なぜ指示が伝わらないのか?組織内コミュニケーションの課題を徹底分析してみた

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多くの方が「なぜ指示が伝わらないのだろう」と悩んでいます。ぼくは最近、ある組織で発生している「伝わらない」問題を詳しく分析する機会がありました。その結果、単なる個人のコミュニケーション能力の問題ではなく、組織全体に共通する構造的な課題が見えてきました。分析した1000件を超える事例から明らかになった4つの観点から、この問題の本質と解決の糸口を探っていきます。

何が伝わらないのか

「伝わらない」と悩んでいる人はすごく多いですが、実際に「何が」伝わらないのかを細かく考えているケースは少ないです。

分析結果の中で最も印象的だったのは、伝わらないのは「作業指示そのもの」ではなく、その裏にある「背景・目的・趣旨・前提条件」だということです。事例を詳しく見ると、表面的なタスクは理解されているのに、なぜその作業が必要なのか、どの程度の品質が求められているのか、どこまでが担当範囲なのかといった「意図」の部分で誤解が生じているケースが圧倒的に多かったです。

たとえば「資料をまとめておいて」という指示を出したとき、指示を受けた側は「どの範囲の情報を」「どの程度の詳しさで」「いつまでに」「誰に向けて」まとめるべきかが分からず、結果として期待とは異なる成果物が出来上がってしまいます。これは指示を出す側が「当然分かるだろう」と思い込んでいる前提条件が、実は共有されていないことを意味しています。

改善のカギは、要点と背景を整理し、構造化された伝え方を身につけることです。単に「何をするか」だけでなく「なぜするか」「どこまでするか」「どう判断するか」まで含めて伝える習慣を作ることが重要だとぼくは考えます。

いつ伝わらないのか

もう一つの重要な発見は、「メール・チャット」「オンライン会議」といった”非対面”でのコミュニケーションで特に誤解が生じやすいということです。これは現代の働き方において深刻な問題といえるでしょう。コロナ禍以降、オンラインツールを活用したやり取りがより増えています。非常に便利ですが、同時に「伝わらない場」でもあることがわかりました。

オンラインでのやりとりでは、文字通り「温度」が伝わりません。またさらにそれが「オンラインで、かつテキスト」になると、表情や声のトーンといった非言語情報が欠落するため、微妙なニュアンスが伝わりにくくなります。また、「その場で確認する」ことができないため、疑問があってもそのまま進めてしまい、後で大きな誤解に発展するケースが多く見られました。

この課題に対しては、ツールや状況に応じた伝達手法の使い分けが必要です。重要な指示はメールなどで記録に残し、細かいニュアンスは対面で補完する。チャットでの指示には必ず確認のステップを組み込む。こうした意識的な使い分けが伝達精度を高める鍵になります。

誰に伝わらないのか

最も多くの事例が集まったのがこの観点でした。実際に「伝わらない!」と感じているのは、「対部下」、とくに「年上部下」という回答が非常に多かったです。

若手メンバーに対しては、経験不足による前提知識の違いが大きな障壁となっています。ぼくたちが「常識」だと思っていることが、彼らにとっては未知の領域かもしれません。一方で年上部下に対しては、誰もが想像するように「遠慮して言いづらい」です。相手のこれまでの経験やプライドに配慮しながら新しいやり方を伝える難しさがありますね。

同じ内容を伝える場合でも、相手によって言葉の選び方を変える必要があります。当然のことと言えば当然のことですが、それが伝える難しさをさらに上げています。「適切な言語の選び方」に多くの人が悩んでいるのが現状です。

この課題の解決には、相手に応じた言語の最適化と共通認識の形成が欠かせません。若手には具体例を多く交えた説明を、経験豊富な年上部下には判断の裁量を残した伝え方を心がける。そして何より大切なのは、お互いの前提条件を確認し合う文化を作ることです。

なぜ困っているのか

今回の分析から見えてきたのは、コミュニケーションの不全が単発の問題ではなく、組織全体に波及する連鎖反応を引き起こしているということです。

指示が正しく伝わらないと、誤解、ミス、非効率、行動のズレが生まれます。これらは一見小さな問題に見えますが、修正作業、やり直し、関係者への説明といった追加業務を生み出し、最終的には組織全体の生産性低下につながっています。

さらに深刻なのは、伝わらない原因が自分にあるのか相手にあるのか分からず、不安を感じている人が多いことです。「この言い方で伝わってほしい」と願いつつも、伝わりません。その時「やっぱり自分が悪いのかな…… 自分の能力がないのかな……」と過度に自分を責めてしまうことがあります。この不安は自信の喪失や人間関係の悪化を招き、さらなるコミュニケーション障害を生む悪循環を作り出しています。

この問題の解決には、理解確認の習慣化と言語の透明性向上が必要です。指示を出した後は必ず「どう理解したか」を確認する。専門用語や前提条件は明確に定義する。そして何より、「伝わらないのは当たり前」という前提に立って、丁寧な確認プロセスを組織文化として定着させることが重要です。

構造的な改善が鍵

この分析を通じて分かったのは、「伝わらない」問題は個人のスキルの問題を超えた、組織の構造的な課題だということです。意図の共有不足、ツールの使い方の未整理、相手に応じた伝達方法の未確立、そして確認文化の不在。これらは相互に関連し合っており、一つを改善しただけでは根本的な解決にはなりません。

ぼくは、この問題に真剣に取り組む組織こそが、これからの時代に求められる「学習する組織」になれるのではないかと考えています。完璧なコミュニケーションを目指すのではなく、「伝わらないことを前提とした仕組み作り」が必要だと思います。そもそも「これさえやっておけば必ず伝わる」という万能薬はありません。そのままでは伝わらないので、みんなで頑張って伝え合おうと考えることが、現代の組織運営における重要な視点だと思うのです。

この記事を書いた人

木暮太一 写真

木暮太一

(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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