
「うちの社員はやる気がない」「何度言っても同じミスを繰り返す」「優秀な人材がすぐに辞めてしまう」
そう感じている経営者は多いかもしれません。特に、自分が若いころの仕事の仕方、指導方法が通用しなくなっているため、相手のやる気を感じられない時もどうしていいかわかりませんん。部下のモチベーション向上のために、懇親会を頻繁に開いたり、給与や賞与を上げたり、最新の研修プログラムを導入したりしています。しかし、これらの施策を講じても、なかなか根本的な改善には至ってないですね。
実は、部下のやる気を引き出すマネジメントで最も重要なのは、高額な投資でも特別な制度でもありません。経営者自身の「言語化力(明確に伝える力)」なのです。ぼくはこれまで2000社をサポートし、累計3万人を指導してきましたが、優秀なリーダーに共通するのは、言語化スキルの高さでした。
よかれと思ってやっている「間違ったマネジメント」
多くの経営者が部下のモチベーション向上のために行っているのが、以下のような取り組みです。
頻繁な懇親会や飲み会の開催
社員同士の親睦を深めるため、月に数回の懇親会を企画する
金銭的インセンティブの拡充
頑張った社員にはボーナスを出し、昇給制度を充実させる
最新の研修やセミナーへの参加
外部の専門講師を招いた研修や、話題のマネジメント手法を学ぶセミナーに参加させる
目標設定とKPIの細分化
数値目標を細かく設定し、達成度を毎日チェックする
オフィス環境の改善
働きやすい環境を整えるため、最新の設備やフリーアドレス制を導入する
しかし、これらの施策には共通する大きな問題があります。それは「なぜその取り組みが必要なのか」「どのような効果を期待しているのか」を、経営者自身が言語化できていないことです。
例えば、懇親会を開催する際、多くの経営者は「チームワークを良くしたい」と漠然と考えていますが、具体的に「どのような行動の変化を期待しているのか」「なぜ懇親会がその解決策になるのか」を明確に説明できません。その結果、参加する社員も「なんとなく参加している」状態になり、期待した効果は得られないのです。
金銭的インセンティブについても同様です。「頑張ったから報酬を上げる」という発想は一見合理的に思えますが、「何を頑張ったのか」「どのような成果が会社にとって価値があるのか」を言語化して伝えなければ、社員は「お金をもらうための頑張り」をするようになります。これでは本質的なモチベーション向上にはつながりません。研修やセミナーへの投資もまたしかり。「最新の手法を学べば問題が解決する」と考えがちですが、学んだ内容を現場でどう活用するか、なぜその手法が自社に必要なのかを経営者が言語化して説明できなければ、研修は単なる「イベント参加」で終わってしまいます。
このように、施策そのものは決して間違っていないのですが、その背景や目的、期待する効果を言語化できていないために、社員に真意が伝わらず、結果として期待した成果が得られないのです。ぼくがこれまで指導してきた企業でも、同じパターンで悩んでいる経営者が非常に多くいました。
言語化スキルがマネジメントを劇的に変える理由
優秀なリーダーと普通のリーダーの決定的な違いは、自分の考えや意図を明確に言語化し、相手に分かりやすく伝える能力の差にあります。
人は理解できないものには従わない
人間の心理として、理解できないことや曖昧な指示には積極的に取り組もうとしません。「とにかく頑張れ」「もっと積極的に」といった抽象的な指示では、部下は何をどう行動すれば良いか分からず、結果として消極的になってしまいます。
一方、言語化スキルの高いマネージャーは、「なぜその作業が必要なのか」「どのような結果を期待しているのか」「それが会社全体にどのような影響を与えるのか」を具体的に説明できます。部下が納得して行動できるため、自然とモチベーションが向上するのです。
信頼関係は「伝わる」ことから生まれる
部下との信頼関係を築くために重要なのは、経営者の人柄や熱意だけではありません。最も大切なのは、経営者の考えや思いが部下に「正確に伝わる」ことです。
どんなに素晴らしいビジョンを持っていても、それを言語化して伝える能力がなければ、部下には伝わりません。逆に、考えを明確に言語化できる経営者は、部下から「この人の言うことは分かりやすい」「この人についていきたい」と思われるようになります。
問題解決のスピードが向上する
職場で発生する様々な問題も、言語化スキルがあることで解決スピードが格段に向上します。問題の本質を言語化できれば、解決策も明確になり、部下も具体的にどう行動すれば良いかが分かるからです。
例えば、「売上が伸びない」という問題があった場合、多くの経営者は「もっと営業を頑張れ」と指示しがちです。しかし、言語化スキルの高いマネージャーは、「新規顧客への初回訪問から提案までの期間が長すぎることが売上低迷の原因。具体的には平均15日かかっているところを7日以内に短縮する必要がある」といったように、問題を具体的に言語化します。
これにより、部下は何をどう改善すれば良いかが明確になり、効果的なアクションを取ることができるのです。
言語化スキルを活用した実践的マネジメント手法
1. 「それをするとどういう変化が起こる?」を3回繰り返す指示出し
部下に何かを依頼する際は、必ず「それをするとどういう変化が起こるのか」を3段階で説明してください。
直接的な変化
「この資料を作成すると、来週の企画会議で具体的な提案ができるようになります」
組織への変化
「企画会議で具体的な提案ができると、チーム全体の方向性が明確になり、メンバーが迷わずに行動できるようになります」
会社全体への変化
「チーム全体が迷わず行動できるようになると、プロジェクトの進行スピードが上がり、来年度の売上目標達成により近づきます」
このように段階的に変化を説明することで、部下は自分の作業がもたらす影響を理解し、より責任感を持って取り組むようになります。
2. 具体的な成功イメージの共有
抽象的な目標ではなく、成功した状態を具体的に言語化して共有してください。
悪い例
「お客様満足度を向上させよう」
良い例
「お客様からの問い合わせに対して、24時間以内に初回回答を行い、解決まで平均3日以内に短縮することで、お客様満足度アンケートの評価を現在の3.2から4.0以上に向上させる」
具体的なイメージを共有することで、部下は何を目指せば良いかが明確になり、行動に移しやすくなります。
3. 失敗の原因を感情ではなく事実で分析
部下が失敗した際は、感情的に叱るのではなく、失敗の原因を事実ベースで言語化してください。
感情的な対応
「なんでこんなミスをするんだ!」
言語化による対応
「今回のミスは、確認手順の3番目『数値の再計算』が抜けていたことが原因ですね。この手順を確実に実行するために、チェックリストに印をつける方法を導入しましょう」
このように原因を具体的に言語化することで、部下は同じミスを繰り返さず、建設的な改善策を考えることができます。
4. 成長につながるフィードバック
部下の成長を促すフィードバックも、感覚的な評価ではなく、具体的な観察事実を言語化することが重要です。
改善ポイントの言語化
「プレゼンテーションで、スライド3枚目の売上グラフの説明時に、聞き手の表情を確認せずに話し続けていました。次回は、重要なポイントを説明する際は、聞き手の理解度を確認する質問を1つ挟んでみてください」
成長ポイントの言語化
「先月と比較して、お客様への提案書の作成スピードが50%向上しています。特に、市場分析の部分で使用するテンプレートを工夫したことが効果的でした。この手法を他のメンバーにも共有してもらえますか」
5. 定期的な「言語化の時間」の設定
週に1回、15分程度の時間を設けて、部下と一緒に「今週の成果と課題」を言語化する時間を作ってください。
今週の成果を言語化する
今週一番成果が上がった取り組みを、「何を」「どのように」「なぜうまくいったのか」の3つの観点で言語化してもらいます。
課題を言語化する
今週一番の課題について、「何が問題だったのか」「なぜその問題が発生したのか」「どう改善すべきか」を具体的に言語化してもらいます。
この習慣により、部下自身の言語化スキルも向上し、自律的に課題解決に取り組むようになります。
言語化スキルで組織が変わる
部下のモチベーション向上に悩む中小企業の経営者にとって、最も重要なのは新しい制度の導入でも高額な研修でもありません。経営者自身が「言語化スキル」を身につけ、自分の考えや意図を明確に伝える能力を向上させることです。言語化スキルを身につけることで、部下は経営者の真意を理解し、納得して行動するようになります。その結果、組織全体のモチベーションが向上し、離職率の低下や生産性の向上につながるのです。
ぼくがこれまで指導してきた2000社の経営者の中で、大きな成果を上げた方々に共通するのは、この言語化スキルの重要性に早く気づき、継続的に改善に取り組んだことでした。言語化とは「明確化」です。自分が考えていること、組織が向かっている方向性、相手に依頼したいことなどを、明確に言葉にしましょう。きっと、部下の反応や行動に変化が現れるはずです。経営者の伝える力が変われば、組織全体が変わります。言語化スキルを磨いて、より強い組織を作り上げていきましょう。
この記事を書いた人

木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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