
「この候補者は本当に優秀なのか?」「面接では良い印象だったのに、入社後のパフォーマンスがイマイチ…」採用担当の人事リーダーなら、こうした悩みを一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
優秀な人材を見極めようと、多くの人事担当者は構造化面接や行動面接(コンピテンシー面接)の技法を学び、心理学的なアセスメント手法を導入しています。面接官研修に参加し、評価シートを作り込み、複数回の面接プロセスを構築する。これらの取り組みは確かに重要です。
しかし実際には、こうした「よかれ」と思って行っている施策が、かえって優秀な人材を見落とす原因になってしまうケースが少なくありません。
みんながやってしまっている「面接の罠」
多くの採用担当者が陥りがちなのが、「質問テンプレートに頼りすぎる」「評価項目を細かく設定しすぎる」「面接官の主観を排除しようとしすぎる」という3つの落とし穴です。
質問テンプレートを多用してしまう 「あなたの強みと弱みを教えてください」「困難を乗り越えた経験を具体的に話してください」といった定型的な質問を並べ立てる面接を見かけます。確かに構造化面接の観点から言えば、すべての候補者に同じ質問をすることで公平性は保たれます。しかし、テンプレート通りの質問では、候補者の本質的な能力や価値観を深く探ることができません。優秀な候補者ほど「面接慣れ」していて、模範的な回答を用意している可能性が高いからです。
評価項目の細分化 「論理的思考力」「コミュニケーション能力」「リーダーシップ」など、評価項目を細かく設定し、それぞれを5段階で評価するような仕組みを作る企業も多く見られます。一見すると客観的で精緻な評価ができそうですが、実際には評価する側の認識がバラバラで、結果的に評価の信頼性が低下してしまいます。「コミュニケーション能力とは何か」「リーダーシップをどう測るのか」について、面接官同士で共通認識が取れていないことが原因です。
主観の完全排除 「感情的な判断を避けよう」「データに基づいて客観的に評価しよう」という意識が強すぎると、かえって重要な情報を見落としてしまいます。人間関係やチームワークは、ある程度の相性や「感覚」も重要な要素だからです。完全に主観を排除しようとすると、面接が機械的になり、候補者の人間性や組織適応性を見極めることが困難になってしまいます。
これらの問題の根本原因は、面接官が「自分が何を聞きたいのか」「なぜその質問をするのか」「その回答から何を読み取ろうとしているのか」を明確に言語化できていないことにあります。
なぜ「言語化スキル」が面接力向上の鍵なのか
優秀な人材を見極める面接スキルを向上させるために、最も重要なのは「言語化スキル」を身に着けることです。言語化スキルとは、自分の思考や意図を明確に言葉にする能力のことです。
面接の目的と評価基準を明確にする
言語化スキルを身に着けると、まず「この面接で何を知りたいのか」を明確にできるようになります。単に「優秀な人材を採用したい」ではなく、「当社の営業チームで成果を上げるために必要な、顧客との信頼関係構築力と継続的な学習姿勢を持った人材かどうかを見極めたい」といったように、具体的な目的を言語化できます。
目的が明確になれば、自ずと適切な質問内容も見えてきます。顧客との信頼関係構築力を見極めたいなら、「これまでで最も困難だった顧客とのやり取りについて、相手の立場や感情をどう理解し、どのようにアプローチしたか具体的に教えてください」といった質問が効果的でしょう。
候補者の回答から本質を読み取る
言語化スキルがあると、候補者の回答から表面的な情報だけでなく、その背後にある思考プロセスや価値観を読み取ることができます。例えば、「チームワークを大切にしています」という回答に対して、「具体的にはどのような場面で、どのような行動を取ることがチームワークだと考えますか?」と深掘りできます。釈迦に説法ではありますが、「具体的なエピソード」を語れない場合は、おそらくその経験をしていませんね。
さらに重要なのは、候補者が使う言葉の選び方や表現方法から、その人の思考パターンや価値観を読み取る能力です。「問題を解決しました」と言う人と「課題に取り組みました」と言う人では、物事への向き合い方が異なる可能性があります。こうした微細な違いを感じ取り、その意味を言語化して理解できるようになります。
以前、リーダー職の採用時に「前職ではメンバーを率いて、こういうプロジェクトを手掛けていました。メンバー全員に○○のタスクをやらせていました」と語った候補者がいました。この「やらせていた」という発言は、メンバーへの向き合い方を大きく反映している発言です。
面接官同士の認識を統一する
複数の面接官で評価を行う場合、最も重要なのは評価基準の統一です。しかし、多くの企業では「コミュニケーション能力が高い」「リーダーシップがある」といった抽象的な表現で評価基準を設定しているため、面接官によって解釈が大きく異なってしまいます。
言語化スキルを身に着けた面接官は、「相手の話を最後まで聞き、要点を整理して確認質問ができること」「意見の対立があっても感情的にならず、建設的な議論に導けること」といったように、具体的な行動レベルで評価基準を表現できます。言い換えると「○○できること」というフレーズで捉えることが大事です。これにより、面接官同士の認識のズレを最小限に抑えることができます。
実践的な言語化スキル向上の方法
面接後の振り返りを習慣化する
まずは、面接終了後に必ず5分間の振り返り時間を設けてください。「この候補者の印象はどうだったか」ではなく、「この候補者のどの発言や行動から、どのような能力や特徴を感じ取ったか」を具体的に言語化します。
例えば「感じが良かった」ではなく、「質問に対して結論から答え、その後に根拠を3つ挙げて説明していた。論理的思考力と相手への配慮が感じられた」といったように記録します。この習慣を続けることで、自分の判断の根拠を明確にする力が向上します。
言語化スキルが生み出す採用の変化
言語化スキルを身に着けた採用担当者は、面接の質が劇的に向上します。候補者からより多くの有益な情報を引き出せるようになり、その人の本質的な能力や適性を正確に把握できるようになります。
さらに、採用の判断根拠が明確になることで、経営陣や現場マネージャーへの説明も説得力を持つものになります。「なんとなく良い人だった」ではなく、「○○の能力が高く、△△の経験もあり、当社の□□という課題解決に貢献できると判断しました」と具体的に説明できるようになります。
結果として、採用のミスマッチが減り、入社後の活躍度も向上します。優秀な人材を確実に見極められる採用担当者として、社内での信頼度も高まるでしょう。
採用面接における言語化スキルの習得は、一朝一夕では身に付きません。しかし、日々の面接業務の中で意識的に取り組むことで、必ず向上していきます。まずは明日の面接から、「なぜその質問をするのか」を明確にして臨んでみてください。きっと、これまでとは違った視点で候補者を見ることができるはずです。
FAQ
Q: 面接時間が限られている中で、どうすれば効率的に言語化スキルを活用できますか
A: 面接前の準備段階で、「この面接で最も知りたいこと」を3つに絞り込み、それぞれに対する具体的な質問を1つずつ用意してください。そして面接中は、候補者の回答に対して「具体的には?」「例えば?」といった確認質問を1回は行うよう心がけてください。短時間でも深い情報を得ることができます。
Q: 他の面接官との評価のばらつきを減らすには、どうすればよいですか?
A: 面接官研修の際に、抽象的な評価基準を具体的な行動レベルまで言語化して共有することが重要です。例えば「コミュニケーション能力」を「相手の話を遮らずに最後まで聞ける」「要点を整理して簡潔に回答できる」「不明な点があれば適切に質問できる」といったように分解して定義してください。定期的な面接官同士の情報共有会も効果的です。
この記事を書いた人

木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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