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リーダーから部下メンバーへの指導は、ハラスメントにならないようにかなり慎重にされています。しかし一方で、リーダーが部下から受けるハラスメント対策はまだ手付かずの状態のように思います。そして部下から強く当たられているリーダーも増えてきました。特に昇進したばかりの新人リーダーにとって、部下からの逆パワハラは深刻な悩みです。

「この指示、意味あります?」
「前のリーダーの時は違いました」
「それ、ちょっと無理じゃないですか?」

多くの新人リーダーは、部下からの反発やハラスメント行為に対処したいと思いつつ、ほとんど何もできていません。態度を改めるように強く伝えると、すぐにハラスメントと捉えられてしまいます。部下の業務態度を修正することすらできないと悩んでいるリーダーも多くいると思います。

本記事では、2000社をサポート、累計3万人を指導してきた経験をもとに、部下からの逆パワハラを根本から解決する具体的な方法をお伝えします。

自分の状況と期待を明確に言語化する

逆パワハラを解決する第一歩は、自分の立場や期待を部下に対して明確に言語化することです。多くの新人リーダーは、自分の状況や考えを相手に伝えることができていません。

現在の立場を率直に伝える

新人リーダーとしての自分の状況を、部下に対して率直に言語化しましょう。隠そうとせず、正直に伝えることで信頼関係の基盤を作ることができます。

「ぼくはこの役職についてまだ○ヶ月で、正直分からないことも多いです。でも、チーム全体の成果を向上させる責任は感じています」

「経験では○○さんの方が豊富だと思います。ぼくの役割は、皆さんの経験やスキルを活かして、チーム全体として最大の成果を出すことだと考えています」

「自分が正解を持っているわけではない」と伝えることで、業務経験がある部下からの反発を和らげることができます。

具体的な期待値を数値化して伝える

抽象的な期待ではなく、具体的で測定可能な目標を言語化することが重要です。

悪い例:「チーム一丸となって頑張りましょう」
良い例:「今四半期は、チーム全体で売上を前年同期比110%にすることを目標にします。そのために、各自の専門性を活かした役割分担を明確にし、週次で進捗を共有していきたいと思います」

数値や期限を明確にすることで、部下は何をどの程度やればいいのかが分かり、納得感を持って行動できるようになります。

メンバーに明確な指示を出す

逆パワハラの多くは、指示が不明確であることが原因です。「いい感じにお願いします」などあいまいな指示をしてしまうと、「それってどういう意味ですか? ちゃんと言ってくれないとわかりません!」と反発を招いてしまいます。言語化スキルを活用して、相手が理解しやすい指示を出すことが重要です。

「ために」を3回繰り返して、指示を明確にする

ぼくらが使っている日本語は基本的に「あいまい」です。伝えてつもりで、何も伝えていないのが現状です。あいまいな指示を明確にするためには、自分の指示を「そのために~~をする」と3回続けることがポイントです。

「いい感じにしてください」は「いい感じにするために、~~~をしてください」と言い換えます。
でもまだ明確になっていません。なので「~~~をするために、×××をしてください」とつなげます。
そしてさらに「×××をするために、〇〇〇をしてください」と言い換えます。

これで完璧に明確化されるわけではありませんが、少なくとも最初の「いい感じにしてください」よりは具体的になっています。

背景と理由を説明する

指示と同時に、なぜその作業が必要なのかを明確に言語化しましょう。

「今回この分析が必要な理由は、来月の予算会議で具体的な改善策を提案するためです。○○さんの分析力を活かすことで、これまで見えなかった課題が明確になると期待しています」

理由が分かることで、部下は納得感を持って取り組むことができ、反発心も減少します。

期待する品質と時間を数値と「後工程」で表現する

曖昧な期待値ではなく、具体的な数値で品質や時間を表現しましょう。

品質について
「今回は初回なので、まずは全体的な流れを把握してもらえれば十分です。数値の精度は70%程度で構いません」
「この資料は役員会議で使用するため、数字の精度は99%以上、見た目も美しく仕上げてください」

時間について
「急ぎではないので、他の業務を優先して、空いた時間で進めてください。来週末までに完成すれば十分です」
「最優先案件として、他の業務は後回しにして取り組んでください。明日の午前中には完成させる必要があります」

さらにはメンバーが行ったタスクの後工程を伝えます。
「いまお願いしたタスクは、営業部がクライアントに提示する資料に使うものです。営業部がそのまま資料にコピペできる体裁で作成してください」
こうすることで、お互いの頭の中を共通認識化させることができます。

効果的なフィードバックで信頼関係を構築する

適切なフィードバックは、逆パワハラを防ぐ上で非常に重要です。言語化スキルを活用して、建設的なフィードバックを行いましょう。

具体的なポジティブフィードバック

良い行動や成果に対しては、具体的に何が良かったのかを言語化して伝えましょう。

悪い例:「良い仕事でしたね」
良い例:「昨日の会議での提案、特に○○の部分が具体的で実現可能性が高く、とても良かったです。データを使った根拠も説得力がありました。あの提案のおかげで、プロジェクトの方向性が明確になりました」

具体的なフィードバックにより、部下は何を継続すべきかが分かり、モチベーションも向上します。

チーム全体の方向性を言語化して共有する

個別の対応だけでなく、チーム全体の風土を改善することも逆パワハラ防止には欠かせません。チームの方向性や価値観を明確に言語化して共有しましょう。

チームの目標を言語化する

チーム全体が同じ方向を向くために、まずはゴールを言語化して共通認識化させます。

ただし、ゴールもあいまいな表現がすごく多いです。「良いチームを作りましょう」と言われても、具体的に何をどうすればいいのかわかりません。抽象的なスローガンを掲げても、行動できません。もっと明確にしなければいけません。

ゴールを明確にするとは、「『誰』が、~~~をできるようにする」という言葉で表すということです。

「良いチームを作る」とはどういう意味なのか? 誰が何をできることを指しているのでしょうか?
それを言葉にし、チームメンバー全員が目指せるようにしましょう。

チームの価値観を言語化する

ゴールと同時に共通人しかさせなければいけないのは「価値観」です。チームの価値観が共有できていないと、それぞれが自分の感覚で判断してしまうことになります。

ただ、「価値観」という言葉もまたあいまいです。「これが好き、これが嫌い」は単なる趣味嗜好です。それは価値観ではありません。価値観とは「べき論」です。そして組織の価値観とは、組織・チームが仕事をする上で持っている「べき論」です。

たとえば
・リモートワークは禁止で、全員出社するべき
・資料は見栄えも大事なので、カラーできれいに作るべきべき
・休日も自分の仕事の勉強をするべき
などです。

明示されているかどうかは別として、どんな組織でも「べき論」を持っています。これがズレていると感情的に反発し合ってしまします。まずはあなたのチームが持っている「べき論」をリストアップしましょう。そして、本当にそのべき論を適用するのか、チームメンバーと一緒に考えていくことが大事です。

言語化スキルで逆パワハラを根本解決し、強いチームを作る

部下からの逆パワハラは、新人リーダーにとって大きな試練ですが、言語化スキルを身につけることで根本的に解決できる問題です。重要なのは、表面的な対応ではなく、自分の考えや感情、期待を適切に言語化し、部下との信頼関係を構築することです。

ぼくがこれまで指導してきた3万人のリーダーの中で、最も成功しているのは「自分の考えを明確に言語化し、相手に分かりやすく伝える」スキルを持つ人たちでした。このスキルは、リーダーシップの基盤となるものです。言語化スキルの向上により、明確なコミュニケーションによる誤解や対立の減少、作業効率の向上、そして自分自身の判断力向上など、多方面での改善が期待できます。

逆パワハラに悩んでいる今この瞬間も、あなたの成長の機会として捉えることができます。まずは今日から、自分の感情や考えを適切に言語化することから始めてください。小さな変化の積み重ねが、やがて大きな成果となって現れることでしょう。言語化スキルを身につけることで、部下との良好な関係を築き、お互いが成長し合えるチーム作りを目指しましょう。それが、真のリーダーシップの第一歩となるのです。

FAQ(よくある質問)

Q: 言語化スキルとは具体的にどのようなスキルなのでしょうか?

A: 言語化スキルとは、自分の考えや感情、期待を相手に分かりやすく言葉で表現する能力のことです。具体的には、曖昧な表現を避けて具体的に伝える、相手の立場に立った表現を使う、論理的に整理して話す、感情と事実を分けて伝えるなどの技術が含まれます。このスキルにより、誤解や対立を防ぎ、建設的なコミュニケーションが可能になります。

Q: 自分より経験豊富な部下に対して、どのように言語化すれば反発を防げますか?

A: 経験豊富な部下に対しては、その経験や知識を認めた上で、リーダーとしての役割を明確に言語化することが重要です。例えば「○○さんの豊富な経験は本当に貴重で、チームの大きな財産だと考えています。ぼくの役割は、その経験を活かしてチーム全体の成果を最大化することです」のように、相互の価値を認め合う表現を使いましょう。

Q: 部下への指示が曖昧になってしまいがちです。どのように改善すればよいでしょうか?

A: 指示を出す前に、5W1Hの要素を一度整理してから話すことをおすすめします。特に「なぜ(目的)」と「どのように(具体的方法)」を明確に言語化することが重要です。また、期待する品質レベルや完成時期も具体的に数値で表現しましょう。慣れるまでは、指示内容を事前にメモに書いて整理してから伝えることも効果的です。

この記事を書いた人

木暮太一 写真

木暮太一

(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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