
「もう少し主体的に動いてほしい」
「いい感じにまとめておいて」
「何かあったら、遠慮なく相談してね」
職場でよく使われる言葉です。けれど、言われた側は、次に何をすればいいのでしょうか。
何をしたら「主体的」なのか。何がそろえば「いい感じ」なのか。相談したら、誰が何を変えてくれるのか。
ここが曖昧なままだと、相手は自分なりに補って動くことになります。そして、上司の想像とは違うものができあがる。
ぼくが考える言語化は、頭の中にある思考や意図、期待、判断基準を明確にすることです。職場では、それを相手と確かめ合うところまでが大切だと考えています。
2026年9月に公表された3つの調査・研究資料を、この観点から読んでみます。
経験がある人にも役割の説明は必要
パーソル総合研究所が9月25日に公表した「元管理職の社内キャリアに関する調査」は、従業員300人以上の企業で働く元管理職690人と現管理職500人を対象にしています。調査の実施は2026年6月16〜22日です。
元管理職のうち、上司による役割期待の明示が高い群では、パフォーマンスと役割への納得がともに高い「高適応群」が63.7%でした。一方、役割期待の明示が低い群では、高適応群は2割を下回っています。[1]
これは自己申告に基づく横断調査なので、説明の明確さが適応を高めたと断定はできません。それでも、役割期待の明示と適応に大きな関連があることは、注目する価値があります。
「管理職まで経験した人だから、わかるだろう」
そう思いたくなります。でも、経験があっても、役割が変われば、期待される貢献も変わります。
たとえば「若手の面倒を見てください」と言われても、毎日声をかけるのか、商談に同行するのか、相談を待てばいいのかはわかりません。
そこで、次のように具体化してみます。以下は調査の実例ではなく、ぼくからの提案です。
「今月は若手2人の提案書を週1回確認してください。答えを直すだけでなく、どこをどう判断したかを本人に説明してもらい、判断の抜けを一緒に見つけてください」
これなら、相手は期待されている行動を想像できます。さらに「どこまで自分で決めていいか」「何ができれば役割を果たしたと判断するか」も話し合えます。
指示と一緒に変更の理由を伝える
PwCが9月29日に公表した「Global Workforce Hopes and Fears Survey 2026」は、48か国・地域の就業者49,364人を対象に、2026年5〜6月に実施されました。
この調査では、変化を経験した働き手の18%が、その理由を理解していませんでした。[2]
方針が変わるとき、上司は「何を変えるか」を説明します。でも、部下が判断するためには「なぜ変えるか」も必要です。
たとえば「来月から報告書を簡潔にしてください」という指示。
目的がわからないと、部下は、とりあえず文字数を減らすかもしれません。上司が本当に求めていたのは、意思決定に必要な情報を探す時間の短縮かもしれないのに。
ぼくなら、こう具体化します。
「会議で判断に時間がかかっているので、来月から報告書の冒頭に、決めてほしいこと、選択肢、あなたの推奨案を書いてください。詳しいデータは後ろに残してください」
こうすると、短くする理由と、残すべき情報が見えてきます。
最後に「わかった?」と聞くだけでは、理解の中身までは確認できません。
「今回、何を変えるのが大事だと思いましたか」
「迷いそうなところはありますか」
相手の言葉で説明してもらうと、認識のずれを見つけやすくなります。これは調査で実証された手法としてではなく、調査を踏まえた実務上の提案です。
相談を受けた後の対応も言語化する
9月26日、学術誌 Occupational Medicine に、PSCという尺度のレビューが掲載されました。PSCは、働く人の心の健康を守るために、組織がどのような方針や行動を取っているかを測るものです。[3]
意見や懸念を安心して話せるという意味の「心理的安全性」とは別の概念ですが、職場のコミュニケーションを考えるうえで参考になります。
たとえば、「忙しくて、今週中には終わりません」と相談した部下に、上司が「話してくれてありがとう」と返したとします。
その返答に加えて、優先順位、期限、担当のうち、何を調整できるかも話し合いたいところです。
「Aは金曜までに必要です。Bは来週火曜に変更しましょう。Cは担当の変更を今日中に確認します。難しければ、明日の午前中にもう一度相談しましょう」
調整できない場合も、理由と次の確認時点を伝えることはできます。ぼくは、相談のしやすさを考えるとき、相談後に何が起こるかまで具体化したいと思っています。
研修では説明した側と受け取った側の両方を測る
この3つの資料を踏まえて提案したいのが、上司と部下が別々に書く演習です。
同じ仕事について、次の4点を書いてもらいます。
- 何のために行う仕事か
- いつまでに何ができていればよいか
- どこまで自分で判断してよいか
- 何を基準に成果を評価するか
答えを見比べると、「伝えたつもり」の中身を確認できます。ずれがあった項目は、その場で話し合い、合意した内容を残します。
研修の効果を見るなら、直後の満足度に加えて、1か月後に期待の一致度や、認識の違いによる手戻りを確かめる方法が考えられます。相談後に対応が決まった割合も、実務への定着を見る手がかりになります。
ただし、これは今回の資料から組み立てた測定案で、検証済みの尺度ではありません。前後比較だけで研修の効果と決めつけず、仕事量や配置の変更なども一緒に確認する必要があります。
「ちゃんと伝えたか」を振り返るとき、相手が何を理解し、次にどう動こうとしているかまで確かめる。
そこまで含めて、職場の言語化を設計していきたいと思います。
人事・研修ご担当者さまへ
管理職育成の必要性を、経営にどう説明しますか?
期待や判断基準のずれを減らしたい。その取り組みが事業にどう関係し、どんな変化を目指すのか。人事としての問題意識を、経営に伝わる提案へ整理する壁打ちをご利用ください。
課題の言語化を壁打ちする →施策や相談内容が、まだまとまっていなくても大丈夫です。
出典
[1] パーソル総合研究所「元管理職の社内キャリアに関する調査」。2026年9月25日公開。
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/former-manager/
[2] PwC「Global Workforce Hopes and Fears Survey 2026」。2026年9月29日公開。国際的な意識調査であり、日本企業だけの傾向や因果関係を示すものではありません。
https://www.pwc.com/gx/en/1/issues/workforce/hopes-and-fears.html
[3] Ali Afsharian・Maureen Dollard「Psychosocial Safety Climate (PSC-12 and PSC-4) scales」。Occupational Medicine、2026年9月26日公開。既存尺度のレビューであり、新たな研修効果の実験ではありません。
https://doi.org/10.1093/occmed/kqag116
この記事を書いた人
木暮太一
(一社)言語化コミュニケーション 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。
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