
現代のビジネス環境では、「リーダーシップ」のあり方が時代とともに大きく変化しています。昭和時代の典型的なリーダー像と、令和時代のリーダー像を比べると、組織文化や価値観の違いが浮き彫りになります。また、日本と欧米のリーダーシップ観を比較することで、普遍的に求められるリーダーシップの姿勢も見えてきます。ここでは昭和 vs 令和の日本におけるリーダーシップの変遷、グローバルに見る現代のリーダーシップ観、そして立場を問わず共通するリーダーシップの心得について解説します。実践的で共感しやすいポイントを押さえていきましょう。
離職の原因は「上司」が9割!?
リーダーシップを発揮することは業務生産性を上げたり、組織を一枚岩にまとめたりする「攻めの経営」のために重要です。しかし同時に、リーダーが適切でなければメンバーが辞めてしまうという実態もあります。人を辞めさせない「守りの経営」をするためにも、リーダーシップの理解が不可欠です。
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まず、日本におけるリーダーシップの定義と実践は、昭和と令和で大きく様変わりしました。昭和(1926~1989年)の高度経済成長期には、会社は家族同然という意識が強く、リーダー(上司)は家長的・父性的な存在でした。
たとえば松下電器(現パナソニック)創業者の松下幸之助は、社員を家族のように大切にし、企業は経営者や株主の利益のためだけでなく社会全体の繁栄に責任を負うべきだと信じていました。このように社員の生活や成長にも深い関心を寄せる一方で、昭和的な職場では上意下達が当たり前で、トップダウン型の指示に部下が黙って従うという風土が一般的でした。
リーダーはカリスマ性と厳格さを備え、「背中を見て学べ」と言わんばかりに自ら長時間労働や現場第一主義を体現する存在でもありました。社員は終身雇用と年功序列のもと会社に忠誠を尽くし、リーダーはその見返りに終身の雇用保障や家族的な保護を提供するという暗黙の契約が成り立っていたのです。
一方、令和(2019年~)の現代ではビジネス環境が劇的に変化しました。グローバル競争やテクノロジーの進化、さらにはリモートワークの普及や価値観の多様化により、昭和的な画一的リーダーシップは通用しにくくなっています。組織はフラット化し、プロジェクトごとに異なる専門性を持つチームが編成されることも増えましたね。
令和時代のリーダーには、変化の激しい環境下で柔軟に舵取りし、メンバー一人ひとりの意見を引き出して共創するスタイルが求められます。昭和的な「絶対的なボス」像から、令和的な「支援者・調整役」としてのリーダー像へとシフトしているのです。
例えば、かつてはリーダーが会議で一方的に方針を指示していた場面でも、今では部下や若手が自由に意見を言い、リーダーがそれを傾聴して意思決定に反映するのが望ましいとされます。
また、昭和的な根性論やパワハラまがいの指導は時代遅れとなり、令和では心理的安全性を確保しながらメンバーの能力を引き出すマネジメントが重視されます。つまり、日本のリーダーシップは昭和の「統率と献身」のモデルから、令和の「対話と多様性」のモデルへと移行しつつあると言えるでしょう。
海外における現代のリーダーシップ観
では、日本以外のグローバルな視点ではリーダーシップはどう考えられているのでしょうか。欧米を中心に、近年注目されているリーダーシップ像としてサーバントリーダーシップとトランスフォーマティブ(変革型)リーダーシップがあります。
- サーバントリーダーシップ(Servant Leadership): 1970年代にロバート・K・グリーンリーフが提唱した考え方で、「リーダーの使命はメンバーに奉仕することだ」という哲学に基づきます。従来型のリーダーが会社や組織の利益を最優先に考えるのとは異なり、サーバントリーダーは部下や社員の成長・ニーズを第一に考えて行動します。権限を独り占めにせず分かち合い、メンバーが持つ力を最大限に引き出すサポート役に徹するのが特徴です。その結果、メンバーは安心して自己成長に集中でき、組織全体のエンゲージメント(コミットメント)が高まり業績向上につながるというメリットがあります。リーダーはメンバーに「仕えられる」のではなく、メンバーに「仕える」存在であるという逆転の発想がポイントです。
- トランスフォーマティブリーダーシップ(Transformational Leadership): 日本語では「変革型リーダーシップ」とも呼ばれ、1970~80年代にジェームズ・マックレガー・バーンズやバーナード・バスらが提唱した理論です。こちらはビジョンによる感化や知的刺激を通じてメンバーに影響を与え、組織に変革を起こすリーダー像です。トランスフォーマティブリーダーは自己の利益を超えてカリスマ的な影響力やインスピレーションを発揮し、部下一人ひとりの内発的動機を引き出します。例えば、明確なビジョンを示し「自分たちは意義ある目標に向かっている」とメンバーに感じさせたり、新しい発想を奨励して知的な刺激を与えたりします。さらに部下個々のニーズに配慮し、部下一人ひとりが将来的に自らリーダーとなれるよう成長を促すのも特徴です。要するに、トランスフォーマティブリーダーは人々が自分自身をリードできるように導く人だと言えるでしょう。
これらの他にも、オーセンティックリーダーシップ(真正性のあるリーダーシップ)やシチュエーショナルリーダーシップ(状況適応型リーダーシップ)など様々な理論がありますが、現代のグローバルな潮流として言えるのは、権威や肩書きに頼らず人々の自主性や創造性を引き出すリーダー像が重視されているという点です。
欧米の多くの職場では、リーダーは絶対的な支配者ではなくチームの一員であり、ビジョンを示す人・調整役・コーチのような役割を期待されています。日本でも外資系企業や若いスタートアップ企業を中心に、こうした価値観が浸透しつつあります。グローバル化した現代では、国や文化を問わず「人を動かす」のではなく「人が動きたくなる」ように働きかけられるリーダーが求められているのです。
立場を問わず共通するリーダーシップの心得
最後に、経営者から新入社員の育成係に至るまで、立場を問わず求められる基本的なリーダーシップの姿勢について整理します。肩書きや役職に関係なく発揮できるリーダーシップとは、要するに人として周囲に良い影響を与える振る舞いと言えます。以下に、ビジネスパーソンが心得るべき普遍的なリーダーシップの心得を挙げます。
- ビジョンと責任感を持つ: 自分のチームや組織をどの方向に導きたいのかという明確なビジョンを示し、それに対する責任を引き受けます。リーダーはゴールを提示する灯台のような存在です。しかしビジョンは独りよがりではなく、メンバーと共有されて初めて意味を持ちます。方向性を示しつつ、結果に対して責任を取る姿勢が信頼につながります。
- 信頼と公平さを大切にする: リーダーシップの根幹はメンバーとの信頼関係です。信頼を築くためには、公平で誠実な態度が欠かせません。嘘をついたりごまかしたりせず、透明性を持って接することで「この人についていこう」と思われる土壌ができます。「公正と誠実」は時代を超えてリーダーに求められる普遍的価値です。
- 傾聴と共感: 部下や同僚の話に耳を傾け、相手の立場に立って物事を考える共感力も重要です。どんな立場のリーダーであれ、現場の声やチームメンバーの悩み・アイデアに真摯に耳を傾ける姿勢が信頼を呼びます。「自分の意見も尊重されている」と感じられれば、メンバーは安心して力を発揮できるでしょう。意見を傾聴し共感することは、メンバーのモチベーションを高め、組織の一体感を醸成します。
- 率先行動と謙虚さ: リーダーは模範を示す存在でもあります。自ら率先して行動し、チームに示しをつける「率先垂範」の精神は昭和から令和まで一貫して求められる心得です。ただし、だからと言って威張り散らすのではなく、常に謙虚な姿勢を忘れないことも大切です。成功してもおごらず、失敗から学ぶ謙虚さを持ったリーダーは、部下からも尊敬されます。
- 成長支援と自己研鑽: 部下や後輩の成長を支援することは、リーダーの重要な役割です。サーバントリーダーシップの考え方にもある通り、部下の能力開発を優先する姿勢が結果的に組織の発展につながります。メンバーの成長を後押しするために適切なフィードバックや挑戦の機会を与えましょう。同時に、リーダー自身も現状に安住せず自己研鑽を続ける姿を見せることで、チーム全体に学習と成長の文化が根付きます。
- 柔軟性と変化への適応: ビジネスは常に変化しています。市場環境や技術が変われば、戦略ややり方も変えていかなければなりません。どんな立場のリーダーでも、状況に応じて柔軟にアプローチを変える適応力が求められます。計画通りにいかない事態でも柔軟に対処し、メンバーとともに乗り越える姿勢が信頼を生みます。
大事なのは明確に考え、明確に示すこと
これらのリーダーシップ・マインドはとても重要です。しかし、それらが相手に伝わっていなければ意味がありません。ビジョンを示しても、それが相手に伝わっていなければいけません。信頼関係を構築しようとしていても、相手にその意思が伝わっていなければ無意味です。
日本企業にはこれまで、多かれ少なかれ「背中を見て学べ」という風潮がありました。明確に伝えない、明確に指導しない、そもそも明確に考えていないという状況下で仕事をしてきました。そのため、いざ明確にしようとしてもどうしていいかわからないのです。「あの人みたいなリーダーになろう」というモデルケースも少なく、「正解」がわかりません。
ここで必要なのが言語化スキルなんです。物事を明確に考え、明確に伝えるスキルです。ぼくらは学校でも社会でも、この言語化スキルを学んできませんでした。そのため我流で何とか頑張っていますが、それではやはり時間がかかりますし、うまく行かないケースが大半です。
そして一方で、言語化スキルは型をインプットすることで、簡単に身に着けることができます。ロジカルシンキングのような難しさはなく、型に当てはめて考え、型に当てはめて表現するだけでビジネスに必要な言語化スキルは身につきます。
リーダーシップを発揮するためには、自分の指示を明確にする姿勢が欠かせません。「自分はできている」と考えるのではなく、「もしかしたら曖昧になっているかもしれない」という視点で、見返してみましょう。
これらは肩書に関係なく明日からでも実践できるリーダーシップの心得です。リーダーシップというと大げさに聞こえるかもしれませんが、小さなチームのリーダーやプロジェクト担当者、新人育成係であっても、これらの基本を意識するだけで周囲に与える影響は大きく変わります。
おわりに
昭和から令和へと時代が移り変わる中で、求められるリーダー像は「命令するボス」から「支援するリーダー」へと変化してきました。欧米のリーダーシップ理論にも学びつつ、最終的に大切なのは人と人との信頼関係や思いやりといった普遍的な価値観です。昭和の時代に培われた献身や責任感と、令和の時代に求められる対話力や多様性受容の精神をバランスよく併せ持つことができれば、時代を問わず通用するリーダーになれるでしょう。ビジネスパーソンである私たち一人ひとりが日々の業務の中でこの心得を実践し、周囲に良い影響を与えていくことこそが、これからの時代のリーダーシップだと言えます。自分の立場でできることから一歩ずつ、現代にふさわしいリーダーシップを発揮していきましょう。
この記事を書いた人

木暮太一
(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事・言語化コンサルタント・作家
14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない!」状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。

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