員の巻き込み」も欠かせません。女性活躍は女性だけの問題ではなく、組織全体の課題です。男性社員にとってもメリットのある働き方改革として位置づけることで、より広範囲での理解と協力を得ることができます。

言語化が組織を動かす

これらの課題を解決するために、ぼくは「言語化プログラム」の活用を提案しています。

従来の研修では、「気づき」や「意識の変化」で終わってしまうことが多いのですが、言語化プログラムでは、参加者が自分の考えや感情を具体的な言葉で表現することを通じて、より深い理解と行動変容を促進します。

例えば、管理職が「女性部下との関わり方で悩んでいること」を具体的に言語化することで、その悩みの本質が性別の問題ではなく、コミュニケーションスタイルの違いや経験値の差にあることが明確になります。同様に、女性社員が「キャリアに対する不安」を言語化することで、漠然とした不安が具体的な課題として整理され、解決策も見えてきます。

言語化のプロセスでは、「なぜそう思うのか」「何がそう感じさせるのか」を掘り下げることで、表面的な理解を超えた本質的な気づきを得ることができます。これにより、研修後の行動変容がより確実で持続的なものになるのです。

そもそも「女性活躍」という言葉自体が、男性視点で生まれていると感じています。逆説的に聞こえるかもしれませんが、「女性活躍」を推進したいのであれば、「女性・男性」関係なく、組織のメンバーが考えていることを明確にし、また組織がメンバーに求めていることを明確に伝えなければいけません。

継続的な成長のために

女性活躍推進研修の効果を最大化するためには、一回限りのイベントではなく、継続的な学びと実践のサイクルを作ることが重要です。言語化プログラムは、このサイクルにおいて中核的な役割を果たします。

定期的に自分の考えや経験を言語化し、他者と共有することで、常に新たな視点を獲得し続けることができます。そして、それが組織全体の成長につながっていくのです。

女性活躍推進は、決して女性だけのための取り組みではありません。すべての社員が自分らしく働き、能力を最大限に発揮できる組織を作るための重要なステップです。その実現のために、ぼくたちには今まで以上に深く、具体的に考え、それを言葉にして共有していくことが求められているのではないでしょうか。

この記事を書いた人

木暮太一 写真

木暮太一

(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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