シェアする

新卒採用の面接で「学生の本当の姿が見えない」「表面的な回答しか得られない」と感じていませんか?

多くの採用担当者が、学生の真の能力や人柄を見抜くために様々な面接技術を学び、質問パターンを増やしています。しかし、圧迫面接風の厳しい質問をしたり、奇抜な質問で学生を驚かせたりする手法では、むしろ学生が委縮してしまい、本来の力を発揮できません。

ぼくがこれまで2000社をサポートし、累計3万人を指導してきた経験から言えるのは、学生の本音を引き出すカギは「言語化スキル」にあるということです。面接官自身が自分の意図を正確に言語化し、学生にとって答えやすい環境を作ることで、真の人材評価が可能になります。

採用担当者が陥りがちな「3つの罠」

新卒採用の現場で、ぼくが最もよく目にするのが以下の3つのパターンです。どれも「学生の本質を見抜きたい」という真剣な思いから生まれているのですが、実際には逆効果になってしまっています。

まず「ストレス耐性チェック」という名目で行われる圧迫面接です。「そんな考えで本当に大丈夫なのか?」「君の経験では説得力が足りないのでは?」といった厳しい口調で、学生の反応を見ようとします。次に「創造性テスト」として、「あなたを色で表すと何色ですか?」「無人島に一つだけ持っていくとしたら?」のような、事前に準備できない質問で素の反応を引き出そうとする手法。そして「論理的思考力の確認」として、「なぜ?」「どうして?」を延々と繰り返す深掘り質問です。

これらの手法には共通の落とし穴があります。それは、学生に「面接官が何を求めているか」を推測させる構造になっていることです。特に新卒の学生は、まだ社会人としてのコミュニケーション経験が浅く、面接という特殊な状況で自分を適切に表現するスキルが発達していません。

結果として、優秀な学生ほど「正解探し」に集中してしまい、本来の思考力や人間性を発揮できなくなってしまいます。面接官は「主体性がない」「考えが浅い」と判断しがちですが、実は学生の本来の能力が発揮されていないだけという可能性が高いのです。

実際にぼくが関わった企業でも、従来の面接手法で「物足りない」と評価された学生が、言語化アプローチを取り入れた面接では驚くほど積極的で思慮深い一面を見せるケースが数多くありました。面接官が変わらなければ、優秀な人材を見逃し続けることになってしまいます。

学生の心を開く「言語化」のマジック

では、どうすれば学生の本音を引き出すことができるのでしょうか。その答えが「言語化スキル」にあります。

質問の「裏側」を見せる技術

最も効果的なのは、質問の意図を最初に明確に伝えることです。例えば、一般的な「学生時代に最も力を入れたことは何ですか?」という質問。これだけでは、学生は「何を答えれば評価されるのか」と迷ってしまいます。

そこで、こう伝えます: 「学生時代の取り組みについてお聞きするのは、困難に直面したときの思考プロセスを知りたいからです。成果の大小ではなく、どのように考え、どう行動したかを教えてください」

この一言で、学生は安心して自分の経験を語れるようになります。「サークルの部長をやりました」という表面的な回答から、「最初は部員のモチベーション低下に悩み、一人ひとりと話し合いを重ねて…」という具体的なプロセスを聞き出すことができます。

心理的安全性を作る言葉の力

学生の緊張を和らげるためには、共感的な言語化が効果的です。

「面接って緊張しますよね。ぼくたちも学生時代は同じでした。今日はあなたの良いところをたくさん見つけたいので、リラックスして話してください」

たった一言ですが、この言葉で学生の表情が明らかに変わります。「評価される」から「理解してもらえる」へと、面接に対する認識が変わるのです。

面接の「流れ」を共有する

面接の流れを事前に伝えることで、学生の不安を大幅に軽減できます。

「今日の面接は3つのパートに分かれています。まず自己紹介で5分、次に学生時代の経験について20分、最後に質問タイムを10分設けます。どの部分でも、分からないことがあれば遠慮なく聞いてください」

見通しが立つことで、学生は落ち着いて自分の力を発揮できるようになります。かつては(特に就職氷河期などでは)、企業側が学生を選ぶ立場でしたが、これからは学生に選んでもらえなければいけません。当日の雰囲気で進めるのではなく、優秀な学生に選んでもらえるように、しっかりとスケジュールを作って臨みたいです。

言語化で変わった面接現場

ケース1:IT企業の技術系面接改革

都内のIT企業C社では、従来の技術面接で「知識不足」と判断される学生が多く、結果として採用に苦戦していました。

改善前の問題点
面接官:「SQLについて説明してください」
学生:「すみません、詳しくは…」
面接官:「では、データベースの正規化は?」 学生:「申し訳ありません…」

この繰り返しで、学生は委縮し、面接官も「基礎知識が不足している」と判断していました。

言語化アプローチ導入後
面接官:「技術的な知識をお聞きするのは、未知の問題にどうアプローチするかを知りたいからです。知らないことがあっても全く問題ありません。むしろ、その時にどう考え、どう行動するかを教えてください」

学生:「SQLは学校で少し触れただけなので詳しくないのですが、データを効率的に取得する仕組みだと理解しています。もし業務で使うなら、まず基本的な構文を覚えて、実際に動かしながら学習していきます」

このように質問の意図や判断ポイントを言語化することで、回答の質が大きく変わりました。「知らない」ことを素直に言えるようになり、その上で自分なりの学習アプローチを語れるようになったのです。

ケース2:メーカーのコミュニケーション能力評価

大手メーカーD社では、「コミュニケーション能力」の評価が曖昧で、面接官によって判断基準がバラバラでした。

評価基準の言語化
従来の「コミュニケーション能力がある/ない」という評価を、以下の3つに細分化:

  • 傾聴力:相手の話を正確に理解し、適切な質問ができる
  • 表現力:複雑な内容を相手に分かりやすく伝えられる
  • 調整力:異なる意見を調整し、建設的な合意形成ができる

面接での活用例
面接官:「今からお聞きするのは、チームでの役割について知りたいからです。リーダーシップだけでなく、メンバーとしての貢献も同じように重要だと考えています」

この前置きにより、内向的だが思慮深い学生も、「私はリーダータイプではありませんが、チームメンバーの意見を整理して、みんなが発言しやすい環境を作ることが得意です」といった形で、自分の強みを伝えられるようになりました。

ケース3:営業職の面接における意欲の見極め

営業職の採用で「なぜ営業を志望するのか」という質問に、多くの学生が「人と話すことが好きだから」という表面的な回答をしていました。

質問の意図を明確化
面接官:「営業志望の理由をお聞きするのは、困難な状況でも粘り強く取り組む姿勢があるかを知りたいからです。営業は華やかに見えますが、実際には地道な努力の積み重ねが大切な仕事です」

学生:「正直、営業の大変さは理解しきれていませんが、アルバイトでお客様から感謝されたときの喜びが忘れられません。断られることも多いと思いますが、その経験を通じて成長したいと思っています」

質問の意図を明確にすることで、学生はより具体的で誠実な回答をするようになりました。

言語化スキルがもたらす「3つの変化」

変化1:採用基準が透明化された

言語化スキルを身につけることで、これまで「なんとなく」で判断していた採用基準を明確にできます。

従来の曖昧な基準 ・「主体性がある人」 ・「協調性がある人」 ・「成長意欲がある人」

言語化後の具体的な基準 ・「課題を自分で発見し、解決策を考えて実行に移せる人」 ・「異なる意見を尊重し、建設的な議論を通じて合意形成できる人」 ・「失敗を学習機会と捉え、継続的に改善行動を取れる人」

この変化により、面接官同士での評価のばらつきが大幅に減少します。

変化2:部署間連携が強化された

各部署の求める人材像を言語化することで、全社的に一貫した採用活動が可能になります。

営業部門の要求
「顧客の潜在ニーズを発見し、適切な提案で信頼関係を築ける人」

開発部門の要求
「技術的な課題を論理的に分析し、効率的な解決策を導き出せる人」

管理部門の要求
「複雑な業務プロセスを整理し、継続的な改善を図れる人」

それぞれの部署の特徴を言語化することで、配属後のミスマッチも大幅に減少します。

変化3:学生へのフィードバック品質が向上した

言語化スキルがあることで、不採用の学生に対しても具体的で建設的なフィードバックが可能になります。

従来の曖昧なフィードバック
「総合的に判断した結果、今回は見送りとさせていただきます」

言語化後の具体的なフィードバック
「技術的な基礎知識は十分ですが、チームでの役割を具体的に説明する部分で、もう少し具体例があると良かったです。次回は、実際のエピソードを交えて話していただくと、より伝わりやすくなると思います」

このようなフィードバックは、学生の成長にもつながり、企業の採用ブランディングにも効果的です。

まとめ

新卒採用の面接において、学生の本音を引き出すカギは「言語化スキル」にあります。従来の面接技術を磨くだけでなく、面接官自身が自分の意図や評価基準を明確に言語化し、学生にとって答えやすい環境を作ることが重要です。

ぼくが2000社をサポートしてきた経験から確信を持って言えるのは、言語化スキルを身につけた採用担当者は、確実に優秀な人材を見抜く力が向上するということです。そして、それは企業の未来を大きく左右する重要なスキルでもあります。

まずは明日の面接から、「なぜその質問をするのか」を学生に伝えてみてください。その小さな一歩が、採用活動の質を大きく変えるきっかけになるはずです。

学生の可能性を最大限に引き出し、企業の成長を支える人材を発掘するために、言語化スキルの習得をぜひ始めてみてください。

FAQ(よくある質問)

Q1: 面接で質問の意図を伝えると、学生が「正解」を探して建前の回答をするのではないでしょうか?
A1: 実際には逆の効果が生まれます。質問の意図が不明確だと、学生は「何を答えれば良いか分からない」という不安から、より建前的な、前もって準備してきた回答をしがちです。意図を明確にすることで、学生は安心して自分の経験を素直に話せるようになります。建前を避けるために「正解はない」ということも併せて伝えることが大切です。

Q3: 面接時間が限られている中で、質問の意図を説明すると時間が足りなくなるのではないでしょうか?
A3: 質問の意図を伝えることは、実は時間の節約につながります。学生が質問の真意を理解できれば、的確な回答を得られるため、何度も聞き返したり、追加質問で補足したりする必要がなくなります。結果として、短時間でより深い評価が可能になります。

この記事を書いた人

木暮太一 写真

木暮太一

(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

お問い合わせ

さまざまなビジネスシーンでお悩みのことはありませんか?
個人向けに3万人以上、法人向けに200社以上指導した
言語化メソッドと経験を用いて、御社のお悩みを解決します。
まずはお気軽にお問い合わせ下さい。

お電話でのお問い合わせはこちら

03-3542-3139

【受付時間】平日 9:00~18:00